24.3人(?)の行方
なかなかそう上手い具合に情報が集まらないのを実感しながらも、とりあえずその手配書があるのなら見せて貰えないかと頼む2人。
しかしその手配書も回って来て少しの間は保管しておいたらしいのだが、今の半年を過ぎてからは「もう見つからないだろう」との事で捨ててしまったそうである。
「魔力を持たない人間への興味がある、と言っていた割には行動が一貫しねーのな」
ボソッとそう呟くウォルシャンに、村長の白ライオンは苦笑いをこぼすしか無かった。
一方で、シルヴェン王国の男女のエピソードにはまだ少しだけ続きがあるらしい。
「ところで最初の……その知り合いが見たと言う男女2人組はそこで逃げ切っただけで無く、その後の騎士団との戦いでも騎士団長を倒してしまったらしいからな」
「えっ?」
また騎士団長の話? と思った2人だが、その後の獣人の話を聞いてみるにはこうだった。
「その2人はシルヴェン王国に突然現われ、騎士団に保護され、最終的に何故かその騎士団の連中と敵対関係になったらしい」
「敵対関係……」
「何か仕出かさないとそうはならないと思うが……」
思わずそれぞれの口に出てしまったセリフを聞き、獣人は手で2人を制する。
「まあ、話は最後まで聞いてくれ。その2人に纏わる話は王国の各地で噂になっていたらしくてな。南の村で村長の息子と男が戦ったとか、名高い盗賊団を相手に回してその頭を倒したのもその男だとか、誘拐されて脱出する時に女が活躍したとか……とにかく、魔力が無いと言うだけでも注目されやすいのに、色々とトラブルに巻き込まれていたらしい。最終的に騎士団と敵対関係になっていたのもそう言う類の話なんだと思う」
要するにトラブルメーカーの立場なのか、あるいはただ単にトラブルに巻き込まれやすい体質なのか。
どちらにせよ余り関わり合いたくは無いタイプの人間だ、とエイヴィリンとウォルシャンは同時に心をシンクロさせる。
「で、結局騎士団はその2人をどうしたんだ?」
「んん、それが……結論から言えば、トラブルを起こしていたのはその2人じゃなくて、騎士団の方だったんだ。王国の騎士団長が反乱を企て、極秘に進めていた計画を知ってしまったのがその2人だったらしい」
「そ、そうなのか……?」
だったらその2人のイメージが大分変わって来る。
「それを知ってしまった2人は騎士団に当然その命を狙われる。だが、彼等はまた別の仲間を集めてその仲間と共に騎士団に立ち向かい、最終的に男の方が騎士団長を倒したのは有名な話なんだ」
「そんなに有名な話なのに、何でその2人が見つかっていないんだ?」
3年前の話なので古い情報だからなのか? とウォルシャンが聞くが、獣人は首を横に振る。
「いや……その後の話は騒ぎをそれ以上大きくしない為に伏せられたらしくてな。その2人が自分達の世界に無事に帰る事が出来たのか、それともまだこの世界の何処かで生きているのか……真相は闇の中だ」
「何だよそれ……」
エイヴィリンが悔しそうに呟くが、獣人はその気持ちも分かると言う。
「俺も同じ気持ちだよ。そのシルヴェン王国方面から聞いた話だと、魔力を持たない人間達がこれ以上有名になると、それだけ世界から注目される事になってしまう。だから上手い具合に話を差し替えて、この世界の住人の間だけで起こったいざこざだったと言う事にしよう、と話が纏まったらしい」
「その割には差し替え切れてない気もするけどな」
ウォルシャンが冷静にそう突っ込めば、獣人も思わず苦笑い。
「確かにそうだな。かん口令が敷かれたらしいが、そうやっても口の軽い奴は止められない事もある。そうやって噂がどんどん広がったが、行方についてだけはそれ以上に厳重にかん口令が出されたらしいんだよ」
要するに、その男女もソルイール帝国の殺人犯と同じく行方不明らしいのだ。
「王都からどっち方面に向かったとか、そう言う情報はあるのか?」
「いや、その知り合いはそれも詳しくは知らないらしい」
「じゃあその2人も行方不明のままなんだ」
「ああ。こっちの情報についてはこれ位しか知らないぞ」
いずれにせよ、この世界にその魔力を持たない人間が3人居る可能性があると言う事だ。
これはなかなか大きな情報なのは間違い無い。
「そう言う理由で魔力を持たない人間は狙われる。御前達の様にこの世界の事を何も知らないまま出て行くのは非常に危険だろう。特に注意した方が良いのはやはり魔法王国カシュラーゼだ。あそこには近付かない方が良い。あそこは国民が全員魔術を使いこなせると言っても過言では無いし、王国騎士団も魔術師が権力を持っている者が多いからな。そこに魔力を持たないで生きている人間が行ったとなれば、カシュラーゼは何としても御前達を捕まえに来るだろうしな。あの国に長く住んでいる者達にとって魔術を否定されるのは、自分の存在や生き方を否定されるのと同じ事なんだと思う」
白ライオンが真剣な顔つきでそう言うと、アメリカ人もイギリス人もやはり頷くしか無かった。




