32.運ぶ荷物とその報酬
「よーし、それじゃ今度は物資の運搬だ。ここまで俺とお前でそれぞれ2往復位するから手伝ってくれ」
「ん……そんなに運ぶ荷物は多いのか?」
それだと馬に乗り切るのか? と思うアイヴォスだったがコルネールの考えは違う様だ。
「違えよ、俺とお前で2人で運ばなきゃいけない荷物が2つあるんだよ」
「そうか。ちなみに取り扱いにはどの位気を付けて運べば良い?」
「中身は食料が殆どだ。飲み物のビンとかも入ってるから落とさない様に細心の注意を払って運べよ」
その荷物は馬に乗る位の大きさではあるものの、中身を見せて貰えば確かにコルネールの言っていた通りに果物や肉、そしてワインのビン等が袋に詰め込まれている食料品セットである。
箱のサイズがサイズなだけに余り大きくは無い物だ。
「結構重いからな。落とすなよ!!」
「分かった」
この程度の大きさでオーバーな事を言うものだ……とアイヴォスは思ったが、実際にその箱を持ってみるとサイズに見合わない重さが感じられた。
(……?)
箱の中身を全て取り出して確認した訳では無く、あくまでも上部だけを見て食料品セットだと判断したのがアイヴォスなのでもしかしたら何か別の物も食料品セットの下に入っているのかも知れない。
だけどそこまで詮索するのは口うるさく感じられるかも知れないと思ってしまったし、自分の仕事はあくまでもこの荷物を届けるだけの簡単なものなので後はどうなろうが知った事では無いのだ、と思ってそれ以上何かを聞く為に口を開くのをアイヴォスは止めておいた。
その考えで荷物の木箱2つを2人掛かりで馬まで運び、馬に乗ってここでコルネールとはお別れとなった。
「それじゃ頼むぞ。届けるって言っても1か所だけだから時間は掛からねーと思う」
「ああ。報酬は向こうで受け取れば良いんだな?
「そうだ。お前を向かわせた理由を書いたメモを2つ目の木箱のフタに貼っておいたから、その地図の場所でそのメモを見せれば契約は成立だ。場所もここからそんなに遠くないし、そこでまた依頼があったら報酬を出して頼む様にも書いておいたからすぐに分かるだろ」
「ああ、それじゃ世話になったな」
「良いって。それとその馬はやる。これから先の移動に使え」
最初はいざこざを起こしたものの、いざこうして話してみると割と良い人間なのかも知れない。
そう思いながら馬を発進させるアイヴォス。
実は馬に乗るのは久々で、最後に乗ったのが休暇が取れて乗馬に出かけた半年前だったのだが、それでも1度馬を動かしてしまえば案外身体が覚えているものだった。
それでも馬は車と違って生き物。
何時暴れだすかも分からないし、暴れて木箱を落としてしまったらそれだけでミッションは失敗となってしまう。
だから慎重に……と思いながらアイヴォスは配達先までの簡単な地図を片手にゆっくりゆっくり確実に進もうと決めた。
用意された馬を進ませながら、ふとアイヴォスは考える。
(そう言えば、地球では私が居なくなってからどれ位の時間が経過したのだ?)
仮の話、このエンヴィルーク・アンフェレイアと同じ時間の流れ方をしているのであれば今頃はパニックになっているのだろうか?
それとも時間の流れ方が違っていて、自分が居なくなった事に誰も気が付いていないのだろうか?
もしくはその逆でとっくに居なくなった事が露呈しており、大捜査網が敷かれているのだろうか?
(……いや、考えるのは止めよう)
幾ら地球の状況の心配をした所で、今の自分が居るのはこっちの異世界エンヴィルーク・アンフェレイアなのだからどうしようも無いのであると気が付いた。
仮に無事に地球に戻れたとして、遥か数百年もしくは数千年後の未来の地球だったら?
そもそもその時には地球が無くなっているかも知れないし、逆に地球が生まれる前までの時間に戻ってしまうのかも知れない。
それ以前に、今の状況は地球への手掛かりが少ししか……それこそ自分と同じ魔力が身体の中に無い人間の話だけが手掛かりと言えるので、それ以外の情報を集めなければ地球に帰れない可能性は極めて高い。
最悪のパターンは、この世界から一生地球に戻れない可能性だってある。
(それだけは勘弁して貰いたいものだな)
この先、どんな運命が自分を待ち受けているのかはアイヴォスには当然分かる訳が無い。
エリートの軍人はエスパーでは無いので、そこまで出来る訳では無いのだから。
今はこの荷物を無事にコルネールに指定された場所に届けるのがアイヴォスのミッション。
(もし今の様な状況じゃなかったら、観光で色々見て回りたいものだったな)
実際の話、城壁に囲まれているあの内部はアーシアが住んでいたログハウスに、それからその周辺の林の中に解放軍のアジト、最後に地下通路。
それだけしか見ていないので、町の雰囲気とか町並みの景色その物が全く分からないままだ。
だから余裕が出来たら他の町をじっくりみてみたいと思いつつ、馬の足音を響かせて城壁がだんだん地平線に吸い込まれて行くのを後ろに見ながらアイヴォスは少しばかりの寂しさを感じていた。




