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58.城の殺人

 その場所は意外と早めに見つかった。

 何故その厨房の場所が分かったかと言えば、運びこまれた料理の匂いが廊下にまで漂って来ていたからである。

 リオスが潜入を開始したあの窓の部屋を出て右に行き、その突き当たりを左に折れてみればそこから料理の匂いがして来たからだった。

(大体読めて来たぞ、このフロアに衛兵が居ない理由が)

 恐らく、秋祭り中の城の警備ではこんな人の利用が無い辺鄙な場所は使わないだろうと言う事だろうか。そして料理を運ぶのも使用人達だけでは手が足りない為、衛兵達もそちらの準備に駆り出されているのでは無いか? と言うリオスの考えだ。

(あくまで予想でしか無いし、間違っている可能性はあるがな)

 そして、その予想が間違っていたのだとすぐこの後に気付かされる。


「敵襲だーーーーーー!!」

 城の中に大声が響き渡り、非常事態を告げるのであろう鐘の音がカンカンカンとこれまた響き渡る。

「な、何だ!?」

 まさか自分の存在がばれたのか、とリオスは辺りをキョロキョロと見渡すがそうでは無いらしい。

 だが自分の存在がバレてしまう訳にもいかないので、ドタバタと騒がしくなる足音や怒声から逃れるべくリオスは料理の匂いがする部屋へと用心して、しかし素早く飛び込む。


 ……が。

「なっ……何だ、これは!?」

 寡黙なリオスがそんな声を思わず上げてしまう程、目の前に広がる惨たらしい光景。

 その部屋は料理の匂いが凄かった事から厨房である事は予想がついたのだが、中がその凄惨な光景で酷い事になっていた。

 何故ならその厨房の床には、既に事切れている人間が何人も転がっていたからであった。

(駄目か……)

 手袋を外して、1人ずつ脈があるかどうかを確認してみるがやはり息がもう無い。


(目立った外傷が無い事から、これは毒殺の可能性が非常に高いな。首にも絞められた形跡が無いし……)

 魔術による殺人と言う事も考えられるが、リオスはその知識が無いのでさっぱり分からない。

 そして先程の敵襲の叫び声と激しい足音は、恐らくこの殺人を引き起こした人間がこの城の何処かで暴れ回っているのだろうと言う事が容易に想像がつく。

 しかし、城の中でこれだけ暴れ回っているのであればすぐに衛兵達に捕らえられても仕方が無い。

(俺の出番は無さそうだ。ここは余計な事をせずに、城の人間に任せておいても平気かな)


 この惨状はもう如何しようも無いが、かと言ってこのままここに留まっていたら自分がこの厨房の人間達を殺してしまった犯人として追われてしまう可能性もある。

 なのでさっさとリオスはさっきの部屋の窓から逃げようとしたのだが、その時通路の奥のドアが騒々しく開いて何人かの足音が響いて来た。

(……まずい!!)

 リオスはその足音に対して、当然身構えてカポエイラのファイティングポーズを取る。

 しかし、そのドアから現れたのはどうやらこのセンレイブ城に勤務する衛兵の類では無い様であった。

 現れたのは顔を黒い布で覆い隠し、手に色々な武器を持っている明らかに怪しい集団である。

(こ、こいつ等はまさか……!?)

 いつぞやの街で、あのマスターから聞いた会話が思い出される。


「見た事は見たが、全身黒ずくめの衣装を着ていたし顔も黒い布で目の部分だけ出している風貌だったから、どう言う人物なのかまでは私も分からない。……でも、他にも仲間が居たよ」

「仲間が? ……何故分かる?」

「その主人を殺した人間は素早く逃げてしまったのだが、他の部屋を見回っていたら屋敷に火が放たれてね。その火を放ったのは赤い髪の毛が同じく顔を隠していた黒い布の間から出ていた人間だった。そして胸の部分が大きく膨らんでいたから恐らく女だろう。実行犯の体格は細身だったけど、胸の小さい女なのか男までかは分からない。その他にも書斎を荒らしていた大柄な体格の侵入者も居たから、複数犯だと言う事だけは分かったんだ」


 そんな会話を思い出したリオスは、無意識の内にその集団の目の前に立ち塞がった。

「どけええええ!!」

 黒ずくめの集団の内の1人、布でくぐもってはいるものの声からして男と分かる人間が同じく黒ずくめの格好をしたリオスにナイフを振り被って向かって来るので、リオスは振り被られたナイフに上手くカウンターで合わせる様にして垂直にジャンプ。そのまま胸と首に両足をドロップキックの姿勢で叩き込んでノックアウトさせた。

 そのキックで少しだけぶっ飛んだ男が、後ろから走って来ていた仲間を2人巻き込んで倒れる。

 この集団が恐らく、さっきの厨房の人間を殺した人間達と見て間違いは無さそうなのでリオスはその後もカポエイラのトリッキーかつアクロバティック、それでいてしっかりと相手の体勢を崩して追い討ちをかけたりと翻弄しながら集団を1人、また1人と倒して行く。

 廊下がそれほど幅が広く無かったのも幸いし、囲まれない様に戦う事が出来るのもリオスには好都合だった。


 やがて、何とか7人程のその集団を倒す事に成功したリオスは、この集団が出て来たドアの向こうを見つめる。

 そのドアの向こうから何者かが1人走って来る足音が聞こえる。

 そこから現れたのは、同じ様に黒い布で顔を覆った人間だった。

 その人間に、こうリオスは声をかける。

「何故こんな事をした? ……便利屋の、ホルガー!!」

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