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60(最終話).修羅場を乗り越えて

 爆風を受けながらも何とか着地したアイヴォスは、船着き場の小舟に乗ろうとしているコルネールを視界に捉えた。

「……ぬん!!」

 咄嗟に右手で小さい方の刀を引き抜き、コルネール目掛けて全力で投げつける。

「うお……っと!?」

 コルネールはそれを間一髪で回避し、刀は水の中に落ちる……かと思いきや普通に船着き場の足場の上に転がった。

「ちっ、運の良い奴だぜ」

「証拠隠滅の為に爆破したのか?」

「いいや、元々ここは爆破する予定だったんだよ。だけど予定が変わってもう必要無くなったから、炎の魔術で屋敷中に仕掛けた大量の火薬を発火させて、今ここでテメエを炎で焼いてやろうと思ったのによ……アーシアは黒焦げになっちまったみてーだけどな!!」


「元々爆破する……?」

 アイヴォスはコルネールのセリフに引っかかりを感じた。

「そうさ。ここは元々俺達カシュラーゼの連中を誘い込んで、大人数を一気に爆殺する為の罠の屋敷さ。アーシアはテメエに話して無かったのか?」

「……あ……」

 そう言えばアーシアが、あの部下の3人と戦う前に魔術関係での作戦とだけ言っておく……との話をしていたのをアイヴォスは思い出した。

「言っていた気がする。だが今の貴様はもうカシュラーゼの人間だから、その自国軍に被害をもたらす様な場所は破壊しておくべきだと?」

「勿論だ。戦争じゃそんなの当たり前だからな」


 そう言いながらコルネールは槍を構えた。

「アーシアは売りもんにならなくなっちまったし、テメエだけでも連れて行きたかったが……テメエを連れて行くと何だかややこしい事になりそうだからな。ここで死んで貰う。あの時の手合わせの借りもあるし本気で行かせて貰うぜ。どうせ俺は今よりもかなりの高待遇でカシュラーゼに迎えて貰えるんだからよぉーっ!!」

 さっき小さい方の刀を投げつけてしまった為、残る1本の刀で戦うしか無くなってしまったアイヴォス。

 それでもここで負ける訳には行かない。

 小さい方の刀を回収出来る距離では無いし、槍と比べればリーチに劣るが取り回しの良さではこちらが上だと信じて、炎で暑くてたまらないので着込んでいるローブを脱いでからコルネールを迎え撃つ。


 刀を構えて槍に対抗するアイヴォスだが、コルネールは流石に部隊長と言う肩書きをヴァーンイレス王国の軍人時代に貰っていただけあって並みの腕では無いらしい。

 あの手合わせの時よりも確実に強い。手の内を隠していたのか、それとも憎しみから生み出される底力か。

 この船着き場の足場は石造りでしっかりしており、場所も広いので槍を存分に振り回せる。

 だから縦横無尽に槍を振り回し、突きや薙ぎ払いの攻撃を繰り出す。

 そしてたまにキック攻撃を繰り出してアイヴォスを翻弄する。

(くっ……っ!!)

 キン、カキィンと金属が打ち合わさる音が船着き場に響き渡る。

 槍が振り下ろされて来るので、アイヴォスは地面をゴロッと転がって槍を回避するもののまたすぐに槍が襲い掛かって来る。

 その槍もギリギリで回避し、低い姿勢を利用しての足払いを繰り出そうとするがコルネールは咄嗟のジャンプで回避。


 もう1度槍が振り下ろされて来るので、それを両手を使って刀で受け止めるアイヴォス。

 刀が槍の勢いでたわみ、顔面の近くまで刃が近付く。

「……っ!!」

 アイヴォスも咄嗟の判断で、自分とコルネールのパワーが拮抗しているのとそのたわみを利用して刀と槍が交わっている所を中心に飛び上がってグルッと空中で横に1回転。

 コルネールはアイヴォスの全体重を、瞬間的にではあるがその両腕で支える形になった。

 刀と槍がまた離れ、槍を再びコルネールは突き出す。

 その突き攻撃を身体を捻って回避し、アイヴォスは右手の刀と槍を合わせたまま左手でコルネールの槍を持つ右手を手首の部分で握る。

挿絵(By みてみん)

 アイヴォスの左手がコルネールと彼の持つ槍の柄の部分を一緒に握る形になった、その瞬間!!

 バチィィィッ!!

「ぐわあっ!?」

 アイヴォスが握った部分から眩い光と音、そして痺れる様な痛みが2人に伝わる。


 コルネールにとっては未知の経験であり超常現象。アイヴォスにとってはまた起こった謎の現象。

 その痛みに思わずコルネールは槍を落としてしまうが、その超常現象を前に経験したアイヴォスは素早くコルネールの首目掛けて刀を振り下ろす。

「ぐぅ……っ!!」

 咄嗟に間一髪で自分の首と肩でアイヴォスの刀を挟み込むコルネールだが、アイヴォスはそのコルネールの姿を見て思いっ切り刀を自分の方へと斜め下に引っ張る。

「ぐはっ……!!」

 首筋を一思いに斬り裂かれ、コルネールは地面に倒れて目を見開いたまま動かなくなってしまった。

「終わった……」

 命の灯火が消えてしまったコルネールの死体を見下ろしつつ、アイヴォスは先程自分が彼に投げつけた小さい方の刀を回収する。

 未だに爆発炎上している屋敷の熱気を感じながら、火薬を使っているこの炎の熱さだけはどうやら本当らしいなと思いつつ、この場からさっさと立ち去る事を選んでアイヴォスは歩き出す。

 この町の人間達が、陽が沈んで行く中で突然現われた大きな灯火にビックリしているのを横目に見ながらアイヴォスは馬を預けた場所へと向かう。


 異世界からやって来た若きエリート将校は1つの大きな修羅場を乗り越え、預けた馬に再度乗り込む。

 そして、今度はゆっくりとエスヴァリーク帝国へと出発するのだった。


 9th stage(ヴァーンイレス王国):アイヴォス(剣術&空手)編 完


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