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46.協力的な姿勢

 何とか遺跡最深部でのバトルも終了したものの、結局あの若者の男にはどうやら逃げられてしまった様である。

「……逃げられたか」

 エイヴィリンもウォルシャンも戦う事に精一杯で、気に掛ける事が出来なかった狼男の獣人ガレディもこの乱戦で生き残る事が出来た様である。

 手に持っている斧には血がべっとりと付いており、そこ等中で呻き声を上げて転がっている荒くれ者達や息絶えている者達の光景が広がっていた。

「……どうする? こいつ等」

「どうするもこうするも、このままって訳には行かないだろうしな。とにかく騎士団か何か……そう言う組織があれば通報するべきなんだろうけど……」


 困った様な顔つきをするアメリカ人とイギリス人に、ガレディがそれなら自分がやると言い出した。

「だったら俺が通報しに行くか?」

「やってくれるのか?」

「ああ、俺は全然構わんぞ。それに俺はこの世界の住人だから怪しまれる事も無いだろうし、遺跡の中を覗きに行ったらここに偶然出くわしたって事にしておけば何とかなるだろうからな」

「とりあえず俺達に何か疑いが掛かる様な事が無ければ何でも良い。それじゃあんたの好きな様に頼む」

「分かった」

 ワイバーンが飛ぶ姿、そしてこの遺跡に来るまでの過程で誰かに見られている可能性も否定出来ない。

 だったらその前に先手を打っておくだけでも大分この後の展開が違うと踏んだ。


 しかし、それとは別にやはり気になるのはさっきの黒っぽい髪の毛をしている若い男の事だった。

「結局あいつにパズルの欠片を持ち逃げされちまったからな。あれが無いと相当まずいんじゃ無いのか?」

「まずい所じゃない。この世界から2度と地球に帰る事が出来なくなる可能性が非常に高くなるぞ」

 ウォルシャンの疑問に、冷静な口調の中にも焦りが含まれているのが分かるそのエイヴィリンの分析が返って来た。

「あいつの行き先……分かるかな?」

「分かったらすぐ追い掛けられるが、分からないからこうして悩むんだろう」

 若者を追いかけて行く為には何も情報が無い。これでは追いかける事が不可能である。

「……とりあえず、今は次の遺跡へと向かう事が大事な気がするな。俺達の目的は元々それだろう」

「それしか無いか」

 エイヴィリンの次の行動の提案にウォルシャンも同意する。

 それを横目で見ながら、ガレディは耳をいじる仕草をしつつそっと呟いた。

「……本物だ」


 その呟きはエイヴィリンにもウォルシャンにも届く事無く闇の中に吸い込まれ、3人は遺跡の外に出る。

 空は雨が降る事も無く晴れ渡っていた。

「雨じゃなくて良かったな」

「ああ、これならワイバーンも飛ばせるが……その前にここの通報をしなければな。確か近くに町があった筈だからここで待っていてくれるか?」

「それは良いけど、何分位掛かるんだ?」

「んー、そうだな、30分もあれば何とかなると思うが」

「分かった。でもなるべく早く戻って来てくれよ」

「分かってるって」


 洞窟からすぐ近くに停めて置いたワイバーンの所まで戻ってその約束をし、飛び去るワイバーンを見てエイヴィリンが呟く。

「……あの獣人、何だか俺達に協力的になって来ていないか?」

「ああ、俺もそれは同感だな」

 最初こそウォルシャンとトラブルがあったものの、今ではすっかり協力してくれるスタイルになって来ている。

 しかし、その急激なスタイルの変化にエイヴィリンもウォルシャンも正直に言えば戸惑いを隠せないのもまた事実だった。

「通報してくれるって言ってたけど……まさかあいつ、俺達をこのままここに残してあの集落に帰ったりしねーよな?」

「そうだとしたら俺達はこの山を下りて、さっさと何処か村や町を探すだけだ」

 冷静な口調でエイヴィリンは、万が一の事態に陥った時の対策を頭の中で瞬時に導き出した。


 本当にそうならない事を願っていた2人は、その後もストレッチをしたりしながら時間を潰していたが一向にガレディが戻って来る様子が無い。

「……遅くないか、あいつ?」

「ああ、ちょっと遅いな。しかしまだ30分は経っていない筈だからもう少し待ってみよう」

「そりゃそうだけどよぉ……」

 待ち続けるだけの30分がこんなにも長く感じる事は、今までの人生の中で1度や2度では無かった。

 エイヴィリンも殺害対象として待ち伏せして奇襲を掛けるターゲットが出て来るまで、ひたすら待ち続ける事があった。

 ウォルシャンも軍の訓練でとにかく待機を命じられた事もある。


 だけどそれはお互いに目的があったから待ち続けられただけで、口約束だけでああして飛び去ってしまったガレディが「もーやってらんねーな」と言う気持ちにならない事を願いながらこうして待ち続けるのは精神的に来るものがある。

 その後もやっぱりストレッチをしたり、本当に軽いスパーリングをして時間を潰していたがガレディが戻って来る気配が無い。

「……なぁ、本当に俺達置いていかれたんじゃないか?」

「かも知れないな……」

 冷静な性格のエイヴィリンも流石に焦りを感じて来て、とりあえず後5分待って戻って来なかったらこの山を下りよう、とウォルシャンに提案した……その時だった。

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