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31.安全な隠し通路

 アイヴォスはコルネールに連れられて林の奥へと進んで行く。

 解放軍の人間がこの先に居ると言うのはどうやら本当の話の様であり、現に林の中には武器や魔術らしきもので木や草を刈り取ったり燃やしたりして道を切り開いた跡が残っているからだ。

 魔術らしき……と言うのはアイヴォスが魔術の類を一切見た事が無いので断定出来ないからなのだが。

 とにかく、その解放軍のアジトへと向かって自分が運ぶ物資を受け取るのが最優先である。

 しかし、このまま解放軍の情報が何も無いのも困るのでアイヴォスは斜め前を歩くコルネールに聞いてみる。

「気になる事があるんだが」

「何がだ?」

「今の解放軍って言うのは、こんな敵地のど真ん中なのに良く持ち堪えられているもんだなと思ってな」

 占領されて降伏一歩寸前って感じなのに、部隊長が旅に出ていたりこんな王都の林の中でアジトを構えていたりとその修羅場を余り感じさせない位に余裕があるもんだなーとアイヴォスは不思議でたまらない。


 それに対してコルネールの答えはこうだった。

「俺だって別に遊んでる訳じゃねーよ。この林の中にアジトを構えたのは襲撃されにくい様に身を隠す為と、アジトが襲撃された時に少人数でも地形の利を活かして戦いやすい様にしたかったからだ。それと俺は別に遊びに旅に出ていた訳じゃねえ。こっちの人員は人手が足りねぇからな。傭兵とかを引き入れる為に世界中をワイバーン使って回って来たんだよ」

「ワイバーンか……」

 そう言えばアーシアも、移動手段の1つとしてそんな生き物が居ると言う事を話していたのをアイヴォスは思い出した。


「そうだよ。それで色々回った結果、それなりに使えそうな人材を俺は手に入れたんだ。まだ俺の戦いは終わっちゃいねえんだよ。……あ、ほら着いたぞ」

 そう言うコルネールとそんな彼に着いて行くアイヴォスの視線の先には、いかにもアジトですと言わんばかりの雰囲気を醸し出している古びたログハウスが姿を現した。

 先程のアーシアが住んでいると思われるログハウスよりも少々大きめの物だが、それでもこの林の中でひっそりと活動するには問題の無い大きさだった。

 そのログハウスの入り口のドアの前に立ち、コルネールがドアに付いているドアノッカーをゴンゴンと鳴らす。

「話合わせてくれよ。……ユル・ンマザ・ヌオーセシ!!」

 どうやら合言葉らしきそのセリフで、このログハウスのドアを叩いたコルネールの事を認識した様である。


 その証拠に、中から鎧と槍で武装した女がドアを開けて迎えたからだ。

「お帰り部隊長。アーシアは……ってあれ? 誰よその人」

「物資を運んでくれる傭兵だ。見つかると厄介だから外部の奴を雇った」

 ローブを着込んでフードを目深に被った格好のアイヴォスに対して、女は訝しげな視線を向ける。

「……信用出来るの?」

「そうじゃ無かったら俺がわざわざここまで連れて来たりしねーっての。とにかく時間が無いからな。さっさと運び出してくれ。それからお前はこっちに来て馬に乗せるのを手伝え」

 女の視線でアイヴォスに魔力が無い事に気付かれたかと思いきや、彼女の目の前にいる時間が短かったからかそれとも他の理由かは定かでは無いがバレずに済んだ様である。


 何事も無ければそれで良い、とばかりにアイヴォスは再びコルネールに先導される。

「何処で積み込むんだ?」

「この裏さ」

 そう言うコルネールと共にログハウスの裏手に回ったアイヴォスの目に飛び込んで来たのは、木に繋がれた馬……では無くて地面に草と土でカモフラージュされて埋め込まれている1つの重そうな鉄のフタだった。

「開けるの手伝え」

「ああ。これは一体?」

「隠し通路さ。ここを通った先に馬が繋いであるんだ。この王都は城壁に囲まれているからな。正攻法で真正面から脱出なんか出来ないだろうし、物資を運び出すなんてのはカシュラーゼの監視の中を潜り抜けて行くなんてそれこそ不可能だからな」


 だからこうして城壁を地下から潜り抜けて行けるだけの穴を掘ったんだよ、と誇らしげに言いながらコルネールはアイヴォスと一緒にフタを上げる。

 そこには地下通路に続く階段が姿を現した。

「なるほどな、ここを通って外に抜け出せば安全に行き来が出来ると言う訳か」

「ああそうさ。この王都は元々俺達解放軍の地元でもあるからな。今でこそカシュラーゼの奴等に乗っ取られちまってるけど、城壁の造りは何も変わってねえから城壁の上から死角になる部分だってこっちはちゃんと分かってんだっつの」

 だからカシュラーゼの奴等をこうして出し抜けてるんだよ、とやっぱり誇らしげな口調で階段を下りる。

 アイヴォスもそれに続き、10段程の階段を下りて申し訳程度のランプが設置されている1本道の通路を歩いて、再び10段程の階段を上がって最初と同じ様に出口のフタを2人掛かりで上げる。

「余り出入りが激しいと見つかる可能性も高いから頻繁には使えねー。だから本当に必要な事をやる時だけ、ここの隠し通路を使う様にしてんだよ」

 薄暗い通路に太陽の光が差し込むので、思わずアイヴォスは左腕で顔を覆いながら右手1本でフタを上げた。

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