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1.エキシビションマッチ

 その日、エスヴァリーク帝国の帝都ユディソスにおいては1年に4回開かれている武術大会の第3回目が開かれていた。

 全国各地から腕に自信がある者が集まり、騎士団員の参加は不可能。

 それもその筈、この大会で準決勝まで残った上位4名までにはそれぞれ帝国騎士団への入団資格が与えられる事になっている。

 当然そうなれば帝国騎士団の人間も観戦に来る訳で、その中には騎士団長のセバクター・ソディー・ジレイディールの姿も見受けられた。

 彼は騎士団長と言うポジションである事から、その観戦場所も来賓席である。

 更に、優勝者とは騎士団長がエキシビションマッチを行う事も毎回の恒例行事だ。

 当然騎士団長が負ける訳にはいかないので、セバクターはそこで毎回勝利を収めて来ている。


 が、今回の優勝者は今までに見た事の無い戦い方をする人物であった。

 何と、武器の1つも持たずに肘と膝を効果的に使い、思い切りの良い破壊力のある攻撃で次々と相手を潰していく。

 セバクターも膝蹴りを使ったりするがあくまで素手での格闘戦はおまけみたいなものであり、武器を使わなければ戦場では生き残れない。

 それにプラスしてもう1つ、セバクターには驚くべき事があった。

(何であんなに軽装なんだ……?)

 普通、幾ら軽装と言っても胸当てや膝当てなどをつけて来るものではある。

 しかし今自分が対峙している男は防具の1つも着けていない。

 服の膨らみ具合から見ても、中に何かを着込んでいる様子も見受けられない。

(だが油断は禁物……か。前も同じ様な人間と勝負した事があるからな)


 それでも、丸腰の相手に武器を向けるのは気が引ける。

「武器は要らないのか?」

 そんな考えからセバクターはそう尋ねたが、男はきょとんとした顔をする。

「え? 貸してくれるの?」

「……それは出来ないが」

「じゃあ聞くなよな」

 男の言い方にセバクターは若干内心でムッとしたが表情には出さずに続ける。

「素手でここまで来たのは凄い。だが俺はそうは行かない」

 そんなセバクターのセリフに男は薄ら笑いを浮かべる。

「じゃ、こっちも何か手を考えないとな」

 そのやり取りが交わされ、審判の合図で両者が構える。

 ちなみに戦いがスタートするまで武器を抜いてはいけない決まりなのだ。


 セバクターは今までの男の戦い方を1回戦から全て見て来ている。

(この男は武器を相手が抜く前に先手必勝で何時も決めてくる。だったら俺は……)

 開始の合図が出されると共に、セバクターは一歩後ろに飛びのいてから武器を抜く。

 それを見た男は一瞬呆気にとられた顔をしたが、すぐさま今までの戦いと同じ様に自分に歩み寄ってくる。

(そっちから来るなら!)

 こっちも迎え撃つまで、とばかりにセバクターは遠慮無しにロングソードを振るう。

「うおう! くっ!」

 男はそれをギリギリで避け続けるが、何だか様子がおかしい。避けながらも何か変な動きをしている。

 その様子の違いを察したセバクターは一旦攻撃を止めて距離を置こうとしたが、次の瞬間男はセバクターの攻撃をかわしながら一気に白い上着を脱いでセバクターの両足を掬い上げた。


「っ!?」

 背中から地面に叩きつけられるセバクターではあったが、すぐさま転がって立ち上がる。

 だが男はそんなセバクターのロングソードが再び振るわれる前にぴったり接近し、セバクターの右手首を左手で掴んで武器を振るえない様にしてから顔面目掛けて右ハイキック。

 そのキックから左手を離し、左回りに回転して左の肘をセバクターの顔面へ。

 続け様に強烈な右肘をセバクターの脳天へ3回叩き下ろし、セバクターがよろめきながら怯んだ所で男は彼の足を踏み台にして上へと小さくジャンプし、重力の勢いを利用して両肘をセバクターの頭へと叩き落とした。

「ぐはっ……!!」

 何度も何度も頭部に肘を食らい、流石のセバクターもフラフラになってしまう。

 それを見た男は一気に勝負を決めるべく、ジャンプしながら身体を捻って回転させ勢いをつけてから全力の右のキックをセバクターの胸へとクリーンヒットさせる。

「ごふっ……」

 胸当てをつけているとは言えかなりの衝撃を食らい、この瞬間は試合続行不可能。

 騎士団長がこの瞬間、武器も持っていない人間に敗北してしまうと言う大番狂わせが巻き起こった。


 しかしその男は表彰式には現れなかった。

 何でも係員に「トイレに行って来る」と言い残したのを最後にそのまま戻って来なかったらしく、結局優勝者が不在のままで表彰式が行われた。

 それにプラスして男はトイレの何処にも見当たらず、優勝には興味が無いのだろうと言う形になった。

 ……のだが、セバクターは頭の片隅で何か引っかかりを感じていた。

(優勝には興味が無いなら、俺を倒すまでの事はしないと思うが……)

 そんな事を考えていたが結局埒があかないので、その引っ掛かりを抱えたままセバクターは城へと戻った。


 武術大会が終われば季節は一気に秋から冬へと向かう。

 なので城でも冬支度の準備が始められていた。

 そんな冬支度の準備をある程度済ませたセバクターは、武術大会で負けた事もあって鬱憤晴らしもかねて、夜の城下町で遅くなってしまったが夕食を摂る事にする。

(魚料理にでもするか)

 スタミナをつけるには肉料理が一番良いのだが、何だかそんな気分にセバクターはなれなかった。

 が、このチョイスがセバクターのこの後の展開を大きく左右する事になる!!

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