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33.悪化魔術

 その後はウォルシャンもクマ獣人の相手になって貰いチャレンジしたものの、エイヴィリンと結果は同じだった。

 エイヴィリンよりも体格が大きい分ダメージは少なかったものの、それでも元々のパワーが違うのでぶっ飛ばされたウォルシャンはそのパワーに悶絶する結果となった。

 そしてウォルシャンはクマ獣人の足目掛けてローキックを繰り出したが、ウォルシャンの足の方が痛みが来てしまう位に硬かった。

 獣人と人間の間には大きな差がある様だ。

 この様な結果で防御魔術も自分にも相手にも効かないと判明した所で、最後は回復魔術の実験に入る。

「回復魔術って言うのはどう言う魔術なんだ?」

「その名前の通りだ。治せるのは初級魔術から軽い怪我やちょっとした疲労位だが、上級魔術になればなる程治せる怪我の程度が大きくなるし疲労も早く取れる様になる。丁度その者の攻撃を受けて身体に疲労と痛みがまだ残っているかも知れないから、回復魔術を受ける良い機会だろう」

 と言う訳でさっきの攻撃魔術で攻撃して貰った魔術が得意な獣人2人に今度は回復魔術をそれぞれ掛けて貰うエイヴィリンとウォルシャン。


 しかし。

「……何か、身体が重くなってる気がするんだが」

「え?」

「怠さと吐き気がアップして来た気がするから、もう止めてくれ……」

 何と回復する所か、むしろ更に体調が悪化している2人。

 まさかの事態に即刻で回復魔術実験を中止し、エイヴィリンとウォルシャンには魔術が効かないどころの騒ぎじゃ無い事実が発覚した様である。

「回復魔術でダメージ受ける奴なんか俺、初めて見た」

「私もよ……」

「僕もだぜ」

 口々に地球人2人への哀れみやら悲しみやら同情の言葉が獣人達から呟かれるが、エイヴィリンとウォルシャンはこれまでに無い絶望感を覚えていた。


 まさか回復魔術で自分の体調が回復したり怪我が治ったりする所か、その逆だなんて。

(これじゃ回復魔術じゃなくて悪化魔術だろう……)

 エイヴィリンが冷静に突っ込みを入れてみるものの、質の悪いジョークにもなりゃしない。

 体調不良になり掛けている2人の元に、更に村長から追い打ちのセリフが入る。

「この分だと、転送陣も転送装置も使えないだろうな」

「……ああ、さっき言ってたカシュラーゼ開発の?」

「そうだ。転送装置は魔力のある物や人を別の場所に移動出来る装置。転送陣は魔術でその転送装置と同じ役目をする物なのだが、魔力を持っていない御前達はやはり移動出来ないだろうな」

 実際にあの水晶玉に何も反応しなかったウォルシャンの事を考えてみれば、その転送装置も転送陣も同じ結果になるのは簡単に予想出来た。


 ともかく、これで自分達はこの世界で生きて行くのはかなり大変だと言う事が分かった。

 魔力が無いから魔術も使えない。

 武器と防具についてもどうやら魔力が関係している影響で、どちらも装備する事が出来ない結果である。

 更にやっぱり魔力が原因で転送装置と転送陣も使う事が出来ない。

 とどめに攻撃魔術が効かないとは言え、回復魔術も防御魔術も効かないのでこっちは少しの怪我でも魔術師に頼る事が出来ない。

 もしかしたらこの世界の何処かに、地球の医療テクノロジーを超えたこの世界の医療テクノロジーが存在するのかも知れないが……今までの武器や防具関係のやり取りや魔術関係のやり取りを考えると、どうしても悪い方に悪い方に……と考えが向かってしまうエイヴィリンとウォルシャン。

「文字が読めるのと言葉が通じるのが、俺達にとってはせめてもの救いって感じかな」

 冷静な口調でそう言うものの、内心はこれからの事を考えるとやはり気が気では無いエイヴィリン。

 その気持ちはウォルシャンも全く同じである。


 だが、そのエイヴィリンの呟きに村長が「ん?」と疑問を持つ。

「言葉が通じる……?」

「え?」

「ああ、言葉はしっかり通じてるぜ?」

 エイヴィリンは村長のセリフに疑問を持ち、ウォルシャンは戸惑いながらもその事実を認める。

 だが、村長を始めとした獣人達は何かがおかしいとまた疑問を持った様だ。

「待ってくれ、御前達はこの世界共通語のヘルヴァナール言語を使っているのでは無いか?」

「えっ? 俺達は英語で会話しているつもりだが……」


 どうやら地球人の2人と、この獣人達が会話をする際に話している言語は違うものであるらしい。

 最初の獣人の家で会話をした時から自然に会話が出来てしまっていた為に、今の今まで何も疑問を持つ事は無かったが、いざこうしてお互いに疑問を持ってみると「そう言えば……」と思う部分が出て来た。

「英語とは御前達の世界で使われている言語の事か?」

「ああ。でも英語以外にも沢山あるよ。俺達は英語しか喋れないけど、俺達の世界には確かええと……6000だか7000位の言語数があった気がするなぁ」

「そんなにあるのか!?」

「俺達も詳しい数は分からない。本当にごく一部の地域だけで使われている言語もあるし、もう絶滅寸前の言語もあるし。一応世界中で1番多く使われているのは中国語で、その次に俺達が使っている英語なんだけどな。世界共通語とも言われてるし」

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