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4.見知らぬ場所と見知らぬ女

 頭の理解が追い付かないまま、アイヴォスはデスクの下で不思議な光に包まれてしまった。

 そして抵抗する余裕も無い程に身体から力が抜けてしまい、やっと身体に力が戻って来たのを感じて目を開けてみる。

「……んん?」

 若き大尉が目撃したのは、明らかに異様な光景だった。

 何故なら今まで彼は部屋の中で執務に励んでいた筈だったのに、今は何故か何処かのベッドの上に寝かされているのだから。

 ベッドの上だけだと言うのであれば、もしかするとあの施設の中にある医務室に運ばれたのかも知れない……と予想出来る。


 しかし医務室では無さそうだ。

 周りの壁や天井、そして床を見ると、あの施設では使われていない筈の木材で全て出来ていたからだった。

 そんな場所に見覚えは無い。

 強いて言えば、上官であるリオスが演習に参加している森林地帯の中のログハウスみたいな場所かと思ったのだが、あの施設の中のそれも執務室で倒れてしまっていた自分をわざわざそこまで運んで来る理由がアイヴォスには考え付かなかった。


 じゃあ此処は一体何処なのだろうか?

 ゆっくりと身体を起こしてみるが、特に何処かを怪我しているとか何かの病気に掛かってしまったみたいな違和感は今の所では覚えない。

 ベッドのそばには光を採り入れる為の窓があるので、その窓からアイヴォスは外の景色を見える範囲で見渡してみた。

(何処かの山の中……みたいだが……)

 冷静な性格のアイヴォスは、こんな時でも慌てずに行動が出来ると自負している。

 見える範囲では建物がまるで見当たらない事、それから木や草が生い茂っている場所だと言う事までは分かった。

 だからここは山の中に建てられているログハウスで、その裏手に面している部屋のベッドに寝かされているのでは無いかと推測する。

 でもまだ推測の域を出ないので、今度は窓と正反対の場所にあるドアの方に目を向けた。

 ドアも壁や床と同じく木製であり、ますますログハウスらしさを見せる。

 誰かがこの家の中に居るのは分かる。

 そうで無ければ自分はこんな場所で寝てはいない筈だから……と思いつつ、アイヴォスはそのドアのそばの壁に背中を張り付けてドアの向こうの気配を窺う。


(人気は……無い様だな)

 ドアを1歩開ければそこは戦場かも知れない。

 人気が無いと思ってもトラップが仕掛けられているかも知れない。

 軍人として今まで生きて来たせいか、こうした未知の状況では自然と警戒する癖が付いてしまっているアイヴォスは今の状況でも同じだった。

 ゆっくりと、しかし隙の無い動きでドアノブに手を掛けてそのドアを手前に引っ張って開ける。

 その先には簡素なキッチンが存在しており、洗い立てであろう皿が水切りの為に逆さにして並べてあったり保存用の食料が部屋の隅に置かれている。


 そのキッチンにはまた2つドアがあり、アイヴォスはまずその1つを開けてみる。

(……あ、トイレか……)

 満足なライフラインも通ってない所為なのか、ドアを開けた瞬間にその臭さが漂って来たので若干顔をしかめつつドアを閉める。

 残ったのはもう1つのドア。

 同じく警戒しながら近付いて、その先に何があるのかを確認するべくドアの横の壁に背中をピッタリくっつけながらドアノブに手を掛けようとした……のだが。


 ガチャッと音を立てて、そのドアノブを手前に引っ張る前にドアが開く。

「……!」

 その瞬間、一気にドアから距離を取って身構えるアイヴォス。

 一体何者だと思いながら、ドアを開けて入り込んで来る人間の姿に警戒心を剥き出しにする。

「……あら、起きたんだ?」

 何時も帝国軍で勤務している時に、腰にぶら下げている筈のハンドガンは今は持っていない。

 非常警戒態勢等と言う様な何か特別な事情が無い限り、演習時間外の場合は実戦演習の施設内以外での武器の携帯は基本的にNGだったからだ。


 要は「その軍人個人が演習に参加している時」であれば武器の携帯が認められていると言う訳である。

 事前にどんな武器を持ち込むのかと言うのは4か国である程度お互いに通達が入っているのもあるし、近年はテロへの警戒が大きい為にそうした武器や荷物のチェックが抜き打ちで行われる事もある。

 なのであの妙な光に飲み込まれる前で言えば、演習に参加しているリオスは武器の携帯が認められている。

 だがデスクワークに従事していたアイヴォスは外出用のハンガーに掛けられているコート等のホルスターに入れておくだけで、今の彼が着ている青い軍服そのものへの携帯は許されていなかった。


 その規約を思い出して苦々しい顔つきになるアイヴォスだが、そんなアイヴォスに動じる事も無くそうやって声を掛けて来たのは金の長髪を頭の後ろで縛り、青いシャツを着て緑のズボンを履き、折り返しの部分が白の、黒いハイロングブーツを履いている茶色い瞳の女だった。

「……貴様は一体何者だ?」

 だが、アイヴォスにとっては敵かも知れないので彼は油断せずに身構えたままだ。

 アイヴォスのその身構える様子を見た女は、アハハと笑ってこう言い出した。

「やあねえ、そんなに身構える必要無いわよ。少なくとも今の私は貴方にとって敵じゃ無いから」

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