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20.フリーランニングとは?

 以前実践した「普通のペースで無理に急がず」と言う歩き方で町の側面にエヴェデスが回ってみれば、どうやら町と言うよりも少し大きな村と言うのが正しいらしい。

 動物や部外者の侵入防止用の柵が設けられているが、エヴェデスにとっては何て事は無い高さだ。

 何故ならエヴェデスは、その柵を楽に超えられるスキルを軍に入った時から習得していたからである。

 それは、エヴェデスがドイツ軍に入った2001年の23歳の時から軍の同期の男の影響で始めた「フリーランニング」だ。

 フリーランニングとはフランス発祥のスポーツで、アクロバティックでダイナミックな動きが目を引く特徴となっている。

 同じく「跳ぶ」「走る」「登る」等の動きをする為に同じフランス発祥の「パルクール」に似ているとされ、この2つは見た目からも同じ様なスポーツだと誤解される事が良くある。


 だが、フリーランニングは宙返りやバック転と言ったパルクールには全く関係の無いアクロバティックな動きをするのに対して、パルクールは移動に掛かる時間をどれだけ短く出来るかどうかと言う事を追い求めるスポーツである。

 フリーランニングは時間短縮を目的としているパルクールとは違い、アクロバティックな動きからも分かる様に「パフォーマンス重視」のスタイルなのだ。

 それ故に危険なスポーツと思われがちなのだが、それはトレーニングを疎かにしていたり初心者だったりが軽い気持ちで危険な動きをするからである。

 経験を長年積んでいる者やトレーニングをしっかりしている上級者は危険な動きもしないし、自分の限界を知っているからこそ実力以上の無茶な動きをすれば死に繋がる危険もあるからだ、と分かっているのである。


 そんなフリーランニングを始めて今年で15年目。

 2001年にフランス映画の「YAMAKASI」をその軍の同期の男と一緒に映画館に見に行った事が切っ掛けでフリーランニングに興味を持ったエヴェデスは、当時から軍で習っていた軍隊格闘術だけでは身につかない様な素早い動きを自分も習得出来るのでは無いかと思い、軍の同期の男と共にフリーランニングのキャリアをスタートさせる。

 とは言うもののまだその時はハンブルク連邦軍大学(現ヘルムート・シュミット大学ハンブルク/ハンブルク連邦軍大学)を卒業したばかりの新人士官だった為、フリーランニングに費やす時間が余り無かった。

 本格的に取り組み始める事が出来たのは1年後であり、軍の運動場を使わせて貰ってようやくその本格的なトレーニングを始めるのだった。


 それから時間を過ごす事15年。

 少佐になって金銭的には幾らか余裕が出て来たものの、佐官の立場になった事で業務内容がかなり多くなったエヴェデスだったが、それでもまだフリーランニングは自分と同じく少佐の座についた同期の男と一緒に続けている。

 流石にもう40代を目前にして身体のキレが衰えて来た事を実感する事もエヴェデスはあるのだが、何もしていない人間から比べてみれば体力も瞬発力も持久力もあるしアクロバティックな動きもまだまだ出来ると自負している。

 実際あの魔法研究所で騎士団と魔術師達に追い掛け回されながらも、最終的にはしっかり逃げ切る事が出来たのはフリーランニングを続けていたからだったと彼は思っているのだから。

(まさか見知らぬ場所にやって来てまでフリーランニングが役に立つとは思わなかったけどな……)

 人生何があるか分からないもんだとしみじみ思いながら、そのフリーランニングを駆使して村の中に入る為に場所を見定める。


(柵があるけど、ちょっとよじ登れば入れない高さじゃねえな)

 細かく網の目状に鉄の柵が張り巡らされており、侵入者を防ぐと言う意味では強度は十分そうである。

 でもストレートにエヴェデスは心の中で一言。

(金が無かったのか? 普通に壁作りゃあ良いだけだろうに)

 これだけ網の目状に組んだ柵を作る位だったら、壁を作って防御させれば良いだろうになーと思ってしまった。

 それとも村だからそこまで大規模な壁は要らなかったのかな、とも思ってしまったがこの柵を作った人間では無いので真相は謎のままである。

 とにかく、この網の目状の柵があると言う事は「登って下さい」と言っている様なものなのでエヴェデスは先にトランクを入れた袋を柵の下の隙間から強引に柵の内側に押し込み、それから自分も登り始める。

 ここではフリーランニングのアクロバットな動きは一切必要無い。むしろ派手な動きよりも確実に上に登って行けるだけの腕力と体力が重要だ。

 柵の高さは目測でおよそ10メートル。

 大きく回り込んで村の入り口の検問から自分の姿が見えない様に気を付けていたが、もしかしたら他の所からも自分の姿が見えるかも知れないと思って時折キョロキョロと周りを見渡しつつ素早く登って行く。

 柵の内側には民家の裏手があるが、その裏手と柵の間には肥溜めがあるのでここが見つからずに村の中に潜入出来る場所だとエヴェデスは判断したのである。

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