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2.正真正銘のラストバトル

 魚料理をメインに扱っている食堂はメインストリートから少し外れた所にある裏通りだったのだが、そこに入ろうとした途端に早足で人影が1つ飛び出して来た。

「おうっ!?」

「っ!?」

 お互いギリギリで避けて事無きを得たが、セバクターとばっちり目が合ってしまったその人影の正体は……。

「あっ!?」

「あんたは……」


 しかし男はそのまま止まらずに歩き去って行こうとするので、セバクターは待ったとばかりに声をかけた。

「何だよ、俺は急ぐんだ!」

「そうは行かない。何故表彰式に来なかった?」

「ああ、俺はあの時も急いでた。あの後待ち合わせの予定があったんだよなー」

 そう言う男のセリフに対して、ふとセバクターはこう聞いてみた。

「……この後もか?」

「いや、これから宿に戻る。余り遅くなるとまずいだろ」

「……分かった、行け」

 セバクターは走り去って行く男の後ろ姿を目で追いながら踵を返した。


 孝司は宿へは戻らない。

 それよりもこの世界そのものとおさらばする時がやって来たと言う実感を感じながら昼間に自分が抜け出した闘技場へとやって来ていた。

 今は警備の兵士どころか人影の1つも無く、水を打った様に静まり返っている。

 夜中だから当然か、と孝司は思いながらも闘技場の裏手に回って2メートル程の壁をよじ登り、そこから裏口の扉を蹴り破る。

「……でやあっ!」

 掛け声と共に蹴り破った扉の奥へと進み、自分がトーナメントを勝ちあがって行った闘技場の舞台までやって来た。

(確か、あの時見つけた入り口は……あっちか!)

 本当の目的は武術大会に参加することでは無く、この闘技場に隠されている秘密に関しての情報収集が目的だった。

 孝司が捜し求めている入り口の奥には、重大な秘密が隠されているのだ。

 その秘密に今から触れに行く為に、舞台から降りようと孝司が1歩踏み出した……その瞬間!


「何処へ行く」

 突然視界の外から聞こえて来た声にハッとした孝司がその声の方向を見ると、そこにはすでに腰のロングソードの柄に右手をかけて臨戦態勢に入っているセバクターの姿があった。

「……やっぱり追って来たのか」

 何となく尾行されているかもしれないと思っていた孝司は、首を縦に振って確認する。

「何処へ行くと、聞いている!」

 その確認に怒声で答えたセバクターだったが、こんな一言で孝司は返す。

「答える訳無いだろーが。それにあんたには関係無いし」

「俺は騎士団長だから大有りだ。怪しい者は捕らえる。一緒に城まで来て貰う」

「やだね」

「なら実力行使だ」

 真顔で拒絶した孝司に、セバクターはそう言ってロングソードを抜こうとした。


 だが孝司はセバクターの後ろに向かって声をかける。

「おい、みんな来てくれ!!」

「!?」

 みんなと言う単語に、仲間が居たのかとセバクターは孝司の視線の先に気をそらしてしまう。

 しかしそれが孝司の作戦であり、セバクターにとっての命取りだった。

 何も変化が無い事に気がついたセバクターが孝司の方に視線を戻した瞬間、目に入ったのは茶色い孝司のズボン。

「ごっ!?」

 間髪入れずに物凄い衝撃がセバクターの上半身から顔面を襲う。

 セバクターが視線をそらした瞬間に孝司は走り出し、助走をつけたジャンプから空中で身体を上下逆に捻って、そのままセバクターに逆さ飛び込み膝蹴りを繰り出したのである。

「うぐぅ……」

 全く反応する事が出来ずに苦しみながら悶えるセバクターを尻目に、孝司はその入り口に向かって駆け出した。


 入り口の扉を開け、現れた階段を下へと駆け下りる孝司。そうして階段を下まで走り切り、体感的にはどうやら地下1階まで降りた様だ。

 そのまま続いて現れた扉もさっきと同じ様に思いっきり蹴り破り、現れた通路の奥へと突き進む。奥へと言っても100メートル位しか無い通路の先には、目測で大体畳40畳分位の広さの広場が。

 そしてその突き当たりの壁には孝司が探し求めていた、大きな緑の石がはめ込まれていた。

「あれだ……」

 そんな声を出しつつ孝司はその緑の石に向かって歩き出したのだったが、その瞬間背後から物凄く嫌な気配がしたので咄嗟に横っ飛びをして地面を転がる。


 そんな孝司のすぐ上を、1本のロングソードが飛んで行って壁に突き刺さった。

「てめぇ、しつっけーぞ!!」

「ならば俺と一緒に城へ来るんだな」

 回復して自分を追って来て、自分が孝司に投げたロングソードを壁から引き抜きつつ殺気だった声でそう言うセバクターを見ながら孝司はムエタイの構えを取る。

「大会のリベンジって奴なら、幾らでも受けて立ってやらぁ!!」

「面白い。が……今度はルール無用だ!」

 正真正銘、孝司にとってのラストバトルが始まった。

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