44.壁画と殺気
結局その話を終えて、雨が止んだのは廃村に入った日から何と2日後の話。
つまり3日の間、3人はこの廃村の家で過ごした事になった。
2人とガレディの手合わせも何時かやる、と約束して雨が止んでいる今の状況を見計らってから3人は遺跡へとワイバーンで向かう。
レフォールの町から西の方に向かって、3日程歩いた山の中で発見された遺跡なのだとガレディは話した。
空からのアプローチだと山の中の遺跡から少し離れた場所に丁度ワイバーンが降りられそうな場所があったのでそこにワイバーンを停めておき、そこから少しだけ山を降りた所の中腹部の洞窟の奥、切り開かれた岩壁の奥にその遺跡の入り口はあった。
遺跡の中は崩れた壁やひび割れた床等のせいで、所々に岩があったり大き目の石が散乱していたりで非常に危なっかしい事この上無い。
なので用心して遺跡の中を手分けして探索して行く3人だったが、1番最初に最深部に辿り着いたのはエイヴィリンだった。
広さは大体バスケットボールコート位の広さがあるだろうその最深部で、エイヴィリンは奇妙な物を見つける。
「壁画……?」
芸術に疎いエイヴィリンには壁画の良し悪しはさっぱりだったが、それよりも何故こんな場所に壁画があるのだろうと疑問に思っていた。
とりあえず自分だけでは何も分からないので、別の場所を探索していたウォルシャンとガレディも呼び寄せる。
「壁画……かぁ……」
「何処かに欠片があったりするんじゃ無いのか?」
せっかくここまで来た上に、調査が入っているのかまだ新しい感じがする壁掛け式のランプが辺りを薄暗くではあるが照らしているので、3人は手分けして壁画の周りに何か無いか探し始める。
「おーい、何かあったか?」
「良いや全然。ガレディの方はどうだ?」
「これと言って何も見つからないな」
何も見つからなければ早くここを出たい所だ。
早くここを出なければ、このルリスウェン独特の気候である雨や曇りの天気の多さで、また雨によって足止めを食らって時間が掛かってしまう可能性が十分に考えられるからだ。
その時。
「……ん?」
耳の良いガレディが何かの足音をキャッチする。
「気を付けろ、誰かがここに来るぞ」
「え?」
「何だって……?」
一体何者がこんな場所にやって来るのだろうか?
「足音で区別出来るか?」
「ん……ああ、これは人間かもしくは獣人の2足歩行のどちらかだ。だが油断は出来ないぞ」
一気に最深部の緊張感がマックスまでアップする。
エイヴィリンとウォルシャンはそれぞれカンフーと太極拳の構えで身構え、ガレディは愛用の両手斧を油断無く構える。
すると、エイヴィリンとウォルシャンの耳にも確かにその足音が聞こえて来た。
緊張感がマックスを通り越してオーバーリミットしそうな位に心臓の鼓動が速くなる。
何故かは分からないが、得体の知れない威圧感が3人に襲い掛かって来ているからだ。
(何だ、この寒気のする様な奇妙な感じは……)
この遺跡自体が、最初のあのエレデラムのだだっ広い遺跡とは違って山の中にある場所で寒いから……なのかも知れない。
だけど実際にはもっとこう……シンプルに言ってしまえばエイヴィリンもウォルシャンもそれぞれ戦場で感じた事のある感覚……肌に突き刺さって更に巻きついて絡まる様な気持ち悪いこれはもしかすると。
(……殺気)
1度そう思ってしまうと、まさにそうとしか考えられない雰囲気を身に纏ったその持ち主がようやく3人の目の前に現れた。
「……んん?」
それは人間だった。
黒い髪の毛にやや色白の肌を持っており、この遺跡と言う空間に似つかわしく無い……もっと言ってしまえばその格好でこの遺跡の最深部までやって来たのか、と言いたくなる様な服装である。
薄暗いので正確な色までは判別出来ないが、恐らく黒っぽい青かもしくは紺色系統の上下の服に白っぽいワイシャツを着込んでおり、ネクタイの様な物を襟首に巻いている。
足には黒っぽいブーツを履いており、手にはめている手袋は手の甲が白で手の平部分が黒と言う一風変わったデザインだ。
顔立ちも薄暗いので正確には分からないものの、判別出来る限りではエイヴィリンと同年代位に見える。
そんな若者らしい人間の男は、3人の姿を見つけて疑問の声を上げる。
「他人が居るなんて思って無かったんだけどなぁ」
「……あんた、誰だ?」
ウォルシャンがそう尋ねてみると、男はキザっぽく髪を右手でかき上げて答える。
「まずはそっちから名乗るべきなんじゃ無いかなぁ。全くこれだから教養の無さそうな連中は困る」
「何だとぉ!?」
男のいきなりの言い草にヒートアップするウォルシャンだが、エイヴィリンはそんな彼とは対照的に冷静に男を分析していた。
「ここの遺跡に用事があって来たみたいだが、その口振りからするとあんたは何をしに来たんだ?」
エイヴィリンの問い掛けに対して、男は口を開くのでは無く行動で示す。
「俺はこれを探しに来たんだ。この遺跡に隠されているって噂が流れていた、秘伝の欠片って奴をな」
男は勝ち誇った様な口調で3人に目的を話す。
上着のポケットからガサゴソと取り出した、壁掛けランプの光を受けて不気味に輝くジグソーパズルの欠片を掲げて……!!




