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42.二刀流スタイル

「それは分かった。しかしその金を奪ったとはどう言う事だ?」

「あぁん? 何だお前、あの袋の中身見てねえのか?」

「見てないが」

 届けるだけだから別に見る必要も無いだろうし……とアイヴォスが言う。

 しかし、しばし考えた男が口走ったセリフでアイヴォスは凍り付いた。

「でもなぁ~、麻薬を運んだって言うのが魔力の無い人間となると色々目立ちそうだし……分け前も少ねえしなぁ」

「麻薬?」

「あっ……もしかして、今の聞いちゃった?」


 しまったと言う顔つきで慌てて口を右手で塞ぐ男だが、アイヴォスはバッチリとその耳で「麻薬」の単語を聞き取ってしまった。

 つまりそれは、男にとっては聞かれたく無い情報と言う事に他ならない。

「くっそ、分け前が少ないって事であの教会の連中も俺をバカにしやがって! お前もここで死んで貰うしかねえええ!!」

 男はズボンのポケットから錆びたナイフを取り出してアイヴォスに突き出すが、アイヴォスは冷静にそのナイフを避けて右手を掴み、後ろ手に腕を回して全力で捻り上げながら壁に男の身体を叩き付ける。

「ぐえ!?」

「色々と怪しい感じがするな。私と一緒に騎士団まで来て貰おうか?」

「てんめぇ~、騎士団の人間かよ!?」

 実際は騎士団に追い掛け回される様な事をしでかした人間の方なのだが、今の自分がやっている事は変わらないのでアイヴォスは黙っている。


「お、おおーい!! 誰か来てくれぇええ!!」

 だが男が家の中に向かって呼び掛けると、その声に応じてバタバタと複数人の足音が家の奥の方から響いて来た。

「ちっ……」

 男女問わず武装した人間達が見えて来たので、アイヴォスは拘束している男をその武装して襲い掛かって来た先頭の女に向かって突き飛ばしてぶつける。

 出入り口付近が狭い事もあるが、非常事態で駆け足をして来た女はスピードに乗っていた事、そして男がその女に向かって至近距離で突き飛ばされた事も相まってもろに正面衝突してしまった。

「ぐえ!?」

「ごあ!」

 悲鳴を上げながら倒れ込む2人を足元に見降ろしながら、アイヴォスは宿屋での襲撃の時に抜く事が出来なかった日本刀を今度はしっかり抜いて応戦。

 イミテーションでは無い、本物の刃を研いである日本刀だ。


 剣道では二刀流もあるのだが、今の時代に二刀流で戦う剣道家は殆ど居ないと言って良い。

 しかし今回は剣道でも剣術の試合でも無く、明らかに多数対1の状況なのでアイヴォスは大小2本とも鞘から引き抜いて迎え撃つ。

 そしてアイヴォスの習っている剣術道場の師範は、日本式の剣術にこだわらずヨーロッパスタイルの剣術も取り入れている。

 元々ヨーロッパでは右手に剣を持ち、左手は縦で防御すると言う考え方の為に二刀流であっても左の剣で防御して右で攻撃すると言う考えはごく自然な流れだ。

 基本的に左の剣が短いのが特徴で、ダガーナイフ等が使われる。

 それにさっきの男の様に相手に向かって剣を突き出して弾かれたとしても、突き攻撃は両者の間合いを詰める戦法なので今度は左手のダガーナイフで相手の脇腹を狙う事も可能だ。


 アイヴォスの持っている日本刀は「突く」のでは無く「斬る」のに合理的な形状をしているのでヨーロッパスタイルの剣術とはまた違った扱い方が必要になるのだが、そうした面も分かっている上でアイヴォスは家の中には入らず、外へと敵達を誘い出す。

 狭い部屋の中では長い武器は逆に振り回し難いからだ。

「ちょあっ!!」

 妙な掛け声で躍り掛かって来た斧使いの男の右手を足で蹴ってストップし、その蹴った反動でクルッとターンしながら横薙ぎに男の身体を左から右に斬り裂く。

 鮮血を吹き出しながら倒れた男には目もくれず、アイヴォスは斬り裂いた勢いで再びターン。

 次は前から向かって来た槍使いの女の攻撃を避けて、カウンターでその女の喉を左手の刀で貫いた。


「やろおおおお!!」

 叫びながら弓矢で狙って来る男は距離を詰めなければどうしようも無いので、ここは大人しく横っ飛びでその矢の軌道を予測して回避しながら回転して立ち上がる。

 立ち上がった先には同じく二刀流の短剣使いの男が居たのだが、アイヴォスは前蹴りで男との間合いを開けさせる。

 短剣の間合いに入られたら刀では勝ち目が無くなるので、それを嫌ってキックを放ったアイヴォスは開いた間合いから素早く右手の刀で男の心臓を一突き。

「ぐぅ……っ!?」

 3人目を絶命させ、見る限りでは残りは3人。

 その中には最初の捻くれた男の姿もあるので、ここから一気に勝負を決めるべくアイヴォスは動く。


 1人目のロングソード使いの女に対してはそのロングソードを右手の刀で弾き、左手に持った小さい方の刀でさっきの槍使いの女と同様に突きで止めを刺そうと思ったが、何とギリギリで盾を使ってガードされてしまう。

「くっ……」

 しかしここからすぐに立て直せるか、そして機転を利かせて打開出来るかどうかで勝負が決まるので、今までの武術経験や軍の経験からアイヴォスは反射的に女の懐に飛び込んでその顔面目がけて頭突き。

「げは!?」

 鼻血を吹き出しながら後ろにたたらを踏む女に、次は外さないと言う気持ちを込めたアイヴォスの右の薙ぎ払いが女の身体を左斜め下から右斜め上に向かって斬り裂いた。

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