39.寝過ごした!!
「―――っはぁっ!? はぁっ、は……あ……あっ……」
ガバッと飛び起き、エヴェデスは自分が汗をかいている事に気が付いた。
何て夢を見てしまったんだろうか。
もしかして、この夢が今の現実になっているんじゃないだろうか?
そう思ってまだ夜が明け切る前の窓の外を見たり、それからドアの外の気配を窺ったりしてみるがどうやら杞憂に終わった様だと彼は息を吐いた。
(俺、相当追い詰められてるみてーだな)
この世界にやって来て、日数は確かまだ1週間も経っていない筈である。
それなのに精神的にも肉体的にもハードな日々が続き、エヴェデスも流石に疲れの色が見えていた。
肉体的な疲れは安静にしていれば徐々に無くなって行く筈なのだが、精神的な疲れがその回復の邪魔をしてしまっている様だと彼は自己分析をする。
こんな精神状況がこの先で続く様な展開があれば、間違い無く精神も肉体も限界を迎えてしまう。
その前にこの頭のイカレた王国から逃げ出すしか無い。
明日の朝になればワイバーンのタクシーが利用出来る。そのタクシーを利用して後はそのワイバーンでエスヴァリーク帝国まで向かえば、それだけでかなり精神的な負担は軽減出来る筈だ。
(とにかく、今はもう少し寝ておいて体力を回復するのが先だな)
汗で肌に纏わりつく服が気持ち悪く感じるが、今自分が着られる服がこれしか無いので我慢しながら再度エヴェデスはベッドに潜り込む。
せめて今だけは、朝までまた怖い夢を見ない様にと願いながら。
本当は、朝1番にそのワイバーンの牧場に向かってエスヴァリーク帝国に向かう予定だった。
だけど身体の疲れはその命令に従う事を妨げる原因になったらしく、エヴェデスが目覚めたのはすでに陽が高く上った頃だった。
「げぇーっ!? 寝過ごしたあっ!!」
せめて疲れはスッパリ取れたのかと思いきや、中途半端な時間に目が覚めてしまったせいかまだ少し残っている様だ。
それに昨日の気分が悪くなる夢とはまた違い、寝坊してしまったせいで絶望感による意味で汗をかいてしまっているエヴェデス。
(……しょうがない、飯食ってクリーニング受け取ってそれから牧場に向かうか……)
絶望も度が過ぎてしまえば冷静になるらしい。
エヴェデスも地球に居た頃からこれまでの人生の中で何回か経験があるが、どうあがいてもどうしようも無い状況になってしまうと1周回って気持ちが冷静になる。
そして、それは異世界でも変わらないらしい。
(騎士団に捕まるかも知れねーけど……でも、何か冷静になっちまったぜ……)
この状況になったら下手に焦ってやるべき事を忘れてしまうよりも、焦らずにゆっくり行って確実にワイバーンに乗るチョイスをエヴェデスは選んだ。
まずは昨日預けたクリーニングを受け取る事から今日の1日を始めるべく、最低限の身だしなみを整えてエヴェデスは宿のカウンターに向かった。
「メシどうすっかなぁ」
朝食を摂らなければ頭も働かないし身体も動いてくれない。
寝不足と同じ位に「食事を抜く」と言うのは身体にとって悪影響である。
その悪影響な今の空腹な状況を何処で解消しようかと思うエヴェデスだが、前日に確認した通り金には余り余裕が無いので少しでも安くて腹一杯食べられそうな物を探してみる。
すると、ある店が目に飛び込んで来た。
(んん、あれは……)
別に朝食が摂れるのであれば何も無理に飲食店に入る事は無い。
地元のドイツでも、それこそ催し物の場合等で見かける頻度が高くなるそれ……色々な物を売っている屋台を発見してエヴェデスは食べ物の屋台へと足を運ぶ。
「おーい、この肉の串って幾らだ?」
そう言うノリでエヴェデスは買える範囲で食べ物を注文し、少し腹を満たした後にあのワイバーンの牧場へと向かう。
クリーニングもして貰ったし、さっさと後はこの王国から脱出するだけだったのだが……。
「……あんた遅過ぎるよ。急ぎの客が入ってしまって、今日は夕方まで戻らないんだと」
「えっ……」
ワイバーンの牧場で計画が大幅に狂ってしまった。
こうして結果的に、夕方まで待たなければこの町から脱出出来ないと言う事が分かってしまったのでエヴェデスはガックリと落ち込んでしまった。
「はぁ……ついてねぇ……」
急ぎの客が居るのであれば、ビジネスとして余程の事が無い限りはそちらを優先するのが当たり前なのだろう。
民間企業に就職した事が無いエヴェデスは、そうしたビジネスのあれこれについては良く分からないのであくまで自分の予想の範囲でしか無かったのだが。
少なくとも、これで夕方まではこの町から身動きが取れなくなってしまった事になる。
だけどこの町を魔力が無いこの身体でウロウロ歩き回れば、そこかしこで怪しまれて騎士団に通報されると言う未来が見えてしまう。
あの宿屋もチェックアウトしてしまったし、何処かに身を潜めて夕方まで時間を潰すしか無いだろう。
もしかしたら時間の関係で国外までは行けないかも知れない。
だがそれでも国外には出たいので、その職員に夕方1番のワイバーンでよろしく頼むとだけ伝えて、エヴェデスは町へと再び繰り出した。




