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36.何故来てしまったんだ?

 男から分けて貰った食べ物を口に運びながら、アイヴォスは馬に揺られて次の目的地であるクーノベリアの町に向かって進んでいた。

 アイヴォスが今乗っているこの馬にも、出発前に少しばかりではあるが干し草と水をあの男が分け与えてくれたのでクーノベリアの町までは持ってくれるだろうと彼は思っている。

 だけどこのまま馬に揺られ続けるのは非常に暇な時間なので、アイヴォスは自分が何故この世界に来たのかを考える。

(私がこの世界に来てしまった理由……)

 食べ物であるパンの最後の一切れを口の中に放り込み、咀嚼しながら考えてみるアイヴォス。

 その結論は……。


(……駄目だ、全く思いつかん)

 そう、この世界に自分が来てしまった理由が全く思いつかない。

 例えばこれが映画とかであれば何かしらの理由が主人公に見えない所で語られるものだと考えてみたが、あいにく自分にはそう言う事情が語られない様だと思ってしまう。

 魔力だの魔術だのと言う、アイヴォスが今まで生きて来た中で馴染み等これっぽっちも無い様な単語や物事を間近で見せられたこの世界。

 地球とは明らかに違う世界地図に記された、同じ形の大陸が存在している世界。

 今の時点での憶測でしか無いが、地球の今までの文明テクノロジー等とは程遠い……それこそヴィサドール帝国のあるヨーロッパの昔の姿である中世ヨーロッパの様な武器を持って襲い掛かって来たコルネールの様に、銃火器が存在しないかも知れないこの世界。


 そんな世界に、自分は何故来てしまったのだろうか?

 考えれば考える程、アイヴォスのその疑問は大きくなって複雑になって行く。

(……私はこのまま、この世界で生きるしか無いのだろうか?)

 どちらかと言えば考え過ぎてしまうのでネガティブ思考になりやすいタイプだと自覚しているアイヴォスは、ついついこの先の事を考えて暗くなりそうになってしまった。

 そんな彼の心の支えになっているのは、以前この世界での目撃情報とそれから失踪情報があると言う2人の魔力を持たない男達の話だった。

(もしその話が本当だとしたら、私はその魔力を持たない人間に会って情報を手に入れたい)

 今の所で頼りになるのはその以前現れたと言う人間なので、地球に帰る情報を手に入れるのであれば魔力を持たないと言うその人間達の情報も一緒に集めなければならないだろう。


 その人間達は地球からやって来たのかは定かでは無いにしろ、自分と同じくこの世界に何も理由も無しに突然やって来てしまったのだろうか?

 それとも自分と違って、この世界に理由があって呼ばれたのだろうか?

 2つのエピソードとも一国の騎士団長、つまり国の騎士団のトップに打ち勝ってしまう程の武術の腕前の持ち主だと言う。

 自分も軍人ではあるものの、騎士団長に勝てるかどうかは実際にやってみなければ分からないのが本音だ。

(別に無理に戦う必要は無いと思うがな)

 そう、別にこの世界に戦いにやって来た訳じゃ無い。

 そもそもそれが理由でこの世界にやって来たのかどうかすら分からない以上、自分が地球に帰る事を目的に行動するのが今のアイヴォスに与えられている最大のミッションだ。


 街道を看板に従って東にずっと進んで行くアイヴォスは、クーノベリアの町に辿り着いたら何をするかを考え始める。

(確かあの砦の男は、そのクーノベリアの町に行っても余り心配する事は無いと言っていたな)

 あの時の口ぶりからするとクーノベリアの町は一旦カシュラーゼによって占領されたか、もしくは占領されそうになって抵抗した結果カシュラーゼ軍を追い返す事に成功したかのどちらかだろうと思っている。

 だが、ここでアイヴォスは大事な事に気が付いてしまった。

(……ん、ちょっと待てよ? 私はそのカシュラーゼ軍の格好についてそう言えば何も聞いていないぞ!!)

 アーシアからもコルネールからも、そしてあの砦の男からもそのカシュラーゼ軍の服装や格好がどう言うものなのか全く情報が無い。

 林の中から無事に城壁を越える事しか考えていなかった為、王都の町並みはおろかアーシアとコルネールとそれからアジトのあの女の姿、そしてあの砦の人間達の姿しかこの世界の人間の格好は分からない。


 これは大きなミスである。

 事前に頭の中で色々とシミュレーションをするのなら、それこそ「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と言う言葉通りに敵の情報は集め回らなければならない。

 しかしその情報が全く無い以上、今のアイヴォスには行く先々で出会う人間がヴァーンイレス王国の人間なのかカシュラーゼの人間なのかを判断する材料がゼロなので不安しか無い。

 そうなれば、何時何処でカシュラーゼの人間に目を付けられるか分からないと言う事になる。

(私とした事が……これは失敗だったな!!)

 砦は既にかなり後ろの方まで遠ざかってしまったので、今更戻る時間も惜しい。

 無理に戻って馬に負担を掛けさせる訳にも行かないので、今はとりあえずあの砦の男から受け取ったあのメモを見せれば何とかなる、とのアドバイス通りに覚悟を決めてアイヴォスはクーノベリアの町に向かって進むだけだった。

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