29.具体的なプラン
鉱山のふもとの町と言う事で、至る所に大きな掘削用の機械らしき物があったりそこら中で石や岩の詰まった袋を運んでいる男達が居た。
自分も軍人として日々身体を鍛えている為、体力仕事だったらある程度自信は持っているとエヴェデスは思いながら町の中に足を進める。
この町の中には騎士団員が居るのか……と警戒するのは勿論だが、ここで情報収集をしておかなければ次の場所の検討はつかない。
ゴリソニーの町の方に行ってたら今頃自分はどうなっていたんだろうかとも思ってしまったが、今更そんな事を気にしても仕方が無い。
重要なのはこれからの事であろうと思いつつ、ひとまず腹ごしらえの為に料理屋に入る。
マントは羽織ったままにしておかなければ、血まみれになったナチスの服がバレてしまう危険性があった。
本当は宿屋で泊まっていきたい気持ちの方がエヴェデスは大きかったのだが、そんな事をして騎士団員がこの町にやって来た時に追いつかれてしまったら、せっかく切り抜けた荒くれ者達のバトル以上にきつい戦いが待っている筈だった。
なので宿屋では情報収集をするだけにしておこうと考え、料理屋で運ばれて来た料理に手をつける。
(ほほう、なかなか良さそうじゃねーか)
一般的なドイツ人のイメージに漏れず、ビールが好きなエヴェデスは酒も注文したかったが酔っ払うと酒癖が悪くなるのが分かっていた為ここは我慢しておく。
材料は何なのかは知らないが、鉱山の町らしくスタミナが売りになっていそうなボリュームのある肉料理を頬張るエヴェデス。
ちなみにあの倉庫から持って来た食料は全て食べ尽くしてそして飲みつくしてしまった。勿論酒もだ。
あの荒くれ者達と戦ってから妙にテンションが高くなってしまったのだが、そのテンションを鎮める意味で寝酒をしたのである。
一応酒には強い方なので、2日酔いに関しては今の所全く問題無い。
むしろ問題があるのはこれから先の話だ。
具体的なプランが全く定まっていない上に、自分は今追いかけ回されている身なのでさっさとこの町から他の町へと移るしか無い。
それを繰り返して行き着く先は……。
(もし、この世界が地球じゃ無いとしたら他にも国はある筈。それなら他国への脱出が目標だ!!)
王国騎士団の連中は自分の事を血眼になって探しているのが目に見える。
その行き先は……さて、何処にどうやって行こうか?
分からなければ人に聞く。
例え後から情報収集をされて足取りが掴まれてしまうとしても、逃げている自分が行き先が分からなければどうしようも無い。
闇雲に逃げて捕まってしまうのが最も今のエヴェデスが恐れている事だったからだ。
と言う訳でエヴェデスが料理を平らげているカウンターの向こう側に居る、その食べている料理を運んで来てくれたこの料理屋のマスターに思い切って切り出してみた。
「なぁなぁ、ちょっと聞いても良いか?」
「何だい?」
「俺さぁ、この国から出た事無くて……それで何処か別の国に行ってみようと思ってんだけど、隣の国でオススメの場所ってあるかな?」
これでもし隣の国が無かったら。
エヴェデスの心臓の鼓動が早くなって行く。
「隣の国……そうだな、隣だったらエスヴァリーク帝国に行ったらどうだ?」
「エスヴァリーク……どう言う国だっけ?」
だが次の瞬間、エヴェデスはとんでもない情報をこのマスターから手に入れる事になる!!
「何だ、知らないのか? エスヴァリークは密かに今盛り上がっているだろう?」
「何で?」
「聞いてないのか? 魔力を持たない人間が現れたって話だよ」
「え!?」
そんな話は初耳である。
と言うよりも、自分の目の前に居るこのマスターの口から自分は何を聞いた? とエヴェデスは必死に頭の中で今のセリフをリピートする。
(魔力を……持たない……人間……?)
魔力を持たない人間、それは自分の事では無いのだろうか?
だがさっきからこのマスターは、自分は魔力を持っていない人間の筈なのに下手に騒ぎ立てる様な事もしない。
その事に若干の不信感を覚えたエヴェデスは、遠回しに自分と今こうして対面してみてどう感じているのかを聞いてみる。
「そ、そんな奴が居るんだ。にしても本当に居るんなら凄いよな、魔力を持ってない人間なんて……」
「それはお客さんもだろう」
「……」
ズバッと言い当てられて表情も動作も凍りつくエヴェデスだが、それ以上の事をマスターは言おうとしない。
言わないのなら、思い切って自分から聞いてみるだけだとエヴェデスは思い切った。
「……俺の事、何とも思わないのか?」
「思ってるさ。魔力を持たない人間なんてこの世界には居ないからな。だがあんたの事は恐らく王国騎士団の連中も知らないだろうから、余り迂闊にベラベラ喋ったり他の人間に近付かない方が良いだろう」
「それは分かってる。あんたは騎士団に通報したりしないのか?」
魔力を持たない人間はこの世界では怪しい存在。
だったら騎士団に通報したりするだろうと思ったのだが、このクエスチョンを切っ掛けにして騎士団にまつわる重大な秘密をエヴェデスは断片的に知って行く事になる。




