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12.本物

 そんなエヴェデスを見てかなり怪しいと感じてしまった商店のオーナーは、王国騎士団員を呼んでこの男を連れて行って貰う事にした。

「……ちょっと待っててくれ。地図を持って来るから」

「あ、助かる」

 勿論持って来るのは地図では無く、既にドミンゴとライマンドからエヴェデスを捕らえる様にと通達を受けている騎士団員達のロープなのだが。

 それを知ってか知らずか、エヴェデスはオーナーの反応に対して一旦は安堵したものの頭の中に不安がよぎった。

(地図を持って来てくれると言ってたから少し待ってみるか……)

 だけどもこの胸騒ぎは一体何なのだろうか。


 ひとまず待ってみるエヴェデスだが、5分……10分と地図を取りに行ったにしてはちょっと時間が掛かり過ぎていると思う。

「おーい、まだかよー!?」

 店の奥に声を掛けてみるがオーナーからの返答が無い。

 もしかしたら店の中で倒れているのか? と思ってしまった彼は店の中へと入って行ってしまう。

「なぁ……地図が無かったら俺もう他に行くから……って、あれ?」

 店の中にはオーナーの姿が無い代わりに、店の裏口のドアが半開きになっている。

 普通は店の外に地図が置いてあるのだろうか?

 それか地図が無いので、誰か他の家に借りに行ったのだろうか?


 それともまさか……。

(俺、怪しまれてる?)

 裏口から出てキョロキョロと裏路地を見渡してみるが、オーナーの姿は見当たらない。

 段々と不安ばかりが胸の中に膨らんで来たエヴェデスは、自分の直感がここから離れた方が良いと告げている事に気が付いた。

(待てよおい、こんなの冗談にしちゃあ質が悪すぎじゃねえか?)

 速足でトランクを持ったままエヴェデスが裏路地を進めば、屋上に続く屋外階段が設置されている3階建ての建物があったのでそれを上って屋上へ。

 4階部分になるその建物の屋根に上って体勢を低くしつつそこから町中を見下ろせば、先程あの城の魔術研究所とやらで自分を追い掛けて来ていた騎士団員と同じ格好をしている男女達が、さっきの商店がある通りを引っ切り無しに行き交っている光景が見て取れた。


(さっきから一体何なんだよ!! 流石にここまでやるのってやり過ぎだろーがよっ!?)

 遠目から見てもあの甲冑を着込んでいる格好は間違い無い。

 エヴェデスはもう1度、最後の望みとしてスマートフォンを取り出した。

(頼むぞ……GPS!!)

 自分の知っている地名が出ます様に。帰り道のルートが分かります様に。

 そう心の中で祈りながらエヴェデスはスマートフォンのGPSシステムを起動させたが、結果は……。

『位置情報が取得出来ません』

「はぁ!?」

 思わずそんな声が出てしまい、慌てて口を手で塞ぐエヴェデス。

 下の通りをそっと覗いてみるが気が付かれてはいない様である。


(な、何でだよ……どう言う事だよ?)

 流石にこんな町中でなら……と思ったエヴェデスの思惑は一瞬にして崩されてしまった。さっきの城みたいな川の上流じゃなくて明らかに下流まで下りて来た筈なのに、町中の何処にもアンテナが立っていないなんて。

 これはもしかしたら本当に冗談では済まされない事態なのかも知れない。だとしたら異常事態が自分の身に降りかかって来ている事になる。

 さっきのオーナーの反応を見る限りは本当に自分の言っている事が分かってない様子だったし、見える範囲で辺りを見渡してみてもカメラクルーの類や他のスタッフの姿は見えない。

 それに、自分と同じ様に現代のドイツ……いや、現代の地球で見掛ける様なファッションをしている人間をこの町に入ってから1人も見かけていない。


 良く考えてみればさっきの川を下っている時も考え事をしていて余り覚えていないのだが、これだけのセットを運び込んでまでこうしたドッキリをやる価値が一体何処にあるのだろうか?

 エキストラにしては余りにも演技が自然過ぎるし、そもそもあれだけのエキストラを集めてまでこれだけの芝居をやらせる必要性をエヴェデスはどうしても理解する事が出来ない。

(って事は、ここは一体何処なんだ!?)

 もっと考えてみれば、あの光に包まれた時に自分は地下室にいた筈だとエヴェデスは思い返す。


 あの書斎の本がたっぷり詰まれた奥の、更に奥にある仕掛けを起動してまで自分を見つけ出し、そして今こうして手に持っているナチスの親衛隊の制服とあの魔術研究所とやらで奪って来た資料が一緒に入っているトランクごとあんな場所に連れて来るだけの労力に対する対価は存在するのか?

(……やっぱ無えよな、んなもん!!)

 そもそもあんな部屋を見つけられたら、光に包まれて自分が気を失ったとしても叩き起こされた挙句に軍か何処かに連行されて、「あの地下室は一体何なんだ!?」と厳しい取り調べを受ける方が先だとエヴェデスは思った。

(それをしない……いや、それを「出来ない」状況に俺が居るんだとしたら? それじゃあの魔術研究所と過去の資料の内容とか騎士団とか、あの城とかが全て「本物」だったとしたら……!?)

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