41.向かった先での違和感
馬を走らせて、少しでも早く少しでもあの町から遠く離れた場所に逃げるべく更に東へと向かっていた。
宿に行く前に教会で聞いた依頼の内容によれば、その捻くれた人間が居る配達先はあの町からもっと東に向かって馬で1日位の場所にあると言う。
地図で見ても東に向かって進めばエスヴァリーク帝国に辿り着ける筈なので、行き先の当てとしてはやはり丁度良いタイミングだ。
やっと夜が明けて来た位の今の時間帯は、シチュエーションによってはロマンチックだったりドラマチックだったりするのだろうが、今のアイヴォスにとってはそのどっちでも無い事だけは確かだった。
この先はどんな展開が待っているのだろうか……と思いはするのだが、別に修羅場があって欲しい訳では無い。
それにまだまだ謎は残ったままである。
先程自分を襲撃して来た謎の集団の正体、それからあの斧の怪奇現象、そしてこの世界にやって来た理由。
次から次へと考える事が増えて行く状態ではあるが、今はとにかく目の前の問題から片付けて行くしか無い。
テストで自分が分かる問題から解いて行くのと同じ様に、自分が今1番先に解決出来そうな問題から解決して行くしか無さそうだとアイヴォスは思う。
馬で1日となればかなり長いが、そこまでは何とか自分も馬も頑張って貰うしか無いだろう。
アイヴォスは決意を固めると、馬を気遣う為に一定のペースで走り続ける事を意識して馬のスピードに気を付けながら、東へとその馬に乗って進んで行くのだった。
途中には大きな川があり、そこで人間も馬も水分補給。
それから野宿をした事も含め、ようやくその東の町に辿り着いた時にはあの襲撃を受けた町から丸1日以上……次の日の昼前だった。
襲撃を受けた町よりも数段小さな広さの町だからか、町の番兵も暇そうにしていてまさにフリーパス状態で出入りが出来たのは救いだった。
(確かこの町の……ああ、あっちの方か)
配達先をメモしてある紙を先に貰っていたのが幸いし、依頼人が殺されてしまった状況でもその配達先……となる予定だった、その捻くれた性格の人物の元へとアイヴォスは歩いて向かう事が出来た。
だが、そこでまたしてもアイヴォスは修羅場に遭遇してしまう事になる。
その家は町外れにある古びた倉庫を改築したレンガ造りの家であり、外観は至る所の塗装が剥げていたりレンガが欠けていたりと手入れが余りされていない状況だった。
これだけを見てもここに住んでいる人間のだらしなさが分かると言うものだ。
(汚い家だな……)
思わず顔をしかめてしまうアイヴォスだったが、家の汚さは今はどうでも良い。
なのでとりあえず、その家のドアをコンコンと黒い手袋をはめた手でノックする。
「あんだぁ~?」
物凄く面倒臭そうな声色でドアを開けたのは、ボサボサと伸びた髪の毛にヒゲも伸ばし放題で汚い顔つきの中年の男だった。
服にはシミも付いており、シチュエーションがシチュエーションならホームレスと思われても違和感が無い。
おそらく、この男があの教会の男が言っていた「捻くれた性格の男」なのだろうと心の中で結論付ける。
ますます顔をしかめたくなったがそこはグッと我慢し、アイヴォスはストレートに用件を伝える。
「クーノベリアの町から来た者だが、教会であんたに届ける様にと私は金を渡された。しかし「目を離している隙」に金の入った袋が無くなってしまった。何か知らないか?」
事実と若干違う事を淡々とした口調で話すアイヴォスだが、そのアイヴォスの問い掛けに目の前の男は「はっ」と鼻で笑った。
「金? それならもう届いてるよ」
「何だと?」
まさかの展開にアイヴォスは驚きを隠せない。
「あいつ等がなかなか金を渡さねえからよぉ。最終的には奪っちまったんだよ。だってそうするしかねーだろーよ? 色々横流ししてるんだから」
「は……?」
話がいきなり過ぎてアイヴォスは理解が追い付かない。
肝心の情報が所々で抜けているし、主語も無いので何の話をしているのかがさっぱりだ。
「お、おい待ってくれ。何の話をしている?」
「あ~ん? お前が金を運んで来る前に俺達がこうしてやっちまえば良かったんだよ」
「だから何の話を……」
しているんだと聞き掛けたアイヴォスだったが、目の前の男の顔つきがその瞬間変化する。
そしてアイヴォスのセリフを遮って、男は驚きのセリフを口に出した。
「そーかぁ、お前か。あの薬を運んだって奴は」
「薬……ああ、確かに運んだ」
袋に満載の薬。
あれは確かに教会に届けたのだが、何故それをこの男が知っているのだろうか?
この男とは初対面だから、自分があの袋を運んだ事は知らない筈なのに……と思っていると男はその疑問を見透かしたかの様に理由を口に出す。
「魔力が無い人間があの教会まで運んだって話、あの教会の連中から聞いたんだよ」
「……そうか」
ならばこの男が知っているのは納得。
だけど、金を「奪った」と言う言い回しに関してはどうしても納得する事は出来そうに無かった。




