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65.vs世界最強の魔術師の弟子

「ぬおっ!?」

「くっ!?」

 それは短剣。それもかなり正確な狙いであり、ウォルシャンとレナードの間を飛んで行った。

「だったら力尽くでもここで御前達を殺して、実験材料にさせて貰わなきゃな」

 エヴェデスから聞いていた話が2人の地球人の間にフラッシュバックする。

 カシュラーゼ騎士団の追撃から逃れて脱出する前には、魔力を持たない人間だと言う事で同じく実験材料にされそうになったらしい。

 その時の話の実態はこう言う感じだったんだろう、と思いながらも2人とも実験材料にされるのだけは御免なので、数の利を活かして乗り切る事に決めた。


 ロングソードを右手で振り被りつつ2人に斬り掛かって来るラスラットだが、左手では短剣をたまに投げて来るので油断がまるで出来ない。

 おそらく彼は両利きなのだろう、とウォルシャンもレナードも思いながら対抗するが、元軍人と現役軍人に負けず劣らずのパフォーマンスを見せ、尚且つ武器を持っているとは言え2人同時相手にしても引けを取らないラスラットはかなり強いと確信した。

 これは本気で行かなければまずい。

 お互いにそう感じた地球人2人は、数の差を活かしてとにかく手数で勝負を掛ける。

 パンチ、キック、それから投げられそうなら投げ技、組めそうなら組み技を積極的に狙って行くものの、ラスラットは苦戦する表情を見せながらもしっかり対応して来る。


「うおりゃあ!!」

「ぐえ!?」

「がはっ!」

 一瞬の隙を突いてジャンプしつつ空中で大きく開脚し、地球人2人を同時に蹴り飛ばすラスラット。

 蹴られた2人が同時に仰向けに倒れ込み、ダブルベッドで一緒に眠る夫婦の如く横並びになる。

 その2人目掛けてロングソードを振り下ろすラスラットだが、そこはゴロゴロとそれぞれが磁石の同じ極の様に素早く離れて回避。

 先に立ち上がったレナード目掛けて、彼のプロレスのお株を奪う様なドロップキックでぶっ飛ばす。

「げはっ!!」

 更にウォルシャンの大柄な身体から繰り出される速い攻撃も素早く回避し、足払いを掛けて彼を地面に倒して再びロングソードを突き刺そうとするが、これも間一髪でウォルシャンは回避。

「くっそ、強いな……」

「手加減なんて出来ねえよ、こりゃあ!!」

 レナードに肩を貸してやりつつ、目の前でロングソードを構えるラスラットを見据えるウォルシャン。


 でも、ここで諦めたら終わりだ。

 2人は顔を見合わせて頷き合い、再度ラスラットに向かって行く。

 ラスラットは自分のロングソードを振るうが、それを2人は左右に分かれて回避しレナードがラスラットのスネを蹴る。

 そのスネ蹴りで前屈みになったラスラットのアゴに、ウォルシャンの振り上げた右足がクリーンヒット。

「ぐひゅう!?」

 後ろにぶっ飛んだラスラットに追撃を掛けようとするものの、ラスラットも口から血を流しながらも懐から短剣を2人目掛けて投げる。

 それをギリギリ回避したものの、それによって出来た隙を突かれて懐に飛び込まれ前蹴りでぶっ飛ばされるウォルシャン。

 ウォルシャンは後ろにある大木に背中からぶつかりもだえ苦しむ。


 それを見てレナードがラスラットに向かって行く。

「ぐっ……」

 もう1度自分も加勢したいが、思う様に身体に力が入らずにウォルシャンは立ち上がれない。

「……?」

 だがその時、彼の手に何かが当たった。

 その方向を見てみると、劣化して折れてしまった太い木の枝……と言うよりも片手で握れるサイズの硬い丸太と言える様な物があった。

(……これなら武器に使える!)

 触っても何も起きないので、それを両手でガッチリ握り締めて戦う2人の方に向かう。


「おらああああっ!!」

「……!?」

 大きく振り被って、横殴りで丸太で殴りつけて来ようとするウォルシャンを見て、ラスラットはロングソードを振るうよりも早く反射的に屈んで回避。

 それを見たレナードがラスラットの後ろから近づく。

 ブンッと音を立てながら連続して振り回される丸太の2撃目を同じく屈んで避けて、3撃目を上体を反らして回避したラスラットのその後頭部を全力で蹴り上げる。

「ぐっ!?」

 後頭部への衝撃で強制的に頭を上げられたラスラットのその側頭部に、4撃目の丸太が今度はクリーンヒット。

「ぐえ!?」


 更に追い撃ちで5発目も同じ場所にクリーンヒットし、ラスラットはロングソードを手から落として頭を押さえてその場で立ったままグルグルと回転。

 頭への痛みで何が何だか分からなくなっているラスラットのその頭に、最後の1発で丸太が思いっ切り振り下ろされる。

「ぐあ……」

 頭から手が離れ、目をカッと見開いたままラスラットはゆっくりと地面に膝をついて崩れ落ちて絶命した。

「はぁ……はぁ……ゲームオーバーだ……」

 息も絶え絶えにウォルシャンがそう呟くが、レナードがふとある事に気がつく。

「……やばい、エイヴィリンが危ない! 後は任せる!!」

「えっ、お、おい……!?」

 駆け出したレナードに自分も着いて行こうとしたものの、再び身体に力が入らずウォルシャンはレナードにエイヴィリンを任せる事にした。

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