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68.世を忍ぶ仮の姿

『人間の姿の時はペーテルと名乗っているが、それはあくまで世を忍ぶ仮の姿だ』

「そ、そうですか……」

 もはや何てリアクションをして良いのか分からないリオスだったが、出来るだけ簡潔にこのマスター……エンヴィルークとの関係を他のメンバーにも説明する。

「……と言う訳で他国への通行証まで貰いました。しかし、どうして貴方は俺に協力をしようと思ったんですか?」

 率直な疑問を口に出したリオスに、協力をしたエンヴィルークはこう返答した。

『魔力が無い人間に出会ったのは、俺がこの世界に生まれてから2回目だったからだ。だから面白そうだと思ってな。最初は本当に気まぐれでそこまでにしようと思ってたんだが……』


 そこで一旦言葉を切ったエンヴィルークは、アメリカ人とイギリス人のバウンティハンタートリオの方を見て再度口を開く。

『あのタワーの火災があっただろう? さっきのドラゴンの姿でその近くを偶然通っていたらそれが見えてな。かなり魔力が集まっている様な場所だったから何があるのかと思って近くに降りたら御前達3人に出会ったんだ。そして、御前達にも魔力が無いと知った』

「……だから俺達をエスヴァリークまで送ってくれたのか?」

 エイヴィリンの質問にエンヴィルークは頷く。

『ああ。そしてリオスにもまた出会えたから、俺は一緒にエスヴァリークまで送った。そしてその後に、もしかしたら他の国にも魔力を持たない人間が居るんじゃないか、と思ってルリスウェンで今度は御前に出会った訳だ。本当に偶然の連鎖だったんだが、まさかこんな大きな事態になるなんてな』

 ロシェルとクリスピンの方に顔を向けながら、ルリスウェンの時の事を思い出しつつエンヴィルークはそう言った。


 そしてその説明が終わると、今度はエンヴィルークと……黒髪でちょっとグラマラスな雰囲気を醸し出している女の姿になったアンフェレイアが自分の話をし出した。

『私はアンフェレイア。エンヴィルークと同じく、この世界を創り出したドラゴンの子孫の、もう1匹のドラゴンよ。このエンヴィルークと一緒にこの世界を監視しているの』

「……夫婦なのか?」

『ええ。今は結構もう冷め切ってるけどね』

 何とこの2匹、結婚していたらしい。

 質問した側のアイベルクは、今までずっと生きているアダムとイヴの様なものか……と何だか妙に納得して苦笑いが出てしまった。


 だけど一同にはもっと気になる事がある。

「神の竜にお聞きしたい。何故そうも簡単に人間の姿になる事が出来るんだ?」

 ルリスウェンのクリスピンがそう聞いてみれば、アンフェレイアはこう答える。

『私達は昔は人間と一緒に暮らしていて、そしてその人間達と接する内に元のままの姿じゃ不便があるから人間の姿になる事の出来る薬をその当時の魔術師達と一緒に開発したの。それを飲み続けていたら、今は身体を大きく仰け反らせるだけで人間の姿になれる様になったのよ』

「凄く都合が良いんだか悪いんだか……」

 さっきのアイベルクと同じく、苦笑いを漏らしながらアンリがボソッと呟いた。


 それに気が付かないままアンフェレイアは話を続ける。

『人間達が自分達の国を建国して、それがこの世界の大陸全体に広がって行くに従って私達ももう人間とは一緒に暮らさなくても大丈夫だ、と思ってこっちのエンヴィルークと一緒に、3年前にここに自分達の棲み処を造ってひっそりと暮らす事にしたの。時折り人間の姿になって、進化して行く人間社会の様子を見に行ったりしてたけどね。本当にひっそりと暮らすつもりだったから、魔術を使ってこの建物が人間や獣人達に見えない様に造ったの。だからここに獣人達が集落を造り始めても私達は気にしてなかった』

 だけど、とアンフェレイアの話が思わぬ方向に進む。

『2年前に突然、この家が地中深くに沈んじゃったのよ。それをカバーする様に上手く上の方で固い地盤が覆い被さったものだから、ずっとバレる事無く私がこの中で眠ってたの。ちなみに私達は一眠りすると軽く200年位は目覚めないんだけど、流石にその時は一体何が起こったんだろうと思って目を覚ましたらこうなってた』


 そう言いながらアンフェレイアがエンヴィルークを見ると、エンヴィルークはその時の事を思い出しながら呟いた。

『……その時は俺も、リオスと出会ったあの場所で店を開いていたからな。50年前から』

 だけどエンヴィルークはアンフェレイアとテレパシーのようなものが出来るらしく、今回の地盤沈下を聞いて一旦ここに戻って来た時に『私は無事だから』と言われたので再び戻ったのだとか。

『それで私はもう1度眠りについたの。空気は岩の隙間を通して少しずつ入り込んで来るから窒息する危険も無かったし。でもまさか万が一の為に用意しておいた魔術解除用の石版が、地盤沈下の影響で結界が破れたか何だか知らないけど見つかってしまうなんてね……』


 そんな身の上話をするアンフェレイアに対して、再びエンヴィルークが口を開いた。

『この世界の名前……エンヴィルークとアンフェレイアって言う俺達の名前から付けられたのは知っているな?』

「ああ、知ってる」

『実はそれ以外に、もう1つの神が居るんだ。名前をヘルヴァナール……もう1つ、別の世界を創った神だ』

「え?」

 エイヴィリンとウォルシャンはチラッとだけ聞かされていた事ではあったものの、他のここに居る人間達はキョトンとした顔つきになる。

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