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31.魔術って奴

「魔術を……?」

「そうそう。使うのが無理だって言うんだったら、せめて魔術って言うのがどんなものかを見てみたいんだ!」

 好奇心旺盛な表情を前面に押し出し、ウォルシャンは村長を始めとする集落の獣人達に願い出る。

「まぁ、別に魔術を見せるのは構わんよ。私達は日常的に使っているからな」

 その申し出は意外な程あっさりと承諾され、集落に住む獣人達の中で魔術が得意な者が2人呼ばれた。

「それじゃあまずは、宙に浮いて移動出来る浮遊魔術を頼む」

 村長がそう指示を出すと、獣人達は自分の足元に向かってそれぞれ手をかざしてブツブツと何か呪文を唱える。

 するとその次の瞬間、フワッと目の前で何の支えも無しに獣人達の身体が浮かんだ!

「なっ……」

「おおお、すげええ!!」


 ハリウッド映画でお馴染みのワイヤーアクションでは無く、自然な動きで空中に身体が浮かんでいるのだ。

 それも自分達の斜め上に。そして目の前で認識出来る距離に。

 更にそれだけでは終わらず、2人共に滑らかな動きで空中を斜めに移動してエイヴィリンとウォルシャンの目の前に下りて来た。

 とどめに下に降りて来たとは言え、空中に若干浮かんだ状態をキープしている。

 まさにマジックショーを見ている様なものだが、この光景はまさに現実に起こっている魔術である。

「風の魔術で自分の身体を浮かせて、空中を移動する事が出来る初歩的な魔術だ。歩き疲れてしまった時に便利なものだぞ」

 若干自慢げに村長がそう言うものの、エイヴィリンがここでこんな質問を。

「それは魔力が無い生物でも効果があるのか? 俺達も浮かせられるって言う……」

「ああ、多分大丈夫だとは思うぞ? 試してみようか」

 また顎で指示を出す村長。

 2人の獣人はその指示に従い、エイヴィリンとウォルシャンの足元にそれぞれひざまずいて手をかざす。

 そして呪文を唱え始めたのだが……何だか様子がおかしい。


「あれ? どうしたんだ?」

「浮かないぞ……!?」

 演技では無く、素の声色でびっくりしているのが伝わって来る足元のその会話にエイヴィリンもウォルシャンも戸惑い始める。

「……どうした?」

「おい、早く浮かせてくれよ」

「いや、それが呪文を掛けたんだが……何故浮かない?」

「は?」

 やっぱり何か様子が変だ。

 そう確信した獣人達は一旦エイヴィリンとウォルシャンから離れる。

「さっきから呪文を掛けているし、発動している証拠のサークルも足元にきちんと出ているのですがこの2人は何故か浮かないんです、村長」

「え?」


 獣人達の報告に、まさか!? と言った唖然とした顔つきの表情になる村長の白ライオン。

 次にアメリカ人とイギリス人の方を見つめて何かを考え込む。

 だがそんな顔で見られても、実際に自分達には何の変化も起こっていないのだから困る地球人の2人。

「何がどうなっているんだ?」

「俺達には魔術の効果が無いって事なのか?」

 もしかして、魔術と2人の関係についてはまだ驚愕の事実が発覚するかも知れない。

 そう考えた村長は、リスクはあるもののある実験をする事にしてみる。

「もしかしてなのだが、御前達に魔術の効果が無いと仮定すると……辻褄は合うな。御前達にちょっと実験をしたいのだが構わんか?」

「実験?」


 一体何をする気なんだ? と言う疑問が真っ先に頭に浮かぶエイヴィリンとウォルシャン。

「ああ。御前達に色々魔術を試してみて、その効果を試す。御前達相手で無ければ意味が無い」

「え?」

「いや、ちょっとそれは……」

 グレリスに聞かされた限りでの知識から引っ張り出したこの後の展開は、まさか俺達に攻撃する為の魔術を当てたりするんじゃあ……と言う疑問と不安が瞬時に頭の中を過ぎる。

 それをエイヴィリンとウォルシャンが村長に伝えた所、迷い無く村長は頷いた。

「ああ、その通りだ」

「いやちょっと待ってくれ。だったらどう言う魔術をどの程度の威力で当てたりするのかを聞きたい。俺達の命にも関わる問題だからな」

「そうだよ。それが無かったら俺達は実験に参加しないからな」


 いきなり「これからあなたを攻撃します」なんて襲い掛かって来るバカはいない。

 それが戦場でのお約束だからだ。

 格闘技のリング上ではゴングが鳴らされてスタートだが、実際の戦場では1人相手に10人で襲い掛かったり奇襲を掛けたりするのも当たり前。

 しかし、今は実験と言う事で実際に何をするのかと言う事をしっかり説明して貰わなければ、不安と恐怖に慄く(おののく)事になる。

 白ライオンの村長はそんな地球人2人に、攻撃魔術と防御魔術の効果があるかどうかを試して貰う事、使用する魔術は1番威力の低い下級魔術である事、急所は外す事、何かあった時の為に身構えておく事を説明した。

「さっきの浮遊魔術の結果を見ていて、もしかしたら御前達には魔術が効かないのでは無いかと思ってな。それが事実なら色々とメリットやデメリットが出て来るだろう?」

「……んー、その辺りの事情は良く分からないが……何かあったら本当にどうにかしてくれよ?」

 ウォルシャンが念を押して、そこからようやく実験がスタートする。

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