23.複数の目撃情報
結局、その騎士団長と異世界の(?)人間2人がどうやって知り合ったのかまでは分からないし、最終的にはシルヴェン王国の敵になる形で騎士団に立ち向かった、と言う話までしか知らないそうだ。
しかも、その男女についての謎はまだあるらしい。
それはアイヴォスのこの質問が発端だった。
「騎士団に立ち向かった後の男女の足取りは分かっているのか?」
「さぁ……その話は幾つかあってな。その2人は結婚して今もこの世界で生きているんじゃないかとか、違う世界に行ったんじゃないかとか、死んじまったんじゃないかとか……何しろ王都が壊滅する大惨事になったらしいから色々な情報が飛び交っているし、頼みの綱のエスヴァリークの騎士団長は大事にしたくないらしくて上手く話を作り替えたらしいし」
「作り替えた?」
「ああ。だから噂でしか聞いた事無いんだよ俺も」
もしかしたら物資を届けに行った先で会えるかも知れねーけど、と最後にコルネールが付け足したものの、そのコルネールのセリフが願わくば現実のものとなって欲しいのがアイヴォスの今の気持ちだった。
アイヴォスは次に、その関わりがあると言うエスヴァリークの騎士団長について聞いてみる。
「エスヴァリークの騎士団長と言うのはどんな人物だ?」
「確かまだ若いぜ。20代中盤だった筈だ。確か元々傭兵で、国から任務を請け負ってその手柄と武術大会の成績で騎士団長になったって話だ、今年の夏にな」
20代半ばと言う若さでその地位ならば、余程の実力を持っているのだろう。
しかも騎士団長と言う事は、実戦経験も部隊の指揮の経験も豊富だろうと考えるアイヴォスだが、考え方を変えてみるとまた別の可能性が頭の中に生まれる。
(騎士団長だからと言って絶対に「騎士団の中で1番戦いが強い」とは言えないかもな。勿論武術の腕もあるだろうけど、「強い」って言うのは統率力に判断力、それから機転の利かせ方に部下の士気を上げるカリスマ性等、全てをひっくるめた上でトータルバランスが高いクオリティで纏まっているからこそ、騎士団長になれたのかも知れないし……)
でも、先程コルネールが「元々傭兵で、国から任務を請け負ってその手柄と武術大会の成績で騎士団長になった」と言っていたからやはり実力はあるのだろうと考え直し、こんな事も続けて考える。
「とにかくその騎士団長に会ってみれば、その2人についてもっと詳しい話が聞けるかも知れないな」
「ああ、俺も同じ事を考えていたよ」
続いてもう1つの魔力を持たない人間の話に移る。
「それじゃ次……このソルイール帝国だったか。こっちの方でも魔力を持たない人間が現れたらしいと言う話だが、それは同一人物なのか?」
コルネールは首を横に振る。
「こっちも噂だけだからなー。同一人物かどうかは分からないけど、共通する部分ならあるぞ」
「ふむ。それは?」
何かと思って聞いてみたまでは良かったが、この後にとんでもない事実がコルネールの口から明らかになる!!
「帝国騎士団長を倒したんだ」
「え? また騎士団を敵に回したのか?」
「そう。しかもソルイール帝国の英雄とまで言われていた若い奴と一緒に、何らかの理由でその魔力を持たない人間を追い詰めたまでは良かったんだが……返り討ちに遭って2人とも殺されてしまったらしい」
「え……っ?」
アイヴォスも絶句してしまう。
「それは確か今年の話だろう? となればそこで殺人を犯してしまったその男が、元々シルヴェン王国に居たと言う話か?」
そう考えるのが自然だと思うアイヴォスだが、コルネールが言うにはどうもそうでは無い様だ。
「ん……そこまでは分からないけど、その2人を殺したって言う男は中年だったらしいし、もっと違う戦い方をしていたらしいからまた別の人物じゃないかなーと俺は思ってるけど」
「別の?」
その話だと、魔力を持たない人間は過去に3人居たと言う事になってしまう。
これはもっと詳しく聞いておかなければならないなとアイヴォスは思うのだが、その詳細は今まで男2人の会話をずっとそばで聞いていたアーシアの口から語られる。
「あれ……それって何か独特なポーズが特徴的な戦い方をしていたって言う人の話じゃない?」
「知ってんのか、アーシア?」
「うん。ソルイールで傭兵の活動をしていた知り合いが話してたよ。その人が今まで見た事の無い独特な構えって言ってたわ。結局の所は私も又聞きだけど、その私も未だに覚えてるから」
「では、私にその構えを見せてくれないか?」
アイヴォスの要望にアーシアはスッと椅子から立ち上がり、未だに覚えていると言うその構えを聞いた話のイメージだけでやってみる。
「えっと確か……右腕をこうやって内側に、左腕を外側にして両腕をクロスさせ、それぞれ反対側の手で耳を覆うってものだったわよ、私が聞いたのは」
「……何だ、その構えは……」
アイヴォスが思わず口に出してしまう程、確かに独特なそのポーズ。
空手ともボクシングともムエタイとも違う、アイヴォスでさえも今までに見た事が無い構えのポーズだった。




