46.繋がっていたアイツ
それを見たのは全くの偶然であり、本当に突然の事だった。
「……!?」
思わず近くの民家と民家の間に身を隠したアイヴォスは、自分の目が見間違いで無ければあれは……と疑惑を確信に変えて行く。
黒のロングブーツに、頭の後ろで高く1本に纏めている金髪。そして見覚えのあるその顔。
アイヴォスの視線の先に見える限りでは、その人物はここに居る筈の無いアーシアに間違い無かった。
(何故彼女がここに……?)
最初に自分が居たあのアーシアのログハウスからは、それこそ馬を使ってかなり距離がある筈なのに。
それに普段はあの王都でレジスタンス的な活動をしているならば、その王都からわざわざここまでやって来たと言う事になる。
それに自分がこの町に居るタイミングでこうして彼女の姿を見かけるなんて、偶然にしては少し話が出来過ぎている様な気がして気になるアイヴォス。
(何をしようとしている……?)
もしこれが本当に偶然、解放軍の活動でここまでやって来たアーシアの姿を見かけただけ……と言うのであれば問題は無い訳だしアーシアの行動にも説得力が出る。
だが、そうじゃ無いとしたら?
何にせよ彼女の動向を探ってみない事には何とも言えないので、この町から逃げ出すのはもう少し後回しにして、アイヴォスはメインストリートを歩き始めた彼女を尾行し始めた。
尾行はとにかく相手に気づかれない様に。気配だけでも相手が気づいてしまう事もある。
だから相手を見失わない様にすると言うのは、簡単な様で実は恐ろしく難しかったりする。
特に今のアーシアが歩いているメインストリートみたいな、人通りの多い場所なら人の波に呑まれてしまって見失う可能性が非常に高いので尚更の事だ。
(何処へ行くつもりだ?)
アイヴォスが尾行している事に気付いている様子は見られないまま、アーシアはメインストリートを歩いてそのまま進み続ける。
特に周囲に警戒している様な素振りは見られない様子だが、かと言って油断は出来ないのでアイヴォスは先走りたい気持ちを抑え込み冷静に尾行するだけだ。
しかし、アーシアを尾行して行った先でアイヴォスはとんでもない光景を目撃してしまう。
「……!!」
思わず息を呑んでしまうのも無理は無い。
その光景を見る少し前にアーシアはメインストリートから路地へと入り、辺りの様子を窺い始めながら警戒している様子が出て来た。
その為にアイヴォスも当然、それまで以上に距離を置きながら見つからない様に慎重になる。
(警戒している……?)
明らかにメインストリートを歩いていた時とは様子が変わった。
何かに怯える様子なのか、それともこれから何かをやろうとしているから警戒している様子なのか?
遠目に見ているアイヴォスにはアーシアの表情が見えないので分からなかったが、それでも辺りを窺っている事には変わらないので注意しながら尾行する。
やがてアーシアは一層辺りを警戒し始めながら、1つの古びた倉庫らしき木造建築の建物の中に入って行く。
(何だここは……?)
雰囲気からすると、映画やドラマで言う所の悪党の密会所と言う様な建物ではある。
まさかその雰囲気が当たってしまうのだろうか?
アーシアが影でコソコソとこんな場所まで来ている。
それは先程からの異様な警戒心の高さを見ていれば何と無く理解は出来るので、こうなったら最後までアイヴォスは見届けるつもりで居たのだが、そのとんでもない光景を目撃してしまう事になってしまった。
「遅かったな」
「人通りが多かったからかなり時間を掛けて来たのよ」
「そうか。それで……今度は何が欲しい?」
「当面の食料かしらね。それと武器と防具も段々数が減って来てるからそっちの情報……ああ、勿論こっちの情報も伝えるわ」
「そうか、だったら色々持って来たから好きなだけ持っていけ。馬車も居るか?」
「ええ。お願いするわ」
アーシアが話を始めたその連中……窓の外から中を伺い見る限りでは3人の人物は、自分の記憶に間違いが無ければそのカラーリングの装備を見る限りでは……。
(あれはまさか、カシュラーゼの連中か!?)
あの露店の女主人に教えて貰った通りの灰色の軍服に銀色の鎧、そしてその鎧の胸当てには紋章が入っているその装備。
そしてその装備を身に着けている人間や獣人と、楽しそうに談笑しつつも何かを取り引きしているアーシアのその姿を見て、窓の外からその光景を見ていたアイヴォスはショックを受けた。
(バカな……)
もしこれが全て事実なのだとしたら、アーシアはカシュラーゼ王国軍と繋がっている事になる。
そしてそのカシュラーゼ王国軍に色々と情報を流す事により、見返りに食料や武器等を貰っている事になる。
その食料や武器がこのヴァーンイレス王国を占領しているカシュラーゼ軍に使われるのか、それとも別の目的があるのか。
それも気になるが、今はそれよりも「カシュラーゼ軍とアーシアが繋がっている所を目撃してしまった」ショックの方がアイヴォスには大きかった。




