エピローグ.帰還の時
しかし、今までエンヴィルークとアンフェレイアの話を聞いていた男達から、また疑問の声が上がった。
「……そう言えば、何で地球の事まで分かるんだ? てっきり向こうの世界の話までしか分からないとばっかり思ってたけど」
「そうそう、それ俺も思ってた。ヘルヴァナールって言う世界の情報は神繋がりで入って来るって言ってたけど、何でアメリカとか日本の事まで分かるんだ?」
グレリスとエヴェデスがアンフェレイアにそう尋ねると、アンフェレイアは今までの話よりも更にインパクトのある事を言い出した。
『それは地球からも竜の波動を感じるからね。もっとも……全世界までは分からないけど、向こうの世界の創造主であるファーレアルの波動を地球から感じるから色々情報を仕入れる事も出来ていたのよね』
「へ?」
リオスが普段の佇まいからはイメージ出来ない様な間抜けな声を上げる。
「地球にドラゴンが居る? 私はそんな話なんて全く聞いた事無いがな」
アイベルクがそう言うと、うんうんと周りの地球人からも同意の声が上がる。
しかし、今度はエンヴィルークが地球人達にこう言った。
『ヘルヴァナールに現れたと言う異世界人達が、何らかの形でそのドラゴン達と関わりを持ち、そして地球へ帰還した。ドラゴン達まで何故地球に居るのかは分からんがな……。だから、御前達が地球に帰ってみたら後は自力で探してみると良い』
そのエンヴィルークのセリフに、レナードから1番聞きたい事が。
「私達は……地球に帰れるのですか?」
その答えは呆気無いものだった。
『ええ、帰してあげるわ。ただしその後の事はどうなるか分からないわよ。出来るだけ貴方達がこっちに来てしまった時間と近い時間に帰してあげるつもりだけどね』
「帰れるならそれ以上の幸せはありません」
アンフェレイアの回答にレナードがそう言ったので、この世界の神の力によって神殿に地球への出口を作ってくれるとの事だった。
だけど、最後にまだ聞いていない事があったのでそれをアイヴォスが聞いてみる。
「この世界に私達を呼んだのは貴方達なんですか? 呼んだとしたら何故私達だったんですか?」
それが1番気になっていた事なのだが、やっぱりここでも2匹の神は呆気無い答えを返した。
『私達が世界を回る訳に行かなかったからよ。貴方達はお互いに繋がりが強いみたいだったから地球から選んだの』
バウンティハンターの3人はともかく、合同演習如きで繋がりが強いと言われても……と軍人達は苦笑いだった。
ともかくこれで元の世界へと帰れる事が分かったので、後はさっさと帰して貰うだけである。
「この世界に来て2ヶ月弱しか居なかったけど……でも何だかんだで大冒険だったな」
「ああ。元の世界に戻った時の俺達がどうなってるか分からないが、戻れるだけでもありがたい」
ウォルシャンとエイヴィリンがそう言い合いながら、目の前に開いた地球への光のゲートを見据える。
エンヴィルークとアンフェレイアが作ってくれたその光のゲートは、まるで教会の天井から差し込む光の様に思えた。
「それじゃ俺達……帰るよ」
「色々世話になったな」
「……ああ、元気でな」
エイヴィリンとウォルシャンが、何時の間にかここまでやって来てドラゴン達の話を聞いていた白ライオンの村長とそれぞれ握手したのを切っ掛けに、他のメンバーも別れの挨拶を次々と交わして行く。
「……貴方に勝てなかったのが心残りですけど、良い経験させて貰いました、クリスピン団長」
「もし、またこの世界に来る事があればその時は受けて立つぞ」
「アンリさんもお元気で……」
「ああ、レナードもな」
「セバクター将軍、フォン隊長……この世界の事、後は任せたぞ」
「分かってる」
「そっちも元気でやってくれよ」
最後の別れを告げ、地球人達は1人1人が思い思いに手を振ったりサムズアップをしたりして感謝の気持ちを表現しながら地球へと帰って行く。
そして全ての地球人達が地球へと戻った後、セバクターが2匹の神に声を掛ける。
「それじゃ、こちらはこちらで事情聴取をさせて貰うぞ」
『ああ、分かったよ。約束だからな』
『聞きたい事は何でも聞いてね。……スリーサイズと体重以外は』
エンヴィルークとアンフェレイアの本当の人間達や獣人達との交流は、これから始まるのだ。
一方、無事に地球人達は元の世界に帰れた……のだが一部は無事じゃない事もあった。
合同演習に参加していた軍人達はそれぞれトリップして来る時間が違っていたのだが、同じ時間……つまり演習最終日まで時間が経過し、それぞれが気を失って倒れていたとの事で医務室に運ばれる結果となった。
総勢7人が同じ演習期間中に気を失っていたので何かのテロの可能性も疑われて大問題になったが、結局原因は分からないので「事故」として内密に合同演習内部だけで処理される事になった。
そして参加する前に家の片付けに向かったエヴェデスは、あの地下室で気絶したまま意識を取り戻したのだが、演習に参加しなかった事を後日上官から咎められて始末書を書かされる破目に。
グレリスは朝に気を失って倒れていたのを通行人に発見され、近くの病院のベッドで目を覚ました。
日本の2人は部屋で気を失っている所を、チェックアウト時間になっても出て行かない事に不信感を抱いたホテルの従業員に発見され、ホテルの近くの病院に運ばれて目を覚ました。
この3人に関しても日本とアメリカでそれぞれ色々と尋問が入ったものの、結局は「意識を失って倒れていただけ」と言う事で決着が付けられる事になった。
だけど、気を失って倒れていたのが事実だったとしてもあのエンヴィルーク・アンフェレイアへのトリップは決してその気絶していた時に見た夢の話、と言う訳では無かった。
何故なら「もし地球に帰る事が出来たら、お互いにまた会えると良いな」と言うウォルシャンのセリフが切っ掛けでエスヴァリークのフィランダー城でお互いのメールアドレスやSNSのアドレス等の情報を交換していたのである。
その情報が書かれたメモが、エンヴィルーク・アンフェレイアから無事に地球に帰って来た全員のポケットに入っていたのが何よりの証拠だからだ。
そしてその情報を頼りに、この11人の一生の付き合いがスタートしたのである。
人間と言うのは1人では何も出来ない程ちっぽけな存在でもある。
そして、物事の終わりと言うものは案外呆気無かったりする事も珍しくは無いのだ。
ファイト・エボリューションX~A Solitary Battle~軍人と賞金稼ぎが異世界に集団トリップしたら、不利な条件で次々に色々な事件に巻き込まれて行く件について~ 完




