28.村長の言い分
「私が御前達の立場でもそう思うだろうな。だが、私がさっき何と言ったか覚えているか?」
「さっき……?」
「どっからの話だよ?」
正直説明に次ぐ説明で何処の話だか分からない。
「ほら、この世界とそれぞれの国について説明しただろう?」
「……って言われても、クイズ形式じゃ無くて普通に説明して貰えねーかなぁ……」
正直色々聞き過ぎて頭の中で纏めておくのも大変なのに。
だからさっさと要点だけ説明してくれとウォルシャンが頼むと、村長は頷いてギルドの不都合の説明をする。
「この集落にもギルドは小さいながらある。そこでも登録は出来るのだが、この世界のギルドは登録をする時に魔力の測定をするんだ。それによって登録したギルドの会員それぞれにどんな依頼が向いているかを判断する材料になるからな。魔力が多ければ多い程、魔術を使った依頼が優先的に紹介される様になっているんだ」
「え、って事は俺達は……」
「そもそも身体の中に魔力が無いから登録は出来ない。この集落に居る獣人達は俺達の事情を知っているが、他の国に行って登録しようとしたら……」
「大騒ぎになるだろうな」
村長のセリフの最後をエイヴィリンが代弁した。
「そう言う事だ。御前達は運が良かったのかも知れないな。これがもし他の国の王都とかであれば……それも、魔法王国カシュラーゼのギルドで登録しようとしようものならあっと言う間に拘束されて人体実験の対象になっていただろう」
この世界の住人である村長にそう言われると凄く説得力がある。
しかし、登録が出来ないとなれば仕事の世話もして貰えないだろうし獣人達の手を離れる事になった時から先の自分達が生きて行く術が見つからない。
「じゃあ俺達はこの世界でどうやって生きて行けば良いんだ?」
すがる様な思いでウォルシャンが問い掛けると、うーんと腕を組んで考え込んだ村長はやがてこんな案を出して来た。
「自営業ならギルドを通さなくても、商売の認可を取ればこの世界でやって行けるだろう。現に私も色々とそう言う人間や獣人を知っているし、この集落にある自営業の店もギルドを通していない。ああそれと先に断っておくが、獣人には獣人のテリトリーがある以上、人間である御前達をサポートは出来るがここに住まわせると言う事は出来ない。それだけは覚えておいてくれ」
つまり自分達で自分の食い扶持は稼がなければいけない。これは地球でもこの異世界でも変わらないのだった。
将来的に、地球に帰る事が出来ないと分かった時に直面する厳しい現実を聞かされた2人の元に、丁度タイミング良くそれぞれの獣人達が手に武器と防具を持って戻って来た。
剣、弓、槍、斧、魔術のロッド等の木製と金属製の武器、それから革製と金属製のそれぞれ材質が違う防具、そして銃。
どれもこれもこの集落にあった分のみではあるが、それでも2人が選ぶのであれば十分な種類である。
「おおー、けっこうあるじゃねえの?」
「ほう、これがこの世界の銃か」
ハンドガンとマシンガンがあったが、2人が知っている限りのどのメーカーの中にも当てはまらないオリジナルデザイン。
似ているデザインの銃が無い事は無いのだが、それを差し引いてもこの世界に銃があるだけでも妙な感動を覚えたのは2人の普段の職業からだろうか。
日本に行くなら銃を持っては行けないとの事だったので、普段から銃を携帯している2人はソワソワする場面もあったのも原因かも知れない。
「俺はこっちのハンドガンを使うか……」
「なら俺はこっちのマシンガンかな」
弾数に制限はあるのだろうか? やはり地球とは違う世界だから魔術を使って弾数無制限の銃だったりするのだろうか?
ワクワクドキドキしながら銃に手を伸ばしたエイヴィリンとウォルシャンだったが、次の瞬間彼等は別の意味でドキドキする事になってしまう。
バチィィィッ!!
「ぐあっ!?」
「うぐ!?」
エイヴィリンとウォルシャンが、それぞれハンドガンとマシンガンのグリップを握った瞬間、痺れる様な痛みが腕全体に広がる。
つまりそれはさっきと同じ現象が起こった事を、痛みと一緒に起こった音と光も合わせて2人に認識させた。
「わっ!?」
「何だぁ!?」
村長を始めとした獣人達も、再び目の前で起こったさっきの謎の現象に驚きを隠せないのは当たり前だった。
「……な、まさか武器も駄目なのか!?」
痛みを堪えながらもウォルシャンがそう言うが、まだ可能性はゼロじゃ無い。
「ま、待て。他にも武器は色々とあるだろう? 俺達はそっちを試してみれば良いじゃないか」
「それはそうだけどよぉ……」
何だか嫌な予感がしてしょうがない。
もしかしたら残りのこの武器達も同じく自分達の事を拒絶するかも知れない。
そうなってしまえばさっきの魔道具に続いて武器の装備も出来ないと言う事になってしまうので、この世界で生き抜くのは更に難しくなると言う事だけは分かる。
今まで戦いのフィールドに身を置いて来た2人だけに、戦う事が出来ない状況と言うのは逃げるだけになってしまう。
出来れば戦わずに済めばそれで良いのかも知れないが、魔獣とかが出ると言うこの世界ではどうしても戦わなければならない時もあるだろう。
なのに武器が使えないのは勘弁してほしい、と残りの武器達を見つめてから2人は顔を見合わせて頷き合った。




