27.魔術と言うものは不思議だ
大声で意気込むコルネールに対して、だったら期待しているから早くやってみろとばかりにアイヴォスは腕を組んだ姿勢でもう1度魔術を見せて貰う。
「じゃあ次は俺がやるからな。それももっとでかい奴をよぉ!」
「分かったから早く見せてくれないか」
「おー上等だぜ。それじゃ見てろよ……偉大なる神エンヴィルークの力よ、我の手に水の波動を!! アクアウェーブ!!」
名前からすると水のウェーブをその手から出すのだとアイヴォスも理解出来た。
「きゃあ!」
「はっは、どうだどうだあ!?」
アーシアが腕で自分の身体を反射的にブロックする。
その一方で魔術を出す手の持ち主であるコルネールが、自分の放った魔術の大きさに満足しながらアイヴォスの方を「ほら見てみろ」と言わんばかりの顔つきで見つめる。
しかし、アイヴォスの仏頂面は全く変わらない。
「……私を馬鹿にしているのか?」
「は?」
「何も見えないし、何も濡れていないぞ。本当に水を出しているのか?」
「…………テメー、俺を怒らせたいのかよ!?」
激昂するコルネールだが、アイヴォスには見えないのだからやっぱりピンと来ない。
「俺が今やったじゃねえかよ!! ほらここの木の部分を見てみろ、ビッショビショじゃねえか!! それに地面だって濡れて……。お前、目がおかしいんじゃねえのか!?」
「……見えない以上、口で説明されても私には理解出来かねるのだがな」
「本気で言ってるの? それ……」
せっかく魔術を披露したのにまるでアイヴォスには信用して貰えない。
アイヴォスの方もその目に魔術らしき物は一切見えないのだから、これでは彼にとってただのオカルト現象と言う事で終わってしまう。
そもそも見えないと言う事がコルネールにもアーシアにも理解出来ない。
「俺達にはしっかり見えてるよな……?」
「ええ。この辺り一帯がもう水でグチャグチャよ?」
この2人にはしっかりと、自分の生活や戦闘時の手助けとなる魔術が木に向かって飛んで行くのが見えていた。
それでもお互いに嘘をついている様には見えない。このままでは埒が開かずに話は平行線を辿ったままになってしまう。
「じゃあよぉ、他の魔術はまだ試してないからそれ等を見せれば良いんじゃねえか?」
「うーん、それしか無さそうね。悪いけどもう少し付き合ってくれるかしら?」
「ああ。私の出発は出来るだけ早い方が良さそうだが、このまま魔術について不信感と不安感が残ったままだと私もこの先困るかも知れんからな。だから納得の行くまで存分にやってくれ」
「よぉーし、それじゃやってやんぜ!!」
今までは水系統の魔術がアイヴォスの目には見えない様だと分かったので、コルネールとアーシアはそれぞれ交互に違う系統の魔術を3連族で出してみる事にする。
ギルドCランクのアーシアとギルドAランクのコルネールでは出せる魔術のクオリティが違うらしいのだが、魔術そのものが初体験のアイヴォスにとってはそれは気にしないし関係無いのでさっさとやって貰いたい所だった。
「じゃあまずは俺からもう1度行くぜ。炎属性の魔術だ。燃え移ると大変だから威力を考えて場所を調整して……」
周りの木や地面の落ち葉に燃え移らない様に場所を考え、そして大きく右腕を振り被る。
「偉大なる神アンフェレイアの力よ、我の手に荒ぶる炎を……フレイムバースト!!」
バッと一気に振られた手からは灼熱の炎が飛び出して空中で爆散する。
それを見ている筈のアイヴォスは未だに仏頂面なので、次はアーシアだ。
「偉大なる神エンヴィルークの力よ、大地の槍で相手を貫け。ロックスピア!」
これは余りクラスの高くない魔術らしいのでアーシアも使える様だ、とアイヴォスは思う。
名前の通り、岩の槍が地中から上に向かって突き出して敵を突き上げる魔術らしい。
でもやっぱりアイヴォスの仏頂面と腕組みは解かれない。
最後は再びコルネールだ。
「偉大なる神アンフェレイアよ、荒れ狂う風で吹き飛ばせ!! ウィンドストーム!」
今度はコルネールが左手でバッと空中を薙ぎ払えば、大量の風が落ち葉を巻き上げた。
その魔術を見たアイヴォスの顔つきが驚愕のものに変わったので、ようやくここでアーシアもコルネールも安堵の表情を浮かべる。
「見えたのね!?」
「見えたんだな!?」
やっと認められたと言う思いから声がミックスする2人だったが、アイヴォスは次の瞬間2人にとって妙な事を言い出した。
「最後の風の魔術は分かった。落ち葉が舞い上がっているのが見えたからな」
「そうだろ、そうだろ!?」
「しかし不思議なものだな。風の魔術を発動したにもかかわらず私は風を感じられなかった」
「……へ?」
コルネールとアーシアの顔から同時に安堵の表情が消え、キョトンとした表情に変わる。
アイヴォスの顔は再び仏頂面に戻ってしまった。
「風も無いのにどうして落ち葉が宙に浮くのか……本当に魔術と言うものは不思議だな」
この時点で「やはり何かがおかしい」とコルネールもアーシアも再び思い始める結果になってしまったのだ。




