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16.失礼極まりないボディチェック

「ん?」

「え?」

 やっぱり何だか話がかみ合っていない。

 この状況はどう考えても色々とおかしいので、思い切ってウォルシャンは実験をしてみる事に。

「ちょ、ちょっと見せてくれ……」

「は? え、あ、おい!?」

 一体何をするのか、と狼男が思う暇も無くウォルシャンは彼の身体をベタベタ触ったり、首筋の辺りを指で触りまくって「偽物」なのか「本物」なのかを確かめてみる。

 失礼極まりない行為なのは間違い無い。

 しかしそれでも、それだけの事をしなければ納得出来ない状況が目の前にあるが故にウォルシャンも必死だった。


「おいおい、その辺りにしておけ……」

 エイヴィリンがウィルシャンの肩をグイグイと右手で引っ張って静止しようとするものの、ウォルシャンは軽いパニック状態だ。

「まさか……嘘、だろ……」

「何が嘘なんだよ、離せよ!!」

 狼男に半ば突き飛ばされる形でウォルシャンのボディチェックはそこで終わりを告げたが、それでもウォルシャンはブツブツと呟いている。

「……まさかな……」

「おいウォルシャン、一体何がどうなってるんだよ!?」

 年下だが冷静さではウォルシャンの上を行くエイヴィリンに、ウォルシャンはまるで絶望的な光景を見て来たかの様な顔つきでエイヴィリンの方を振り向いて呟いた。

「どうやらこの狼男……着ぐるみじゃ無いらしいぞ……」

「はぁ!?」


 物凄くテンションの低そうな、それでいて嘘は言っていないと聞き取れるその口ぶりにエイヴィリンも絶句する。

 その一方でベタベタと全身をウォルシャンに触られた狼男は不快そうだ。

「全くもう、御前等は一体何なんだよ!? 魔力は一切感じられないわ、いきなり人の家に来たかと思えば赤の他人の身体中ベタベタ触りまくるわで……」

 こうなったら色々と事情説明して貰わなきゃな、と狼男はピュイっと指笛を吹く。

 すると周囲の家からぞろぞろと、狼のみならず頭部がライオンだったりワシ頭だったりと言う様なまさに「獣人」の男達が出て来て2人の周囲を総勢10人程で取り囲んだ。


「くっ……」

 咄嗟に何時も持ち歩いているコルトパイソンに手を掛けた……つもりのエイヴィリンだったが、あいにく日本旅行に来る際にアメリカに置いて来てしまった事を思い出した。

 日本と言う国は民間人が銃器類を持つどころか、少し長めのナイフを持ち歩いているだけでも警察に事情聴取されてしまうという常識と法律のある国だと言う事で、生粋のアメリカ人であるエイヴィリンにとってはそこもまた理解出来ないポイントだった。

 結局そのまま抵抗も何も出来ず、獣人の集団に拘束されてしまったエイヴィリンとウォルシャンはその集落の中にある一際大きな家の中へと連行されてしまうのだった。


 その家の中には、2人を連れて来た獣人達よりも少し老けている……と言っても獣人の年齢層なんて2人はまるで分からないので自分達よりも年上の獣人であると言う事と、この集落のリーダー的な存在であると言う事位しか分からない、大きな身体に立派な毛並みをしている白いライオンの獣人が待っていた。

「我等の集落に入って来た人間と言うのは、御前達の事か」

 リーダーにふさわしい物腰の落ち着き様で、見知らぬ侵入者達に対しての尋問を始めるその獣人。

 だけど尋問をされている側の2人にとっては気が気で無いのもまた事実である。

 それでもその確認に対して、先に口を開いたのはウォルシャンの方だった。

「……この集落の事もそうなんだが、俺達は本当にここに迷い込んだだけだ。と言うよりも、ここが何処だかも良く分かっていない状況でな。俺達にとっては色々と常識から外れた光景があるみたいで、何が何やら頭がパンクしそうな状況なんだよ」


 何時もの豪快な性格は鳴りを潜めているものの、この家の中で複数の獣人に見張られながらもしっかりと答えを返すその姿勢は流石は元陸軍の軍人、と言う所だろうか。

 そんなウォルシャンの回答に対して、集落のリーダーである白ライオンの獣人は首を捻る。

「……そんな状況と言われても、おかしいと思うのはこちらも同じでな。まず、御前達は人間なのだな?」

「そうだが」

 この姿形を見て、一体何処が人間じゃ無いと言えるのだろうか?

 そんな疑問を持ちつつ返答するエイヴィリンに対し、リーダーの白ライオンはアメリカ人とイギリス人にとってデジャヴとなる単語を口から出す。

「だとすれば、何故御前達からは一切魔力を感じる事が出来ないのだ?」


 またそれか。

 エイヴィリンとウォルシャンの頭にはそんな言葉が即座に浮かぶ。

「魔力、魔力とさっきから俺達は聞かされているが、逆に俺達はその魔力がどう言うものなのかすら分からないんだ。魔力を感じられないって言うのはどう言う意味なんだ?」

「そうそう、俺達は今まで生きて来た中で1度もそんな事を言われた事が無いし意識をした事も無い。一体何なんだよこれは? 新手のイタズラか?」

 だったら大概にして欲しいもんだぜ、とぼやくウォルシャンに対して、リーダーの白ライオンはこう呟いた。

「このエンヴィルーク・アンフェレイアの常識すら教えられていないのか……?」

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