57.屋内空間でのバトル
ガッシャアン!! と物凄い音が響き渡る。
当然その瞬間、港の中に居た騎士団員がエヴェデスの存在に気付いてしまった。
「おい貴様、何をしている!!」
「ちっ!!」
完全に自分のミス。こうなったらもう強行突破しか無い。
滑り落ちても何とか踏み止まったフェンスをもう1度掴み一気にガシャガシャと音をさせて駆け上がり、飛び越えて港町の中に入り込む。
革靴のままで地面の悪いフェンスの外側で戦うとなれば、滑ったり足を草に取られたりして確実に不利な状況になるからだ。
着地してすぐに、自分の姿を見つけたその騎士団員の肩に手を掛けて宙返りをしながらアクロバティックに飛び越える。
そうして背後に回り込んだエヴェデスが騎士団員の首に腕を絡ませ、一気にその首をへし折った。
「ぐげっ……」
妙な声と共に騎士団員が絶命したのを確認し、自分の姿を発見した事で騒がしくなって来る港町の中で生き残る為にエヴェデスは腰のベルトから短剣を引き抜いた。
バタバタと駆け寄って来る足音だけでも、聞こえて来るのはかなりの数の足音。
それに騎士団員も魔術師も区別無く襲い掛かって来るので、エヴェデスば正面からそのまま突破するのは無理だと判断する。
(くっ……)
ならば囲まれない様に戦うしか無い。
キヴァルス山での、狭い山道と高低差の戦法を応用出来る様な場所は無いかと辺りを見渡せば、色々と利用出来そうな物が目に入った。
なので人数で圧倒的に劣る分はそれ等で何とかするしか無い。
最初に向かって来た魔術師に回し蹴りを食らわせて怯ませ、心臓を一突き。
短剣を引き抜いてその勢いでグルッと回転し、その後ろからやって来た騎士団員の首元目掛けて横薙ぎに上手い具合に喉を切り裂く。
倒れ込んだ騎士団員を尻目に短剣を振って血を払いながら、港町の大きな倉庫を見つけたのでそのドアを思いっ切り開いて中へ飛び込む。
それもただ開けるだけでは終わらない。
倉庫に飛び込んだエヴェデスの後を追い掛けて来た騎士団員に向かって、外開きのそのドアを倉庫の中から蹴って全力でぶつける。
それからもう1度ドアを蹴って開け、ドアにぶつけられた騎士団員の首根っこを掴んでドアの内側に引きずり込んでそのドアを思いっ切り何度も何度も閉めて首の骨を折る。
意外とドアの力と言うのは侮れない。
周りに一切の遮蔽物が無い場所で戦うよりは、この3階部分まで通路が造られた吹き抜け状の倉庫の様に色々と物がある場所で戦った方が少しは有利に戦える。
エヴェデスも武器のナチスの短剣を持ってはいるが、ロングソードや槍に対してリーチではその構造上絶対に敵わない。
だったら別の要素、すなわち狭い場所での取り回しのしやすさであれば短剣の方が有利なのでその利点を活かして戦うのが賢明だろうと彼自身は考えていた。
更にこうした屋内空間、しかも棚や階段等上ったり下りたり出来る場所が沢山あるのならエヴェデスにとってはもっと有利になる。
(騎士団の奴等は鎧を着けているから、俺よりも身軽な動きは出来ねー筈だぜ!)
そう、「地球に居た時の常識」ならば機動性に特化した鎧でも無い限りは確かにそれは正しいと言える。
その常識が覆されてしまうのがこの異世界。
そしてその常識を覆して来たのは騎士団員達では無く、魔術師達の方であった。
エヴェデスがそれを実感するまでにそれ程時間は掛からなかった。
階段の高低差を利用して騎士団員を蹴り落とし、手すりを飛び越えて床に着地して転がって受け身を取りつつ立ち上がる。
そこから今度は別の階段……騎士団員を蹴り落とした階段よりも更に上の階へと続く階段に足を運ぶが、その横から何とスーッと人間の身体が浮かび上がって来た。
「はっ!?」
一瞬その光景に呆気に取られるエヴェデスだが、すぐに我に返ってその浮かび上がって来た人間の魔術師に全力でミドルキックをして地面へと蹴り落とす。
3階部分の通路は階段でしか上って来られない筈なので、騎士団員達はその階段を利用してエヴェデスを追いかけて来ている。
だが魔術師達は、どうやら空中に浮かび上がる事が出来る魔術を使って3階まで一気にショートカットを決められる様だ。
それにキックで地面に蹴り落としてもそれは一時的なものにしかならず、また浮かび上がって来ては手に持っている杖を振ったり手をエヴェデスの方にかざしたりして来る。
……が、それはエヴェデスにとっては全く効果が無く、そう言う事をされている側のエヴェデスも「一体こいつ等は何をしているんだ?」とこんな状況なのにも関わらずキョトンとしてしまう。
そしてそれはエヴェデスの横で空中浮遊をしている複数の魔術師達も同じらしく、その行動に意味が無いと分かると今度はナイフをそれぞれ取り出して来た。
そのまま空中浮遊を利用し、通路の手すりを乗り越えてエヴェデスに突進しながらナイフを突き出して来る魔術師達だが直線的な動きなので避けるのは難しく無い。
エヴェデスはフリーランニングで培った身軽な動きでひょいひょいと突進をかわし、1人1人が突進のスピードを殺してストップした所で確実に仕留めて行った。




