43.証拠隠滅
「それじゃあ最後の質問だ。その知り合いと倒れたって言うその知り合いの知り合いと、そしてその男以外にあの空気清浄機の事を知っている人間は御前達3人以外に誰が居る?」
「その知り合いが住んでいる場所の奴等は住民全員が知っているよ。それから近隣の村でも話題になりつつあるって言ってた」
「あの図書館の司書の女は知ってるか?」
「いや、そこまで声は聞こえてないから大丈夫だと思うぜ……」
「後は図書館の利用者は知っているのか?」
「それも無いな。あの時は確か俺達とあの男以外にあそこ等辺に居た奴は居なかった筈だから」
今の一連の会話をした中で得た情報から、ライマンドは頷いて尋問を終了した。
「分かった。これで尋問は終了とする」
「そうか。それじゃ俺達は……」
人払いをしたエントランスで、冒険者達の周りに安堵の空気が流れるのが分かったライマンドはその男のセリフに自分のセリフを続けた。
「ああ、死んで貰う」
「……は?」
目の前に居るターゲットの間抜け面をこれ以上見ない様に、そしてそのターゲットが自分の置かれた状況を理解する前にライマンドの短剣が男の喉を貫いた。
それと同時に残りの騎士団員達も、それぞれ槍とロングソードで仲間の冒険者達の首を撥ね飛ばしたり心臓に穴を開けたりして証拠を消しておく。
ターゲットの始末が終わり、ライマンドは周囲の部下達に確認する。
「後、こいつ等以外に今の出来事を見られた連中は居ないか?」
「……問題ありません」
「分かった。それじゃあ後始末はしっかり頼むぞ。それから今こいつ等が喋っていたその知り合いとそのまた知り合い、そして知り合いが住んでいる場所の奴等を『不審火』によって焼き払っておけ。全員住人が死んだのも確認しろ。それから噂が出回った所もくまなく調べておけよ。……急ぐぞ!!」
「はっ!」
空気清浄機の事が出回っているのであれば、今この国で進められている実験については大成功である。
だが、まだ噂を広められる訳にはいかない。
これからこの王国が行う計画に対して、他国に情報を漏らす訳にはいかないからだ。
その為にも、今の時点での目撃者や情報を知り得る人物は消しておかないとこの国が滅んでしまう。
見る人間が見たらこんな場所で一気に3人も殺してしまって大丈夫なのかと思われそうだが、騎士団の力で大抵の事は揉み消せるので特にライマンドは心配していなかった。
王国騎士団は一般国民よりも偉い存在として位置付けられているこのカシュラーゼ騎士団の中には、能力を持っている人間しか入れない事から騎士団員以外の人間を見下す団員が多いのが現状である。
それはライマンドも同じで、自分の立場であればこうした小さな問題等は赤子の手を捻るレベルで簡単に無かった事に出来てしまうので、何の躊躇も無くこうした事が出来るのだ。
ライマンド以外だと、例えば騎士団員の殆んどが貴族の出身なのでその貴族の権力を利用して同じ様に不祥事や都合の悪い事を揉み消すのはもはや当たり前だし、魔術師の方になると魔法王国だけあって騎士団よりも権力を持っていると言われるので同じ様に揉み消しや隠蔽は簡単過ぎてつまらない程だった。
実際は騎士団よりも魔術師の方が少しだけ立場が上なのだが、トップのライマンドとドミンゴの仲が良いので余りその辺りを気にする人間は居ない。
とにかく今の状況で空気清浄機の事案をまだ国内に広められる訳にはいかないし、試験的に何台か売り出してみただけでこんなレビューが伝わって来ているのだから、ライマンドはこの王国が進めている研究をペースアップする事をドミンゴと王に進言する事を決めた。
(けど……あの男が国内に逃げてしまったら厄介だ。そして国外で何かの拍子に空気清浄機の事を喋られて広められでもしたら計画は全て水の泡だ!!)
その図書館に居たと言う証言、それから宿屋を出てから向かったワイバーンの牧場の職員の話を聞いて大体の行き先を絞り込む。
「まずいな、あいつはこの国を出ようとしている。他の国に逃げ込まれたら国際問題になるから流石に俺達でも手出しが出来ない。例えそれが前の大戦で同盟を組んでいた国だったとしてもだ。だから何としてもその前にあいつを捕まえるぞ!!」
あの男はワイバーンを利用しそのまま国外への脱出を図ったらしいが、まだ出発してからそんなに時間は経っていないのだと言う。
そしてワイバーンは夜になると視界が利かなくなる為、夕方からそのワイバーンを利用しても時間的に国内の町への移動しか出来なくなるとの情報も職員から聞いたライマンドは更に行き先を絞り込む。
(国内からまだ出ていないとなれば追い付ける可能性は高い。職員の話によればエスヴァリーク方面へ向かったとの話がある。俺があの男の立場だったらなるべく国境に近い町で降りてそこから国境を陸路で越えるだろうから……)
そうやって予想すれば行き先を1つの町に絞り込めたので、部下達を集めてからこの町に設置されている魔術のテクノロジー……転送陣を馬と共に利用してその町に向かった。




