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59.馬鹿にすんなよ

「貴様を公都まで連れて来たのは失敗だった。まさか、魔力を持たないと言うだけでここまでやってくれるとは思わなかったからな」

 赤い髪の毛の男がアルジェントの方に背中を向けて、何かの機械を操作しながら口を開く。

 顔は見えずとも誰がやって来たのかは分かるらしい。

 その赤髪の男の前にある機械には、他のカプセルよりも一際大きなカプセルで培養されている……。

「あれ……これって、俺が最初に見た奴の……」

 姿形、まさにあのファーストコンタクトをした森の中の奇妙な生物と全く一緒だが大きさが約3倍。

 それがボコボコと泡立っている培養カプセルの中で動き出すのを待っているらしい。

 それを見て、アルジェントの頭の中で1つの嫌な予感が浮かんだ。

「まさか、あの時あんたが森の中で始末してたのって……」

 スラスラとあの時に説明された事でアルジェントは何の疑いも持たなかったが、今であればその予想はつく。


 アルジェントがその先を言う前に、彼自身がそれを認めた。

「そうだ。俺の作った失敗作が逃げ出してしまったんだ。開けっ放しにしていたあの森の中の階段から、外に逃げ出してそれ以降は行方知れずだった。そして俺があそこで始末した」

 そう言いながらラニサヴは培養カプセルを見上げる。

「本来は物凄く凶暴な性格だ。それこそ、目があっただけでと言うレベルでは無く生き物の気配を感知しただけで襲い掛かって来る様な……な。だけど性格を注入する前に逃げ出し、大人しい性格のままあそこでうろうろしていたからあんな物をあれ以上他の人間に見られる訳には行かなかった」

「……考えてみれば、あの失敗作が他にも生息しているってあんたは言ってたけど、結局今に至るまで見かけたのはあんたが討伐していた1匹だけって時点で何かおかしかった。あんたはそこまでして、このキメラを世に解き放ちたかったのか?」


「そうだ!」

 ラニサヴは叫ぶ。

「孤児から成り上がっても、結局は孤児と言うだけで認められない。例え騎士団長だったとしても、その上で実権を握っている人間は幾らでも居る。俺が幾ら民の為に改善策を提案しても、裏で金が動けばそんなものは握り潰されるだけだ。何が幸運の国だ! 何が運を味方にする歴史だ! そんなの結局はただの偶然にしか過ぎん。それを俺がここで証明して、こいつ等を世界中に解き放つ。俺の大切な恋人や孤児院で家族として育って来た人間を殺す原因になった国々への復讐として、この国からまずは滅茶苦茶にさせて貰おう」


 その長いセリフの内容に、アルジェントの中で何かが切れた。

「馬鹿にすんなよ!!」

「何?」

「だってそうだろ!? こんなの、その戦争を起こした国がやってるのと同じ事じゃ無えかよっ!!」

「違う。俺は復讐の為にやって来たんだ。あいつ等みたいに自分本位じゃ無い」

「思いっ切り自分本位だろ!!」

「何とでも言えば良いさ。俺の決意は変わらん」


 そして、と言いつつラニサヴは機械に取り付けられているレバーを下ろす。

「こいつが動き出すまで後5分。ああ……俺を倒そうなんて考えない方が良いぞ?」

「は?」

「こっちにはこれがあるからな」

 ピュイっと指笛を鳴らして、それを合図にまだ残っていたラニサヴの部下が物陰から出て来て誰かを連れて来た。

 それは何と……。

「そ、そなたは私に構わず騎士団長を倒せ……ぐほ!?」

「た、大公さん!?」

 部下は手に持っている斧の柄の部分で、後ろ手に縛られている大公の腹をど突く。


 何故彼がここに。

 いや、想像はアルジェントにもついた。

「まさか、俺が来る事を知ってあの地下の部屋から一旦城に戻って、こうしてここまで連れて来たのか?」

「そうだ。やはり貴様があの部屋に入って資料を盗んだんだな」

「そっちこそ、俺が本を忘れた事でやっぱり気が付いたらしいな。あれは俺も失敗だったぜ!!」

 アルジェントは軍服の内側から金の入っている袋を取り出しつつ、最後の「ぜ」を言い切ると同時に大公を人質に取っている彼の部下の元へと投げ付ける。

 それはかわされてしまったものの、最初からそれが当たるとも思っていなかったアルジェントは素早く部下の男に近付いてドラゴンスクリューで地面に引き倒し、素早く立ち上がって顔面をブーツの裏で踏み付けてノックアウトさせる。


 当然ラニサヴは大公を人質に取ろうとするが、アルジェントは立ち上がりながらポケットに入っているスマートフォンを今度はラニサヴに向かって投げ付ける事でそれを阻止。

 そのまま大公とラニサヴの間に割って入った。

「気を付けろ、彼は手強いぞ」

 大公の忠告に対し、アルジェントはラニサヴに当たって跳ね返って地面に落ちた自分のそのスマートフォンを回収しながら頷いた。

「ええ、さっき話してた森の中での失敗作の討伐を俺は見てましたから。こいつはかなりレベル高いですよ。大公さんは先に逃げて下さい」

 後ろ手に縛られたままだが足は縛られていないので、大公は魔法陣があるであろう場所に向かった。

「さぁて、タイマン勝負と行こうかぁ?」

 クイクイっと白い手袋をはめた指を上に向けて手招きするアルジェントに、ラニサヴは愛用のサーベル2本を引き抜いた。

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