60.ガレディの行動理由
リオスの質問に対してそう答えるドラゴンだったが、いきなりそう言われても不安な気持ちばかりが地球人11人や、この世界の人間達4人には出て来てしまう。
「かなりの人数って言われてもピンキリだなー。何十人とか何百人とか?」
流石にそこまではあの小さな集落には居ないだろう、と言う期待を込めてのジェイヴァスの質問だったが、ドラゴンは悪い意味での予想外の答えを言い出した。
『いや……1000人は超えているな』
「1000人だと? 何故そんなに居るんだ?」
えっ、と言う顔つきで反射的にそう聞いたアイベルクだったが、ドラゴンにしたってその人数が何故あのルルトゼルの村に集まっているのかと言う事まではさっぱり分からない。
『俺に聞かれたってそんなの困るよ。だけどな、集落から溢れんばかりのそれだけの魔力がそこに集まっているのは確かだ。正確な人数も把握出来ない程の多くの魔力がここまで漂って来るって事は、それだけの人数を集めなければいけない事情が何かあるんじゃ無いのか?』
ドラゴンの分析に対して、今度はクリスピンが口を開く。
「確かにそこまでの人数を集めるとなれば只事では無いな。獣人連中が何かを企んでいると言う事なのか?」
考え込むクリスピンだったが、その様子を見ていたアイヴォスが口を開いた。
「そう言えば前に、あの獣人が私と一緒に食事を摂っていた時だったんだが……こんな事を呟いていたな。何時か獣人達も笑って暮らせる未来を俺達は作って行きたいんだ、と」
「笑って暮らせる未来……?」
何だそりゃ、とエヴェデスがキョトンとした表情で言う。
しかし、それに対して反応したのはセバクターだった。
「獣人達は人間と魔獣の混血だからな。人間でも無ければ魔獣でも無い存在だから、色々と蔑まれている事も多いんだ」
「ああ……」
そう言えば前にそんな話を聞いた気がする、とウォルシャンを始めとして、エスヴァリークでこの世界についてもっと詳しく教えて貰った他のメンバーも納得した様に頷いた。
それを考えると、段々と今回のガレディの行動理由にも繋がるものが見えて来る。
「何となく俺、読めたかも知れない」
「私もだ」
エイヴィリンとレナードが最初に納得したのを切っ掛けに、もしかしたら……と言う予想がワイバーン以外の15人と1匹の間に広がって行く。
ちなみに人間達の言葉を理解出来ないワイバーン達は町の獣舎に預けられ、再びやって来た休憩時間に対して存分に文字通り羽を伸ばしてバサバサと羽ばたくウォームアップをしたり、翼を畳んで地面に伏せて休んでいるとの事だった。
「獣人達がそうやって蔑まれて来たのはかなり長いのか?」
「ああ。獣人と言う存在が認識されるに連れて蔑まれたり差別されたりって言う事もあったから、かなり古い時代からそれは続いている」
クリスピンの回答に対し、質問した側のグレリスも納得して頷いた。
「だったらあの欠片を持ち逃げしたあいつは、集落で大勢仲間を集めて何かをしようとしているって事なのか?」
「あくまで憶測にしか過ぎないがその線は高いな。そうだとしたら何としてもあのガレディって獣人を捕まえて尋問しないといけねえよな、こりゃ」
ジェイヴァスがそう考えるが、まだいずれも仮定の段階なのでとにかくガレディから話を聞かなければ分からない、とロシェルが話を纏めた。
その他にもセバクターとフォンがエスヴァリークへ、アンリがリーフォセリアへ、そしてクリスピンがルリスウェンへと各国の騎士団の部隊を増援としてを要請する鷹を飛ばし、その上でこの町で装備を整えつつ増援を待つ作戦をドラゴンに提案する。
その援軍要請の提案に地球人達も軒並み賛成して、援軍到着までこの町で待つ事にした。
「備えあれば憂いなし」と言う言葉の意味をアイヴォスがみんなに教えたのもあって、何があるか分からない以上は装備を整えておけば心配無いと納得した上での結論だった。
「何か、ここに来てやたら駆け足ですね」
町の酒場の長いテーブルの一角でそう呟くロシェルに対して、彼と同じガラダイン王国軍所属のアイベルクと彼をここまで送って来たクリスピンが口を開く。
「全くだな。まさかここにロシェルが居るとは思ってもいなかったが、それ以上に違う世界に来てしまった事のショックの方が私は大きい」
未だに信じられないと言う口調でアイベルクがそう言うのだが、その隣に座っているグレリスからあっけらかんとしたトーンの声が投げ掛けられた。
「ここは俺達の世界とは違うんだ。俺達の世界じゃ通用しねー様な事があるのは当たり前の話なんだろうよ」
グイッと景気付けに酒を煽るグレリスだが、そんなグレリスの斜め向かいに座っているウォルシャンがそのセリフを耳にしてエヴェデスの方を向いた。
「俺は俺で、まさかナチスの格好をした人間に出会うなんて思わなかったけど」
エスヴァリークの城で出会った時にグレリスが真っ先に突っ込んだ事を、今度は同じヨーロッパ……しかも隣国であるウォルシャンにそう言われて、エヴェデスは戸惑いとムッとした感情が入り混じった表情で振り向く。
「だからこれは変装用だ。エスヴァリーク側に逃げた時の俺の格好はこの袋に入っている連邦軍の制服だからな。今日は丁度この格好してたから、こうして突然国外に向かうのにも余り心配はしていないが……でもそう言われてみれば、俺の爺ちゃんがナチスの軍人だった事も確かにショックだぜ」




