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59.行く気は無い

 怒りの感情がミックスされたエヴェデスのその問い掛けに、ローブ姿から動きやすい服装に着替えた魔法王国カシュラーゼの筆頭魔術師と、短剣2本を武器とする王国騎士団の団長はそれぞれ顔を見合わせて頷いた。

「そうか、やはり貴様があの馬車の中から計画に関しての資料を持ち出したのだな。それなら私達も納得が行く」

「その計画を知られてしまった以上、このまま俺達も黙って見過ごす訳にはいかねえな」

 納得した様子の2人だが、エヴェデスは何ら納得が行かない。

「んなこたぁ聞いてねえんだよ!! 俺はてめぇ等のやってる事が、他の国に喧嘩売る様な真似なのかどうかって聞いてんだ。てめぇ等が納得しようがしまいが俺には関係ねえ。さっさと答えろよ!!」

 自分の望む答えが返って来ないのでますます怒りのボルテージがアップするエヴェデスに対して、手でやんわりと制しながらドミンゴが答え始めた。

「せっかちな奴だな。それじゃ城に連れて帰る前に教えてやろう。確かに貴様の言う通り、私達は世界中に対して戦争を仕掛けるつもりだ」


 そう言うドミンゴの口振りには何処か余裕があるので、そこについてもエヴェデスは気になった。

「やっぱそうかよ。でもそれにしちゃやけに御前等はのんきなもんだな。俺なんか追い回してないで、さっさと攻め込めば良いんじゃねえのか? 得意の魔術テクノロジーでよ!」

 すると、今度は銀髪の男が口を開く。

「俺達はもう攻め込んでいる。と言うよりも、水面下で計画は着々と進んでいるんだ。それを部外者……つまり貴様の手によって、国外の人間にベラベラ喋られて知られる訳にはいかないんだよな」

 そこで一旦セリフを切って、銀髪の男はエヴェデスに質問をする。

「ならば俺達からも質問だ。計画書を持っているのなら返して貰わなければならないが、それは何処でどうやって手に入れた? それから俺達の計画も大体知っているんだろうから、自分の言葉で予想してみてくれないか?」


 少し予想外の質問であったが、今までのやり取りで脳内にアドレナリンが出ているエヴェデスはその2つの質問にも興奮気味に答える。

「ああ良いぜ、だったら教えてやんよ。俺はあの資料を御前達が何かのパーツを運んでいた馬車の中から見つけた。あの運んでいた金属のパーツは空気清浄機のパーツだな? その中に潜り込んで楽をさせて貰ったんだよ」

 次に2つ目の質問に答える……前に深呼吸をして、自分の考えを頭で纏めてから再びエヴェデスは口を開く。


「それから2つ目……俺の考えを言わせて貰うけど、その空気清浄機を使った人についての話を聞いた事があってな。その空気清浄機を使い始めた時は何とも無かったけど、時間が経つに連れてどんどん体調が悪くなって行って、そして1年以上経った今じゃもう自分で歩く事も出来ないらしい。って事は誰でも、その空気清浄機に原因があるって考えるのが普通じゃねえか。そしてそんなパーツを運んでいた馬車で検問を抜けた事があったけど、ろくに馬車の中を調べもしないで通れたんだよ。しっかり調べてりゃ俺を見つけ出せた筈なのに、その時の検問は余りにもずさんだった。それは結局、パーツを国内に流通させて空気清浄機を組み立てるとか何かをして、色々なルートから国外に流通させて計画を進める為に検問もずさんだった……そんな話じゃねえのかな?」


 長い長いセリフで自分の予想を言い終えたエヴェデスに、ドミンゴは1つ大きく頷いて銀髪の男に質問を投げ掛けた。

「ライマンド、今の話を聞いてどう思った?」

「なかなか良い線行ってますね。貴様の言う通り、空気清浄機は1年の時間を掛けてゆっくりと身体の昨日を低下させる物質を生み出す様に設計してある。それを他国の重要機関……つまり城とか、それから研究施設とかに設置させて貰えば、後は俺達が何もしなくても勝手に他の国の戦力は低下する。力押しだけが戦術じゃ無いって事さ」

 話を振られたライマンドはそう答え、2本の短剣をそれぞれ両手でゆっくり構える。

 それを横目で見たドミンゴも自分の武器であるトライデントを構えつつ、エヴェデスにこんな質問を振った。

「最後の質問だ。私達と一緒に来る気は無いか?」

「無いね」


 エヴェデスがきっぱりと断ったので、交渉はこの瞬間決裂した。

「それじゃ仕方が無いな。俺達も実力行使だ。魔法王国カシュラーゼ王国騎士団長ライマンド・ヴァッティモ……参るぞ!!」

「魔法王国カシュラーゼ筆頭魔術師ドミンゴ・ルビエラ……参る!!」

 2人の男がフルネームで名乗りを上げて、目の前で名乗りを聞いていたエヴェデスにも2人の名前がようやく判明した瞬間にバトルがスタート。


 最初に向かって来るのは銀髪の騎士団長ライマンド。

 エヴェデスよりも短剣の数が1本多いので、手数の多さに注意しながら短剣を持つ手を足でキックしたり腕でブロックしながら自分も短剣を繰り出したりする。

 が、エヴェデスからライマンドがスッと離れたかと思えば今度はドミンゴのトライデントがエヴェデスに襲い掛かる。

 リーチの長さで言えばドミンゴが圧倒的に有利なので、エヴェデスはバック転で距離を大きく取って舌打ちした。

(こいつは……厳しいぜ!!)

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