49.メリットも少しはあった
だけどそこでエイヴィリンにまた疑問が生まれる。
「迫害されてあそこに追われる身になったのなら、俺達人間を憎んでいるんじゃないのか? なのに俺達が集落に行った時には、初めて出会ったにも関わらず集落から追い出される様な事も無かったんだが」
ファーストコンタクトを思い出しながらエイヴィリンがその疑問をぶつければ、それに対して頷いたガレディが衝撃の事実を口にする。
「確かに、最初に見た時は何で人間がまた来たんだ……と思ったさ。あの集落は基本的に俺達のテリトリーだから、人間が迷い込んだら追い返すつもりでは居た。現にこれまでにアイクアルの北からルリスウェンの東に抜けようとした人間を俺達は追い返したり、集落を通り抜ける間中ずっと監視して通り抜けるまで見張っていたりしたもんさ」
(それはそれで嫌だな……)
通り抜ける間、あの集落中の獣人達からずっと見つめられ続けるのは精神的に宜しくないだろう……とウォルシャンは思ってしまった。
「だが御前達を一目見た時から覚えたその違和感……今も現在進行形でこうして覚えている、その魔力が無いと言う事に俺は唖然としてしまった。何故ならそんな人間は今まで見た事が無かったし聞いた事も無かったからな。だから村長の元へと案内したんだよ」
「じゃあ、俺達がもし魔力を持ったこの世界の人間と同じ体質だったら……」
「集落から追い出されてたって事か」
魔力が無いのはデメリットばかりだと思ってたが、そのおかげで追い出されずにこうして世界中をワイバーンで旅が出来ているのだからメリットも少しはあった様である。
エイヴィリンもウォルシャンも複雑な気持ちなのに変わりは無かったが。
そんな複雑な気持ちを抱えたまま宿屋で就寝し、その宿屋の朝食を平らげて天気を確認。
「晴れてるから行ける所まで行ってしまおう。本当ならリーフォセリアの隣国であるソルイールで一旦降りて休憩したい所だが、御前達の事を考えるとそれはまずいだろうしな」
「ああ、騎士団長殺しの仲間だと思われたら俺達もたまったもんじゃない」
エイヴィリンもガレディのセリフに同調し、ソルイール帝国をスルーしてその反対側の隣国であるイーディクト帝国の帝都グラディシラへとワイバーンを飛ばして貰う事にする。
空からのアプローチであれば一気に帝都まで行けるので楽と言えば楽だが、問題はその飛行時間である。
「飛ぶ前に言っておくが、ワイバーンでもかなり時間が掛かるぞ」
「……どれ位だ?」
ルリスウェンからリーフォセリアまで半日掛かった事を考えると、やっぱりそれ以上掛かるんだろうな……と予想していたウォルシャンの考えは当たったらしい。
「1日前後。早ければ明日の夕方には帝都グラディシラだ」
「うわ、長いな……」
がっくりと肩を落としながらぼやいたウォルシャンに、冷静な口調でエイヴィリンが諭した。
「1日中ワイバーンに飛んで貰うのだから無理はさせられない。俺達だって全速力で走り続ける事は出来ないだろう?」
「そりゃそうだけどよ……」
自分より年下の人間にそう諭される事について、一種の惨めさを感じながらもウォルシャンはワイバーンでイーディクト帝国へと向かって貰う事に納得した。
そしてこの時、地球からトリップして来た2人も獣人のガレディもイーディクト帝国に向かう事ばかりで頭が一杯だったのが原因で、リーフォセリアの遺跡についての話はすっかり頭から抜け落ちていたのが大きなミスだった。
そのミスに気が付いたのは、イーディクト帝国に辿り着いて帝都グラディシラへと入った後だった。
「ああ……そう言えばすっかり忘れてたぜ、ソルイールの遺跡の話……」
「今更戻るのは時間が掛かり過ぎるからな。先にまずはその魔力を持たないと言われている人間の行方を捜す為に情報収集をしよう」
入国審査についてはセキュリティの問題を疑う程に緩い……と言うよりも兵士が見張りを立てているだけでそんなもの自体が無かったのが幸いし、あっさりとグラディシラへと入る事が出来た。
何故なら今は秋祭りの最中であり、いちいち入国審査をする余裕が無いのだとか。
その代わりグラディシラ中の至る所に警備の兵士を立たせているらしい。
3人は人混みではぐれない様に気をつけながら、その魔力を持たない男についての情報収集をしている内に妙な話を聞いた。
権力者達が殺される事件が偶発し、そしてその犯人である盗掘団のリーダーを倒したのが魔力を持たない男であると皇帝が直々に謁見して確かめたのだと言う。
その男が自分達が探している人物であると確信した3人は男の行き先を聞いてみると、謁見が終わったのはついさっきで男は帝都を出て行ったばかりらしい。
「だったらすぐに追い掛けよう!」
エイヴィリンが真っ先に駆け出し、ウォルシャンとガレディもワイバーンに乗り込んで大空へと舞い上がる。
するとさほど時間を置かずに、グラディシラから南へと向かって1人で歩いている長い銀髪で黒いコートを着込んだ男の姿を、目の良いガレディが発見したのであった。




