14.起こって欲しく無いその現象
バチィィィッ!!
「ぐへぇ!?」
何とロングソードも同じ事になってしまった。しかもこっちは甲冑の時と違って触っただけで駄目らしい。
それに驚いたのはエヴェデスだけでは無く、こちら側に駆け寄って来た騎士団員2人もそうである。
だが流石に3回目ともなれば立ち直るのが早いエヴェデスは、目の前で起こった現象に呆気に取られたままの騎士団の片割れの顔をハイキックで蹴り飛ばして昏倒させる。
「ぐっ!!」
そのキックで気を失った同僚を見て我に返ったもう1人の騎士団員には、最初に路地裏に引きずり込んでノックアウトさせたこの倒れている騎士団員と同じくトランクを使って気絶させる。
「がは!?」
それでもまだ危機は去った訳では無いらしい。
裏路地の様子に気がついた新たな足音が聞こえて来たので、エヴェデスはこれ以上ここでもたついている訳には行かないと走り出した。
防具は身に着けようとすれば変な現象が起こるし、武器も触ってみるだけで同じ事になってしまう。
何が何だか意味が分からない。
この事について誰か教えて欲しいと思いつつも結局退散するしか無くなってしまったエヴェデスは、あの魔術研究所の時と同じ様に必死に逃げ場所を探す。
隠れられそうな場所は今の所見つからないし、狭い路地裏で行き止まりにでもぶち当たってしまったらそこでジ・エンドの状況だ。
チラリと後ろを振り返って自分を追い掛けて来ている人数を確認してみれば、今の所まだ2人しか居ない。
だったらここは……と振り返ったエヴェデスは自分を追いかけて来ている騎士団員に対してダッシュし、そのままスライディングで足払い。
今まで全速力で追いかけて来ていたその騎士団員はトップスピードの状態から急に止まれる筈も無く、思いっ切り前のめりに受け身も取れずに転んでしまった。
ドサッと重そうな音がして倒れ込んだ騎士団員だが、追って来ているのはもう1人居る。
そのもう1人の騎士団員に対してもエヴェデスは全速力で駆け寄り、腰のロングソードを抜かれる前に騎士団員の膝に足をかけてジャンプ。
重力を利用して空中から膝を落とし、その騎士団員のノックアウトは成功した。
その前に転ばされた騎士団員が再び起き上がって来ようとしていたので、エヴェデスは壁に向かってダッシュしジャンプ。
壁を右足でキックしてグルッと横に180度ターンし、そのターンした右足でそのまま騎士団員の顔を上手く蹴り飛ばす。
それでも尚も食い下がって起き上がろうとする騎士団員の顔に3度目のトランクをお見舞いして、これでようやく追っ手の危機は去った。
でもこのままここに居たら追っ手がまたやって来る可能性が非常に高いので、エヴェデスは騎士団員達が気絶している事を確認してから再び駆け出した。
(くっそ、これじゃあ俺は逃げる所かどんどん追い込まれて行くだけじゃねえかよ!!)
ただでさえ逃げる場所が見つかり難い路地裏で、それなりに重いトランクを持ち歩いた状態では甲冑を着けている騎士団員相手でもなかなか引き離す事が出来ないのが今の追いかけっこで分かった。
じゃあどうすれば……と走りながら悩むエヴェデスの目に、手に持ったトランクが目に入った。
(……流石にこの上下黒尽くめってのは目立つんじゃ無えのか?)
でも今の制服姿で出歩いてすぐに見つかってしまうよりはまだマシ……と言うレベルなので、こうなったら色々な意味で気は進まないもののこの非常事態にそんな贅沢も言ってられない。
しかも、あの謎の現象がその変装に拍車を掛ける。
あの音と光とそして痛みが出てしまうと言う現象が無ければ、自分だって鎧を着けて騎士団員達に紛れてこの町を脱出したいと考えていた。
だけど何故か甲冑を身につけようと自分の身体に押し当てた瞬間に、起こって欲しく無いその現象が起こってしまうのだから甲冑での変装をしての逃亡は不可能だ。
ならば……とエヴェデスは路地裏の先に目を向け、まだ奥側には捜索の手が及んでいない事を確認して走り出す。
そして1つの家に半開きになったままのドアを見つけて人の気配がドアの向こうに無い事を確認し、そこに迷わず飛び込んだ。
そこは何処かの店の倉庫、つまりここもまた裏口らしい。
倉庫にはランプがあるので明かりには困らないが、もたもたしていれば誰かがここにやって来る可能性が高いのでエヴェデスは素早くトランクを開けてあの時の資料と親衛隊の制服を出した。
大き目のトランクの中にはシンボルとも言えるハーケンクロイツの赤い腕章や襟章、飾緒、略綬等が着いている制服の上下、カーキ色のワイシャツに黒いネクタイ、それから当時のナチスドイツが着用していた黒い軍帽に黒いロングブーツ、白のナイロンの手袋に儀礼用の短剣が入っている。
短剣はどうやら制服のジャケットに着きっ放しのままなので、本当は取り外したいがその取り外している時間は惜しい。
考えている時間は無い。
エヴェデスは自分の制服をさっさと脱いで靴も脱ぎ、手早くその親衛隊の制服を身に着け始めた。




