49.治癒出来ない魔術
「そう言えばちょっと気になってた事があるんだけど」
「何だ?」
「魔術が見えない……って言ってたわよね、確か私とコルネールが魔術を見せた時に」
そのアーシアのセリフに、「ああそう言えばそんな事も言ったな」とアイヴォスも思い出した。
「それがどうかしたのか?」
「その時に私とコルネールがやったのは攻撃魔術だったんだけど、もしかして治癒魔術とか防御魔術も意味をなさないのかしら?」
「……と、私に聞かれても困るが……名前からするとどうも色々と手助けをしてくれる魔術の様だな。それはやってみないと分からないが、私の予想で言うのならば魔術そのものに私は効果が無い様だから多分その2つの種類の魔術に関しても効果は無いんじゃないかと思う」
先程の6人とのバトルの時には特に目立った怪我はしていないものの、細かい掠り傷程度なら幾つか付いている。
その傷をアーシアに伝えてみた所、「それなら治癒魔術をかけるわね」と言う事で治療をして貰える事になった。
「まず何処にかける?」
「ではここに治癒魔術を頼むぞ」
「分かったわ。それじゃ動かないでそのままじっとしててね」
そう言うとアーシアは何か呪文を唱えながら、アイヴォスの脇腹部分に手をかざす。
……しかし、アーシアの顔つきがどんどん怪訝そうなものに変わるまで時間は余り掛からなかった。
「どうも……貴方の言う通りこれは治癒魔術も効果が無いらしいわね……」
「……やはり駄目なのか?」
「ええ。普通なら手をかざして光が出て、そしてその光の中で傷口が塞がったりするんだけど……全然傷口が塞がらないのよ」
アーシアも怪訝そうな表情で、今しがた自分が手をかざした部分のアイヴォスの傷を見つめる。
攻撃魔術が効かないと言うのは、すでにアーシアもそれからコルネールもそしてアイヴォスも知っている事実であるが、この様子だとやはりアイヴォスが自分で予想した通り回復する為の治癒魔術もアイヴォスの体には無効な結果が出てしまったと言う事になる。
しかも、アーシアの言っている治癒魔術と言うのはただ単に傷を治せる魔術では無いらしい。
「身体の調子はどうかしら? 何かほらその……変わった感じとかってしない?」
「変わった感じと言うと?」
「ええと、治癒魔術って言うのは傷の回復だけじゃないの。神の加護がある魔術の力だから、傷を治すだけじゃなくて身体の疲労も一緒に回復させてくれるのよ。だから疲れが取れたって言う感覚とかは無いかしら?」
「ん……いいや、私としては特に何も」
「そう……」
治癒魔術をかけたのに疲れが回復していないと言うのは、傷が治ってない結果にプラスして魔術の効果が無い様子をありありとアイヴォスに伝えてくれた様だ。
それでも何かの間違いがあるのかも知れない、と思ったアイヴォスはアーシアに再度魔術の使用を申し出る。
「すまないが、もう1度私に治癒魔術をかけてみてくれないか」
「良いわよ。それじゃ今度はこっちの傷でやってみましょうか」
アイヴォスに指示されて治癒魔術をもう1度、今度は違う傷口にかけてみるアーシア。
しかし結果は変わらず、傷口は塞がらなかったし疲労が取れる感覚もアイヴォスには感じられない。
「駄目みたいだな」
「そうね。これで攻撃魔術も駄目だしそれから治癒魔術も駄目だし……となると後は……防御魔術も駄目かも知れないわね」
「そうかも知れないな」
それじゃ最後に防御魔術もこの際だから試してみようか、と言う事で両者の意見が一致する。
「防御魔術はその名前の通り、相手の攻撃を防いでくれる魔術の事ね。とは言っても永久的に防御を続けてくれる訳じゃなくて、何回か攻撃を受けたら効果が無くなってしまうのよ。防御出来る攻撃力の大きさもかける魔術の大きさによって変わるしね」
「ほう。ちなみに最も効果が高い防御魔術だと何回位どれ位の攻撃を防御出来るのだ?」
「うーん、確か世界一の魔術師だと防御魔術だけでも大型の魔物の攻撃を10回は魔術や直接攻撃問わず防げるって話だけど……」
「魔物?」
この世界の事をまだ全然知らないアイヴォスにとって、魔物と言う単語は初耳かも知れない。
いや、何処かで魔物と言う単語を聞いたかも知れないが度重なる修羅場だったり未知の経験ばかりで忘れてしまっている可能性も否定出来ない。
なのでこの際だから……と防御魔術を実験する前にちょっと魔物について聞いてみる事にする。
「実験の前に、その魔物とはどう言う存在なのか聞かせてくれないか?」
「あれ、貴方に説明して無かったかしら?」
「恐らくしていなかったと思うが」
「あーそうだったっけ。じゃあその魔物について説明してから防御魔術の実験に入るとしましょうか」
その単語を聞くだけだと、地球ではそれこそファンタジーの世界にしか出て来ない様なものだと言う漠然としたイメージがある。
前に日本文化について勉強した時に知った「ヨウカイ」と言う日本の伝説上の生き物みたいなものだろうか、とイメージしながらアイヴォスはアーシアの魔物の説明を聞く事にした。




