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47.嘘の報告書

 自分の矛盾を指摘された女はちょっと気まずそうな顔をしながらも、エヴェデスにその内容を話し始めた。

「一言で言えば野生の魔物を捕まえてその遺伝子を組み換えて凶暴化させてみたり、それから別の魔物同士を合成させて新たな魔物を生み出したりって言う事をやっていたのよ」

「そんな事したら生態系が狂ったりしそうなもんだがな……」

 柄にも無い疑問が出てしまうエヴェデスだったが、その時こんな疑問が彼の頭に一緒に出て来た。

「……と言うか、何でそこまで知ってるのかって事の方が俺には疑問なんだけど。あんたって一般人なんだろ?」

 何でこんな地方の人間がそんな事を知っているのだろうか?

 それに対して女は普通に答える。

「こう言う店をやってれば色々な情報が入って来るからね。この町の人間だけじゃ無くて、貴方みたいな旅人もこうしてやって来る訳。で、そう言った人達からはそうした情報が自然と入って来るんだよ」


 その説明を聞いて納得したエヴェデスだが、そうなるとその旅人達は何処でそう言う情報を入手したのだろうかと思い始める。

 それを女に聞いてみるのだが、またしても女は首を横に振る。

「それは私も知らないよ。そう言う情報を持ってるって言う人間の居る所と繋がりがあったって事じゃないの?」

「そう、か……」

 何にせよ、そうした情報を持っている人間がその情報をこの店主の女にも教えたらしい。

「んで、その実験をしたらどうなったんだよ?」

「大体予想は出来ると思うけど、その遺伝子組み換えをした魔物とか合成させた魔物とかを生み出した研究所で事故が起こったんだよ。1度に色々実験してたらしいからその研究所のシステムが耐え切れなくなっちゃって、それで魔力暴走が起こって研究所は大爆発。中に居た研究員達も全員死んじゃったらしいけど、その生み出された魔物達はその爆発にも耐え切って、そして逃げ出したのよ」


 それをさっきから聞いている話と繋ぎ合わせてみると、その先の話はエヴェデスにも分かって来た。

「じゃあその逃げ出した魔物達がこの国の各地とか、それから他国にまで……?」

「そうね。城のそばにある魔術研究所とはまた違って、西の方にあるソルイール帝国側の砂漠の中にある研究所で実験が行われていたから、自然と逃げ出した魔物達はソルイール帝国の方に殆ど向かっちゃったのよね」

「……そしてそれを、この国は全力で俺達のせいじゃ無いって言い張って隠蔽したのか」

 エヴェデスのセリフに女は真顔で頷いた。

「それでもねぇ、やっぱり改造生物が一杯逃げ出した訳だからその後の王国騎士団と魔術師達の対応は大変だったらしいわよ。今はもう駆除されたんだけどこの町の近くにもその改造生物が来て、かなり不安な状況が続いていたから」


 何処か遠い目をしながらそう語る女だが、エヴェデスの目線から見てみれば問題は西のソルイールとか言う国の方だった。

「それは分かるけど、その西の方はどうなったんだよ? 改造生物が多く流れ込んだ訳だから、真っ先にこの国のせいだと言って来そうなもんだけどな」

「それも詳しくは知らないよ。でも噂によれば、この国は嘘の報告書を綿密に作り上げてソルイール帝国を始めとする他の国に送ったんだ」

「嘘の報告書?」

「ああ。『原因は不明だが、遺伝子の異常で異常な姿をして生まれて来る魔物も居る』ってね。そう言うのも本当に居るのかも知れないけど、報告書の内容は嘘の可能性が限りなく高いって。それでも他の国は信じるしか無かった。魔術に関してはこの国が世界一と言っても良い。だからその研究結果に下手に異議を唱えれば、魔術テクノロジーの援助を断られる可能性もあるからね」


 衝撃的過ぎるそんな話を聞いた後、エヴェデスは食べ物を買って店を後にした。

「あーあ、これっぽっちか……」

 ある程度予想はついていたにしても差額分なのでそこまで多い金額じゃなかったのが災いし、買えただけの保存食を見てエヴェデスはガックリと肩を落とした。

 干し肉とパンが少し買えた位で全て手持ちの金が無くなってしまったエヴェデスだったが、今はそれよりもさっさとこの国から脱出する為に山を越えるのが何よりも優先事項なので、近くの人間に登山道への行き方を聞いてからパンをかじりつつ歩き出した。

 これっぽっちの食料で動けるエネルギーなんてエヴェデスにとっては微々たるものであったが、それでも何も飲まず食わずの状態で動くよりは完全にマシである。


(この世界は山の湧き水とか飲んでも平気なのかな?)

 あのワイバーンの職員が言っていた情報によると、これから自分が向かう何とかって言う山には川が沢山流れているらしいので、どうしても我慢が出来なくなったら川の水を飲んで水分補給をするしか無いだろうと思ってしまう。

(脱水症状で動けなくなっちまうのと、川の水を飲んで変な病気にかかっちまうの……どっちに転んでも結局悪い方向に転ぶなら、少しでも良い方向に転ぶ可能性がある方向に賭けてみるだけだろーがよ)

 山の中での行軍訓練もさせられた経験を持つエヴェデスは、湧き出る水が流れて来てその水が下流に行けば行く程に色々な汚れやゴミ等を巻き込んで流れて来る事を知っている。

 だから川の水を飲むなら上流まで何とか我慢して行くしか無いと決め、登山道の入り口に立った。

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