19.この世界で起こった戦争
「そう言えば、世界の説明はして貰ったけど国の説明はまだ全然して貰って無かったな。その辺りも色々と教えて貰えないか?」
この地図では色ごとに国が分かれている状態だが、この地図が何年前の物なのか定かでは無い以上は今の国の情勢が変わっているかも知れない。
それでも、少なくとも国の1つや2つはあるだろう。
世界を1つに纏めている、いわゆる「統一国家」状態なのか? それともこの地図から何も変わっていない状況なのか?
これから先、もし自分達が行動するとなればそれこそこの異世界から帰る方法を探さなければならないだろう。
だから、今聞けるだけの情報を聞いておく事でスムーズな行動が可能になる可能性が高い。
そんなエイヴィリンの申し出に対して、ああ……と何かを思い出したかの様なリアクションをして白ライオンは国の説明に移る。
「そうか。ではまずこの集落があるアイクアル王国の話からしようか。ちなみにこの地図は古ぼけてはいるが、今のそれぞれの国を示しているからまだ全然使えるぞ」
最後の方はやや自慢げな口調だったが、どうやらこの地図が現在の地図で間違いは無さそうである。
床に置かれたその現在版の地図を指差し、自分達が今居るアイクアル王国の話からスタート……する筈だったのだが、その前に何やら思い出した事があるらしい。
「あ、待てよ……先にこの世界で起こった戦争の事を話しておいた方が良いか」
「戦争?」
いきなり重い話になったなーと思いながらも、戦争に関してはエイヴィリンもウォルシャンも身近なものだ。
ウォルシャンは軍人故に、地球で生きる人間達の中では最も戦場と言うフィールドに近い場所にある職業に就いていた人間だった。
それからエイヴィリンの方も組織に所属していた時、別の意味の「戦争」……つまりは対立しているマフィアやギャングとの戦いの事を戦争と呼んでいた。
なので身近なものではあるが、この世界でも地球と同じ様に戦争が起こったと言う事なのだろうか?
2人がそう思ってすぐに考え付いたのは、かつて世界中を巻き込んだあの2度の世界大戦。
それからアメリカ南北戦争に、アヘン密輸販売で巨額の富を得ていたイギリスと、モンゴルと中国の合同国である清との間で起こったアヘン戦争……等だった。
この世界で起こったその戦争と言うものがどの位の規模なのかによって、地球の戦争に該当する話のスケールが違って来る事になる。
良いにせよ悪いにせよ、戦争が起こった事に対しては興味のあるアメリカ人とイギリス人に対して戦争の内容が語られ始めた。
「結論から言ってしまえば、その戦争は1つの国に対して多くの国が同盟を結んで攻め込んだ、一方的な侵略戦争だ」
「ほう……」
2人には地球でも色々と思い当たる節があるものの、ここは話を止めないで黙って聞き続ける事にした。
「ついでだからその戦争に関わった国の説明も一緒にしてしまおうか。まず戦争のターゲットになったのは今のこの地図の中にある、このヴァーンイレス王国だ」
地図の右下辺り、青色で囲まれたミドルサイズの国を指差す白ライオン。
「元々は軍事力よりも畜産や農耕が盛んな国だったから、周辺諸国から領土拡大の為に狙われていたんだ。この戦争の前に1度、隣の赤い国……エスヴァリーク帝国によってここは1度滅ぼされている。だが、国民の懸命な努力によって復興したんだ」
サラッと凄い事を言った気もするが、それよりも今は集団リンチまがいの戦争の話の方が大事だ。
「で……その復興した後にまた狙われたのか?」
ウォルシャンがそう聞くと白ライオンは頷く。
「ああそうだ。復興直後に油断した瞬間を狙ってな。そもそも2回目にこのヴァーンイレスを滅ぼした国は、そのヴァーンイレスと長年領土問題で揉めていたんだ。それでエスヴァリークの話を聞いて居ても立ってもいられなくなったのだろう。今度は同盟を組んだ他の国と一緒に一気に攻め込んで潰してしまったんだ」
その国と言うのが……と白いライオンが言いながら指を動かした先は、ヴァーンイレスの右上にある、海に囲まれている小さな横長の国だった。
「ここがその戦争を起こした全ての元凶、魔術王国カシュラーゼだ」
「魔法王国……」
名前に「魔法」とまで付くと言う事はいよいよメルヘンだかファンタジーだかと言うジャンルに分類されるんだろうな、と思ってしまうのが地球からやって来た2人。
「そうだ。このカシュラーゼは地図上だけで見れば小さな国だが、実は世界中に影響を及ぼしている国なのだ」
「そんなに影響が?」
しかしこれも地球に当てはめて考えてみれば、小さな国でありながら世界に影響を与える国と言うのは複数存在している。2人が旅行に行った日本も同じだった。
「ではどんな影響があるのかぜひとも詳しく教えてくれ」
そうエイヴィリンが願い出てみると、白ライオンはそのカシュラーゼがこの世界にもたらす大きな影響を話し始める。
「名前からもイメージ出来るかも知れんが、ここは魔術が盛んな王国だ。今、この世界の魔術に関してのテクノロジーを生み出したのがこのカシュラーゼ。いわば「魔術の祖国」とも言える存在だ」




