24.ギルドとランク
「お前も知らないのか?」
コルネールにそう聞かれても知らないものはアイヴォスだって知らない。
「少なくとも、私がこれまで生きて来た中では全く見た事が無いな。顔を守ると言う事でなら良いとは思うけど、そこからどの様にして反撃や迎撃に移るのかまではまるで予想出来ん」
冷静な口調でそう言うアイヴォスだが、内心では「この不思議な構えの武術を駆使して騎士団長と国の英雄を倒したのか!?」と驚き半分、疑問半分の割合である。
「そうか。……そしてその魔力を持たない人間は2人を殺した後、何処かに行方を眩ませてそれっきりらしい」
となれば、こちらの人間もこの世界で出会えるかも知れない。
「そっちの人間はどんな容姿か分かるか?」
それをアイヴォスが聞いてみると、アーシアの方がその傭兵の知り合いからその魔力を持たない人間に関して詳しく聞いているらしい。
「その傭兵の人が言うには、さっきコルネールが言ってたソルイールの人間と同じく茶髪の中年の男で……あ、それからヒゲを生やしていたって言う情報があるわね。何処に生やしていたかまでは覚えていないらしいけど。後は引き締まっている細身の体格で、赤いシャツに青いズボン。分かっているのはこれだけよ」
「そうか。しかしそこまで分かっているのであればかなりの手掛かりにはなりそうだ」
最初にコルネールから聞いた、エスヴァリークの騎士団長が関わったと言う男女2人、それから今聞いたソルイールの騎士団長と英雄の2人を殺して今もなお逃走中(?)の男はどうやら別人だと見当が付いた。
しかし、その話を聞いていてアイヴォスはまた気になる事が出来た。
「ソルイール帝国の騎士団長については何と無くイメージは出来なくも無いが、帝国の英雄と言うのは一体どう言う人物なのだ? 騎士団の人間じゃないのか?」
その質問には傭兵の知り合いから英雄の噂を聞いていたアーシアがまず答える。
「ええっと、確かギルドに登録してる傭兵の中でもそれこそトップの人間だった筈よ」
「ギルドとは……傭兵の仕事をする為の連中が所属している組織の様なものか?」
アイヴォスは自分の中のイメージをそう話してみたものの、実際の所はちょっと違うらしい。
「んー、まぁ大体当たってはいるけど……傭兵だけじゃなくて、色々と仕事が必要な人間達に仕事を紹介している施設の事ね。自分でお店とかをやってない限り、この世界ではそこに登録して仕事を貰うのが一般的な生活の仕方なのよ。世界中何処の国に行ってもこれは変わらないわ」
公共職業安定機関みたいなものなんだなーとアイヴォスがイメージする横で、そのソルイール帝国の英雄に関する話が再びアーシアから伝えられる。
「そして、そのギルドの中でかなり久々にSランクまで上がった若き冒険者で、それで国の英雄って呼ばれるようになったのが彼ね」
「ああ。それは俺も聞いた事がある。やっぱSランクだから俺の更に上を行くランクの奴だしなー」
ランクだの何だので2人で納得されても、アイヴォスはそのシステムが分からないので会話について行けそうに無い。
「ランク……と言うのは?」
「ああ、ギルドのランク付けは簡単に言えば自分の今まで成功させて来た依頼の件数や内容で決まる実績の目安よ。成功させた件数が多ければ多い程、それから件数が少なくても1つ1つの内容が難しければ難しい程ランクが上がるのは早くなるわね」
それこそリオスやアルジェントの様に戦時昇進で特別に階級がアップ……と言う訳では無く、きちんと個人の実力に合わせた階級システムの様だ。
「ふむ。ではそのランクと言うのは何処まであるんだ?」
「登録した最初は見習いランク。これが初心者の冒険者としてスタートするの。依頼の内容や難易度に関わらずこのランクで依頼を10件成功させる事で、晴れて見習いから本職の冒険者にステップアップするの。そしてそこからは1番下のEランクからスタート。最終的にはAランクまで上がるわ」
しかし、それだと先程の英雄のランクと矛盾する回答になってしまう。
「ん……ちょっと待て、英雄のランクはSランクなのだろう?」
「ああそうそう、そのAランクから選ばれた一握りの人間だけの話になるんだけど、それがAランクからも雲の上の存在として尊敬されるSランクね」
それを聞いてアイヴォスは考え込む。
「だとすれば、私もそこに登録すれば金を自分で稼げるって事になるな?」
上のランクになればなる程、より多くのミッションにチャレンジ出来て金も手に入る。
それがこの世界で生きる人間のライフスタイルの様であるが、一時的……もしくはこの先一生この世界で生きて行かなければならないとなればアイヴォスも当然そこに登録しておくのは絶対条件だと言える。
先程コルネールから言われた物資の運搬の話だって一時的な話だろうし、何時地球に帰る事が出来るか分からないのならやはり登録は必要だ。
そう考えたアイヴォスだったが、コルネールの口からはアイヴォスのその考えに否定的な考えが出て来るのだった。




