56.カタナで1vs3のバトル
槍を突きつけたままアイヴォスの挙動を監視するコルネールの元に、そのコルネールの部下が歩み寄って来てアーシアと同じくアイヴォスをロープで縛ろうとする。
しかし、そのロープで縛ろうとアイヴォスの手を持ち上げた時がチャンスだった。
「ぬん!」
咄嗟に身を屈ませて槍の先端から逃れつつ、コルネールの部下の顔面に頭突き。
更にコルネールが動き出す前にゴロッと床を転がって、一気にアイヴォスはコルネールに接近して攻撃を仕掛ける……筈だったのだが。
「おらっ!!」
咄嗟に動いた別のコルネールの部下が、アイヴォスの側頭部目掛けて強烈な前蹴りを繰り出す。
「ぐあっ!?」
アイヴォスは地面を転がり、飛び掛かって来たコルネールの部下2人に押さえ付けられてしまった。
「大人しくしやがれってんだよ!!」
床に押さえつけられながらも激しく抵抗するアイヴォスを見下ろし、コルネールは予定を変更した。
「この女の始末は俺がつけておく。お前等はこいつをしっかり縛り上げてカシュラーゼに送りつけておけ。商品だから丁寧に扱えよ」
そう言いながら、コルネールは芋虫状態となってしまったアーシアを大きな袋に入れてグイッと持ち上げ、建物の外に向かって去って行った。
「おい貴様、待て!!」
「逃がす訳ねーだろーがよ!! お前にはあの宿屋での礼もたっぷりしてやらねえとな!」
「何っ!?」
部下の1人からのそのセリフを聞き、アイヴォスの身体がこわばる。
「まさか、貴様は……」
「そうだ。俺はあの宿屋でお前に3人も殺されてるんだよ!!」
あの宿屋で真夜中に襲撃を掛けて来た4人組の内のただ1人の生き残り。口ぶりと態度からしてそれがこの男らしい。
あの時に回収した斧は今回もしっかり持って来ているらしく、蹴られたショックでまだズキズキする頭部の痛みを我慢しながら暴れるアイヴォスの視界に、ブラブラとその男の腰に括り付けられて揺れているのが目に入った。
それを見て、アイヴォスはこの修羅場を脱出する手立てを瞬時に思いつく。
(そうだ、あの時の……!!)
完全に押さえ込まれてはいないので、アイヴォスは全力を振り絞ってその2人の押さえ込みから少しだけ身動きが取れる状況まで身体の姿勢を戻す。
「く……っ!!」
そして自由になった左腕で、男の腰にぶら下がっている斧の柄を掴んだ……その瞬間!!
バチィィィッ!!
「うおおっ!?」
「ぐあっ!?」
突然の音と光、それから腰にぶら下げている斧の持ち主である男には腰に伝わる痺れる様な痛み。
アイヴォスの身体の上から拘束を仕掛けていた男達が離れ、ようやくアイヴォスも自由になった。
「何だ、どうした……がはっ!?」
倉庫の片隅で出発準備を整えていた3人目の部下の男がその異様な状況に気がついた時には、アイヴォスは既にその男に瞬時に接近して飛び込みながらのパンチを彼の顔面に繰り出す。
その顔面パンチで男が怯んだ所で更にミドルキックを入れてぶっ飛ばし、奪い取られてしまった愛用の刀を
2本とも回収しつつ引き抜く。
「せい、はぁっ!!」
掛け声と共に刀の鞘を、向かって来る部下の1人に投げつけて怯ませながらアイヴォスは刀を構えて素早く1人目に接近。
そこから部下の足を大きな方の刀で切断する。
「うぎゃあああああああっ!?」
切断した足に呆気に取られつつ絶叫する部下の胸に、その叫び声が不快だとばかりに小さい方の刀を突き刺して1人目を絶命させるアイヴォス。
刀を胸から引き抜いてみると、残りのコルネールの部下2人が同時に襲い掛かって来るのが視界に入ったので当然アイヴォスも応戦する。
斧使いとロングソード使いが相手なので、あの宿屋でのバトルと似た様な展開である。
しかし今回はアイヴォスの手にも武器があるし、宿屋の部屋よりも広いスペースでバトルをする事が出来るのでアイヴォスは存分に刀を振り回す。
パワーでは斧にもロングソードにも敵わないので、真っ向勝負での打ち合いは避けつつ適度に相手2人の攻撃を受け止め、そして反撃する展開だ。
それに刀を振り回すだけでは無く、時折りキック技もミックスしてアイヴォスは2人相手に全く退かない。
右から振られる斧の攻撃を受けつつ、その斧使いの腹にミドルキック。
左から来るロングソードを屈んでギリギリで回避し、その体勢を利用してしゃがんでハイスピードの足払い。
足払いのスピードを活かして勢い良く低い姿勢から飛び上がり、斧使いの頭目掛けてジャンプからの後ろ回し蹴り。
2人をほぼ同時に床に倒し、ロングソード使いが起き上がって来ようとする所に小さい方の刀を横一文字に振る。
その刀の軌道はロングソード使いの首を切り裂き、これで2人目も絶命。
「く、くっそーっ!!」
自分の仲間を2人とも殺されて自棄になった斧使いの男はもう無茶苦茶に斧を振り回すものの、アイヴォスはこの状況で持ち前の冷静さを取り戻していた。
大振りな攻撃で自分の元に向かって来た斧使いの男の動きをしっかりと読み、アイヴォスは斧使いの男の斧を持つ手を大きい方の刀で一刀両断する。
「う、うわああああああっ!?」
自分の右手が手首から先が無くなった事に唖然として、動きがストップしたその斧使いの男の喉に小さい方の刀を真っすぐに突き刺して貫き、この瞬間1vs3のバトルに決着が付いたのだった。




