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48.密偵と作戦

 鞘に刀を納めつつも淡々とした口調でそう言うアイヴォスに、アーシアは1つ溜め息をついてから衝撃の事実を話し始める。

「さっきの男達は全員、カシュラーゼに潜り込ませている密偵達よ。色々とカシュラーゼの情報を集めて来てくれるの。他にもまだまだ居るわ」

「密偵……」

 スパイとしてカシュラーゼ軍にヴァーンイレス王国軍の人間や獣人が潜り込んでいると言う事らしいが、口で説明されてもそれが嘘だと言う可能性も否定出来ないのもまた事実。

「その証明は出来るか?」

「ええ。その時の報告書があるからね。それを貴方に見せれば解決でしょ?」

「なら見せてみろ」


 やはり淡々とした口調で要求するアイヴォスに、アーシアは仕方無いわねーとぼやきつつも自分のズボンのポケットからコンパクトに纏められた数枚の紙の束を引き抜いて広げる。

「ほらこれ。その気なら全部読んで貰っても構わないわよ」

「では少々拝見させて貰おうか」

 受け取ったその紙の束をアーシアの目の前でチェックし始めると、そこには確かに今までのカシュラーゼ軍の動向だったり受け取った品物の数だったり、これからカシュラーゼ軍がどの様な動きをするかと言う事が簡潔に、しかし分かりやすく書かれている。

「どう、それで満足した?」

「……ああ、問題無い」

 報告書まであるとなればひとまず証拠物件にはなるので、アイヴォスも納得しておく事にした。


「と言う事は、貴様はカシュラーゼ軍に密偵として送り込んでいる連中から情報をこうして受け取っているのか?」

「そう。そしてこっちの情報も渡して、お互いの状況を把握しておけばカシュラーゼ軍の動きが読めるからね。カシュラーゼ軍の戦略はこっちに筒抜けの状態だから、私達はカシュラーゼの連中の動きを読んでこれ以上の侵入をさせない様に食い止めたりして被害の拡大を防いでいるのよ」

「ふむ……」

 日本の文化に興味を持っているアイヴォスは「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と言う言葉も知っている。

 自分の実力を把握し、そして相手の情報も把握しておけば心配する必要性が少しでもダウンする。

 確実な勝利を掴み、負ける可能性が高い戦いには手を出さないかすぐに撤退する事で被害を最小限に留める事が出来る。

 そんな意味を持っている言葉の重要性を、今改めてアイヴォスはこの場所で確認した。


「相手の戦力はかなり大きいのか?」

「ええ。向こうはほぼこのヴァーンイレス王国を制圧したらしいからね。今はもうラストスパートを掛けると言わんばかりに調子付いているんだけど、同時に油断も出ているわ」

「油断か……」

 人間がミスをしやすい原因の1つに「油断」がある。

 それは相手の技量を見誤る事だったり、順調に行き過ぎていて大事な事を見落としていたり、自分の技術に自信を持ち過ぎた過信から来る油断だったりと原因は様々だ。

 そして、物事が成功するまでもう目の前まで来ていると言う今の現状から来る油断もそうだ。

 最後の最後まで物事は何が起こるか分からない。

 陸上競技ならばリレーや100メートル走でトップの選手がゴール直前につまずいて転んでしまい、逆転負けをしてしまう事もあるかも知れない。

 ゴルフだったら最後のホールでOBになってしまい、スコアが逆転されてしまう恐れもある。

 戦場で言えば思わぬ伏兵が潜んでいて、奇襲を掛けられて逆転敗戦を喫してしまう危険性も無きにしも非ず。


 今回の様に、アーシアにカシュラーゼ軍の動きが筒抜けである以上はヴァーンイレス王国軍も何か作戦を考えているのかも知れない。

 だから物事は最後まで油断せずに、しっかりやり遂げる事が成功への鍵なのだ。

「作戦の内容は話さなくても構わないから、何かカシュラーゼの軍勢を逆転敗戦に持ち込める様な作戦を用意していたりはするのか?」

 アイヴォスがそう聞くと、アーシアはコクリと縦に首を振った。

「うん……確かに言えないけど、そう言うのは考えてあるわよ。とりあえず魔術関係での作戦、とだけ言っておくわ」

「魔術関係……か」

 地球では未知の存在である魔術に関しては、アイヴォスもまるで分からないので作戦の内容について聞くのも無駄だろうと言う結論を頭の中で導き出した。


 それにアイヴォスはこの戦争に加担するつもりも無かった。

 確かにアーシアにもそれからコルネールにも命を救って貰ったし、自分は軍人である。

 が、かと言ってこの戦争に自分が協力する必要性を感じない。

 あくまで自分の最終的な目的は「地球に帰る事」だけなのだし、戦争に参加する為にこうして行動している訳では無いのでさっさとエスヴァリークに向かいたい所だった。

「分かった。私は魔術のことはまるで分からないが、その作戦が上手く行く様に祈っておく」

「それはどうも。貴方はこれからどうするの? この事をカシュラーゼ軍に話に行くのかしら?」

「そんな事はしないさ。私はカシュラーゼ軍とはそもそも無関係だし、この世界の人間でも無いからな」

 失礼な事を言うな、と言う冷たい目つきでアーシアを見てからクルリと踵を返して建物を出て行こうとするアイヴォスに、アーシアから声が掛かったのはその時だった。

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