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38.悪い意味でのご都合主義

 すると職員からはこんな答えが。

「基本的に国内の町だったら何処でも飛べるよ。国外まで行くってなると追加料金が距離によって変わるがな」

「そうか。じゃあ一旦荷物取って戻って来るから、エスヴァリーク帝国まで頼みたいんだけど……」

 しかし物事はそうそう上手く行かないらしい。

 良い事の後には悪い事が巡って来るとエヴェデスは親から教えられた記憶があるが、その記憶が現実のものとなった。

「済まないが、国外まで飛ぶってなると今日はもう受付出来ないよ」

「えーっ!?」

 移動出来るなら今すぐにでも移動したいエヴェデスの計画はますます狂った。

「そろそろ陽が沈むから、夜の飛行は前が見えなかったりして色々と危険でね。ワイバーンだけなら夜目が利くけど、人間が操縦するからそうも行かないんだ。明日の朝一番で出発出来る様にしておくからそれで良いか?」

「う……分かったよ」


 地球であれば飛行機が夜に飛んでくれるけど、世界が違えば常識も違うのは当たり前らしい。

「料金は前払いだから先に預からせて貰うよ」

 割増分の国外までの料金を払い込み、明日の朝になったらすぐにここにやって来ようと決めてエヴェデスはその足で服屋に向かう事にする。

(一般的な服装ならそれで良いよな)

 派手な服装は目立ち過ぎる。

 だからこそシンプルに、そして安い服であればそれで良いと考えるエヴェデスは再び町の人間に聞き込みをして服屋へと向かったのだが、悪い流れはまだまだ続くらしかった。


「……あれっ、結構金掛かったんだな……」

 今までに何回か金のやり取りをしていた中で、どの硬貨やどの紙幣がどれだけの価値があるのかを理解して来たエヴェデス。

 そもそも硬貨や紙幣の表面にアラビア数字でその金の価値が描いてあるので問題は無かったのだが、サーヴォスで食料を買い込んでこの町で宿代を支払ってクリーニング代も支払って更に前払いでワイバーンタクシーの料金も支払った結果、何と金が底を尽きかけていた事が判明する。

 そしてその残金は、真面目な話でシャツ1枚も買えないと言う悪い意味でのご都合主義となって現在のエヴェデスに襲い掛かった。

(う、嘘だろ……!? こんなのってありかよ!?)


 結局衣料品店での購入は諦めるしか無く、落胆した表情でエヴェデスは宿に戻った。

 まさかこんな悪い方向に事態が転がるとは思っていなかった。

(あーくっそー!! こんな事だったら先にこっちで色々買い込んでワイバーンの予約もして、最後に宿に行けば良かったじゃねえかあああああああ!!)

 持ち込んだ食料で夕食を摂った後、その宿のベッドの上で自分の今までの行動を後悔しながらエヴェデスはゴロゴロと狭いシングルベッドの上を転がるが、今更後悔してもやっぱり遅い事に変わりは無かった。

 とにかく今は身動きが取れない以上、明日の朝まで騎士団員に見つからない様にするしか無いだろう。

 自分に魔力が無いと言う事は絶対今まで出会った人間全てにばれているから、騎士団員に連絡が行く可能性は非常に高いと思いつつも、今はとにかく夜が明けるのを待つエヴェデス。

 本当は眠らずに自分に追っ手が来ないかどうかを部屋の中からドアの外、そして窓の外に向かって確認しておきたかったが、今までずっと歩いて来た事と精神的な疲れが睡魔を呼び込んだ為にベッドの中で意識が闇の中に沈んで行くのはすぐの事だった。


 その沈んだ意識の世界の中で、エヴェデスはひたすら走っている。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 息を切らせながら走っているドイツ連邦軍の制服姿の男の後ろからは、甲冑で武装した男達が手に武器を持って「すばしっこい奴だ!!」だの「止まれ!!」だのと叫んでいる。

 そんな叫ばれても止まる訳には行かないエヴェデスだが、目の前に広がっているのはただただ広大な草原だけ。

 地平線しか見えない世界でひたすらに息を切らしながら走り抜けるエヴェデスだが、終わりが見えない世界でこのまま走り続けて一体何処に行くのだろうか。

 そもそもここは何処なのだろうか。自分はどうして見つかってしまったのだろうか。

 色々とおかしい事に心が疑問を呈しながらも、それでも走り続けるしか無い。


 しかし、その足を止めざるを得ない展開になった。

「……はっ、はっ、は……は!?」

 目の前に何かが見えて来たので息を切らせながらもそれを確認しようとしたのだが、何とそこで道が切れている。

 つまり断崖絶壁だった。

「え、あ、うわ……!!」

 いきなり止まったので気分が悪くなるが、それよりも気分が悪くなる存在が後ろからやって来ている。

「はぁ……はぁ、くっ!?」

 後ろから武器を構えてエヴェデスを追って来ていた騎士団員達が、甲冑の兜の上からでも分かる位に嬉しそうなオーラを出しながら武器を構え直した。

 そしてその甲冑の騎士団員達の中から1人の男が現われる。

 その男は甲冑を着込んでいない銀髪の男。短剣を隙無く両手に1本ずつ構え、じりじりとエヴェデスの方に歩み寄って来る。

「さぁ、どうやらここまでだな?」

 エヴェデスに向かってその男はスピードを上げ、一気に詰め寄って来た――――

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