1.アメリカ人とイギリス人の日本旅行
2016年11月21日の朝。
世間一般で言えば1週間の始まりである月曜日なので、この曜日を嫌う人間も少なくない。
しかし、アメリカから遠く離れた東の国である日本にやって来たこの2人の男達に取ってはそんな事は関係無かった。
アメリカに帰れば曜日やシーズンが関係無い休みの不定休な仕事に従事している彼等は、1週間の休暇を取ってこうして日本旅行にやって来たのだから存分に楽しみたい気持ちで一杯だった。
「やっと着いたぜ、ここが日本か」
「ああ。1週間もあれば余裕で東京は回れるだろうから楽しもう」
何かと忙しい2人が一緒にこうしてバカンスを取れたのは1週間だった。
本音を言えばもっと長い期間のバカンスが欲しかったのだが、この所アメリカでは治安の悪化が叫ばれている地方があり、2人が活躍している地域もそこに含まれている。
自分達と良く一緒に行動しているグレリスを残して来てしまった2人だが、誘ってみた所グレリスは丁度その日新しいターゲットを追い込みに掛かる計画を立てているとの事だったので、こうして男2人っ切りのむさ苦しい旅になってしまった。
「あーあ、女の1人でも居ればなー」
「仕方無いだろう。俺じゃ不満か?」
「ああそうだな。そもそも日本に行かないかって誘って来たのはウォルシャンだろー。なのにむさ苦しい旅になりそうだぜ」
「やれやれ……」
「アメリカのノリにはついて行けない事がある」
とはウォルシャンの話。
「イギリスの細かい所には疲れる事がある」
のはエイヴィリンの話。
例えばジョーク1つ取っても、直接的に大声で話すアメリカ人とジョークを静かな口調で言うイギリス人。
アメリカでは銃社会だが、イギリスでは実は警察ですら銃を持っていない。
ポジティブ思考が多いアメリカ人に対し、ネガティブ志向が多いとされるのがイギリス人。
信心深いのはアメリカ人で、そんなでも無いのがイギリス人。
色々とインターネット上で比較される事の多いアメリカとイギリスの違いは、この2人にも当てはまる所と当てはまらない所があった。
しかもこの2人は元々殺す側と殺される側だった、と言う壮絶な過去を持っている。
元イギリス軍の軍人であったウォルシャンは、軍在籍時にエイヴィリンの組織の秘密である極秘情報を入手し、告発しようとした事からエイヴィリンに狙われていた過去がある。
軍の上司に許可を貰ってアメリカに逃げて来て、一時期デトロイトの廃墟に身を隠していたがそこで運悪くエイヴィリンに追い詰められてしまう事に。
それだけ執拗に追いかけて来ていたエイヴィリンの魔の手から逃れる事が出来た……と言う訳では無く、危うく殺される寸前だったウォルシャン。
だがその殺される寸前のシチュエーションで、これ以上は無いだろうと言える位の物凄いタイミングで2つの情報がエイヴィリンとウォルシャンそれぞれに飛び込んで来た。
1つはエイヴィリンの所属していた裏世界の犯罪組織が、そのイギリス軍を始めとするヨーロッパの連合軍主導によって潰されてしまった事。
そしてもう1つが、ウォルシャンの所属していたイギリス軍の部隊がその潰しに掛かった段階でエイヴィリンの組織に反撃される形で壊滅してしまった知らせだった。
この瞬間、2人には戻るべき場所が無くなってしまった。
エイヴィリンは自分の「居場所」だった組織が。
ウォルシャンは「何時か戻りたい」と思っていたイギリス軍の部隊が。
なのに両方とも同時に壊滅すると言う、良かったのか悪かったのか分からない結末を迎えてしまうと言う事になりその廃墟の中で2人は戦意喪失。
ウォルシャンはイギリス軍を除隊し、アメリカでバウンティハンターとして働き始める事にしたのだった。
そんな2人がアメリカから遠く離れたこの日本までやって来たのは初めてだからこそ、1週間しかスケジュールの都合が合わなかったとは言え思う存分楽しむつもりでこうして東京の地にまずは降り立った。
「さってと、まずは何処に行く?」
「浅草の雷門に行ってみるか。観光スポットとして有名な場所だからな。それからスカイツリーとか新宿とか渋谷とか見て回ったりして、最後は赤坂のホテルに泊まるんだろ?」
「ああ。それから明日は……ホテルに着いてからまた考えよう」
プランに関しては1日目から3日目までが東京都内、残りの4日間で千葉のテーマパークや横浜の中華街等を回って成田空港からダラスまで帰る予定だ。
時間に余裕を持ってスケジュールを組んだのだが、もっと時間に余裕があれば今度は東京だけじゃなくて大阪や名古屋等にも行ってみたかったのが2人の本音だった。
だけど1週間しか休みが取れなかったのだから仕方が無い。
東京を精一杯満喫して帰る。それが今回の日本旅行だ。
しかしまさかこの日本旅行が切っ掛けで、アメリカからやって来た20代の若者とイギリスからやって来た30代になりたての男が2人揃って一生忘れられない体験をしてしまう程の強烈な旅行になるとは、この時点では2人とも知る由も無かったのだった。




