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34.まだ居るの?

「じゃあ、その2人組の情報がこの国にもっと詳しく入って来た場合は、それこそ騎士団とか魔術師部隊が何としても2人組を捕まえようとするだろうな」

「ああ。戦争を起こした過去があり、それから今でも戦争を起こそうとしているって噂されてる国だからな。魔力が無いその男女の事をそんな行動的な国に話したら、何としても騎士団も魔術師部隊もその男を捕まえに来るだろう。あんたと同じく、な」

「お、おう……そうだな」

 実際に自分は今の状況で追われているので、苦笑いを漏らすしかリアクション出来ないエヴェデス。


「それじゃ、2人組はまだ行方不明のままなんだ?」

「そうだな。でも、うーん、行方不明って言えばええと……その……」

 話にはまだ続きがあるらしいが、何だか歯切れの悪いマスター。

 その様子を訝しんだエヴェデスが器用に片眉を上げれば、マスターはカウンターの上に置かれている自分のお茶が入ったコップを手に取って一気に飲み干した。

 喋り続けて乾いた口の中をお茶で潤し、その歯切れの悪いセリフの続きを喋り出す。


 だがその瞬間、エヴェデスに大きな衝撃がやって来るのだった。

「それと……魔力を持っていない人間が現れたのを知っているのは、エスヴァリーク帝国の騎士団長だけじゃ無い。この王国と海を挟んだソルイール帝国と言う所にも前に現れたそうだからな」

「え、え……え?」

 まさかの事実がここに来て明かされた。

 てっきりエスヴァリークのその騎士団長だけの話だと思っていたのに、まさか他の国にも魔力を持っていない人間の存在があっただなんて。

 勿論これも聞き出しておかなければいけないと悟り、エヴェデスはさっそく質問する。

「ちなみに、それは一体どれ位前の話になる?」

「そっちの人間に関しては確か……5~6か月位前かな?」

「あれ、あんまり時間が経っていない話になるんだな? そっちの人間は今どうなってるんだ?」


 マスターは残念そうに首を横に振る。

「それがそっちも行方不明らしいんだ。この王国にはやって来てないみたいだけど、実際の話はどうなのか俺も分からん」

「そうなのか? その帝国にも現れて、しかもそんなに時間が経ってるんだったらそれこそその帝国だけじゃ無く他の国に通達があっても良い筈なのに。まぁ……その帝国も俺と同じく魔力を持たない人間の話を、この王国にだけはしたくないんじゃないかって気持ちもあるんじゃ無いか、とは思うけどな」

 そのエスヴァリークの騎士団長が知っているらしい人間の話ならともかく、それなりの時間が経っているのに未だに見つかっていないって言うソルイール帝国の話も不思議だ。


 でも、地球でも凶悪犯罪を犯した人間が何年にも渡って逃げ続けていると言う事もあり得る話なので、その辺りを考慮すれば別に変な話では無いかも知れない、と考えるエヴェデス。

 しかし、その後にもたらされたマスターの話に再びエヴェデスはびっくり……いや、それを通り越して表情が凍り付くのが自分でも分かってしまった。

「そっちの帝国の人間も、俺と同じ様に魔力が無いってだけで追い掛けられているのか?」

「あ……いや、それとはまた別の理由だと思うぞ」

「はっ?」

「……これはもうこの王国でも有名になっているんだが、ソルイール帝国の騎士団長と、その騎士団長に目を掛けられていて「ソルイール帝国の英雄」とまで呼ばれていた男が魔力を持たない人間に殺されたんじゃ無いかって話があるんだ」

「え?」


 エヴェデスは自分の耳を疑ってみたが、どうやら正常らしい。

「殺された……? しかも騎士団長が?」

「あくまでも憶測にしか過ぎないのだが、その時の状況からしてほぼ魔力を持たない人間の仕業と言う事で間違い無いらしい。ただ、どうやって殺されたかやどんな経緯でそんな結末を迎える事になったのかまでは俺も知らんぞ」

 色々と予想の斜め上を行く話が出て来て、エヴェデスは自分の首筋に冷や汗が流れるのが分かった。

「プライドって言うのもあるんだろうな。エスヴァリークの騎士団長はその2人組の異世界人と接触しただけ。だがソルイール帝国では自国の騎士団長と、それからギルドのトップクラスに位置するだけの功績を持っていた帝国の英雄が殺されたんだから、そんな事が他国に知られればソルイール帝国が攻め込まれてもおかしく無いだろうし。……1つだけ確かなのは、この国と一緒であんたがソルイール帝国に行けば間違い無く追い掛け回されるだろうな」


 マスターの言う事も最もだろう。

 自分と同じ境遇の人間かも知れない人物がその帝国に居るのだとしたら行ってみたい気持ちで一杯なのだが、そうした境遇があって魔力を持たない人間に敵意が殺到している状況ならば自分が行けば間違いなく殺されてもおかしくないだろうと思ってしまったドイツ人。

 殺人を犯したかも知れない人間が、まだこの世界に居るかも知れない。

 しかも騎士団長と帝国の英雄と言うのであればそれなりの実績を残している筈だから、その2人を殺したとなればその上を行く実力の持ち主かも知れないし、毒殺やら暗殺やらを成功させたのでかなり頭が切れる人物かも知れない。

 いずれにせよそのソルイール帝国に行くのは止め、この先はエスヴァリーク帝国を目指す事に決めた。

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