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47.裏切っていたのか?

 この世界にやって来て、初めて出会った人間があのアーシアだった。

 そのアーシアは自分を助けてくれて、そして自分にこの世界の事を色々と教えてくれて、更にその元彼であるコルネールも最初こそいざこざがあったものの仕事の世話までしてくれている。

 いわばその2人はこの世界での命の恩人であり、そしてナビゲーターと言えるべき存在だ。

 なのにその2人の内の1人が、こうしてカシュラーゼ軍と繋がりを持っていたなんて。

「表向きは」ヴァーンイレス王国の解放軍として活動しているのであれば、これは間違い無く裏切り行為。敵のスパイと言える。

 その事実はアイヴォスは認めたくは無い。

 しかし目の前にあるこの現実が、アイヴォスに「事実」としてアーシアのスパイ行為を認める様に仕向けて来ている。


(私はどうすれば良いのだ……?)

 このままアーシアを見逃してしまえば、それはいずれこのヴァーンイレス王国の消滅に繋がってしまうだろう。

 だがアーシアは命の恩人でもある。

(とにかく、彼女が1人になった時を見計らって事情を聞いてみるしか無いな)

 まだ泳がせておけば何か掴めるかも知れないとも思っていたが、この状況……ヴァーンイレス王国軍の情報をカシュラーゼ王国軍に流していると言う現場をリアルタイムで目撃しているだけで、アイヴォスが掴んだ情報としては十分過ぎるものであった。


 そのまま密会現場を見続けていると、この先の情報の取り引きに関しての契約内容やお互いの軍の状況等を教えあって話が終わったらしい。

 カシュラーゼ軍の人間が先に建物の中から外に出て来るのを見て、アイヴォスは素早く建物のそばの路地の狭い場所に身を隠して息を潜める。

「ったく、アーシアも良くやってくれるよ」

「ほんとだな。さて、これからどうする?」

「ひとまずはカシュラーゼに戻ろう。余り待たせちゃまずいだろう」

 そんな会話をするカシュラーゼ王国軍の3人。

 この会話だけを聞いても、アーシアとカシュラーゼ王国軍の間に何らかの繋がりがあると言う事だけは予想出来ると言うものだ。


 そのカシュラーゼ軍の3人の姿が遠ざかって行くのを見て、もう1度アーシアの居る建物の中を覗いてみる。

(まだ確認しているみたいだな)

 アーシアはカシュラーゼ軍の人間から受け取っていた品物や資料の紙を確認している最中らしいので、何時でも腰の刀を抜ける様にして素早く、しかし気配を殺して建物の中に入る。

 武器を持っている様子は無いが、魔術と言う未知のテクノロジーを使うのでやはり油断は出来ない。

 だから気を抜かない様にしつつ、腰の刀の小さい方を右手で抜いてアーシアの後ろから首筋に素早く突きつけつつ、左腕で彼女の首をもう片方の腕で絞めて拘束する。

「動くな」

「……!!」


 アーシアの身体が強張るのが分かる。

「だ、誰!?」

「私だ」

「あ、アイヴォス!? 何で、え、どうして!?」

「聞きたい事があるのは分かるが、私も貴様に色々と聞きたい事があるのでな。まずはそちらの言い分をじっくり聞かせて貰うとしよう」

「え、あ、はい!?」

 アーシアはまるで状況が呑み込めていない様だが、自分が命の危機に陥っている事だけは分かった。

「良いか、抵抗したら容赦はしない。そのまま手に持っている物から手を離し、ゆっくりと両手を上に上げるんだ、早くしろ」

「わ、分かったわよ……」


 アーシアは言われた通りに手を離して両手の物を床に落とし、両手をゆっくりと上に上げた。

「何でこんな事するのよ?」

「それはこちらが聞きたい。カシュラーゼの王国軍と繋がっている貴様の動向を見てしまった以上、ヴァーンイレス王国軍の情報を流しているのだろう?」

 そうとしか思えない展開を目の前で色々と見せ付けてくれた事もあって、アイヴォスが彼女を疑うのは当然の事だった。

「率直に聞くぞ。貴様はヴァーンイレス王国軍を裏切っていたのか?」

 静かな声できつめに問い詰めるアイヴォスだが、アーシアは大声でそれを否定する。


 衝撃の事実と共に。

「違う!! 裏切っているのは私じゃないわ!!」

「……私じゃ、無い……だと?」

 普通なら「自分は裏切っていない」と言うセリフが彼女の口から出て来る筈なのに。

 そんなセリフが彼女の口から出て来たと言う事は、彼女では無い別の誰かがカシュラーゼ軍側に付いていると言う話になる。

「一体どう言う事なんだ? 話が良く見えて来ないのだが……さっき貴様と話し込んでいた連中は間違い無くカシュラーゼ軍の格好をしていた。そして色々取り引きしていたのも知っている。私はハッキリとこの目で見たのだから言い逃れは出来ない筈だが、それでも自分は裏切り者じゃないと自信を持って言えると言う事だな?」


 やっぱりどう考えても、どう記憶を手繰り寄せてみてもあの3人の人物はカシュラーゼ軍の格好をしていたのだからアーシアとカシュラーゼ軍が繋がっている、と言うのは誰が見ても明白。

 それを「私は裏切っていない」と言えるのならば是非とも彼女自身の口から説明して貰いたいのがアイヴォスの本音だった。

 アイヴォスのその問い掛けに対し、少しうろたえる様な表情になってからアーシアは口を開く。

「……誰にも言わないって約束出来るかしら?」

「それは貴様のこれからの態度次第による。貴様の出方次第ではカシュラーゼ軍と繋がっている事を全てヴァーンイレス王国に報告してヴァーンイレスの騎士団に引き渡す。それしか無いからな」

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