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53.はめられた

「……おい、ここは何処だ?」

 近くの町へと向かっていた筈だったのに、気がつけば怪しい森の中。

 自分をここまで連れて来た馬車の御者が豹変して、武器のロングソードを手に襲い掛かって来たのはすぐ後の話だった。

 どうやらこの御者もまたラニサヴの手下として、自分を馬車に乗せる様に仕向けられていたらしいとアルジェントは御者の男の攻撃をかわしながら気づいた。

 つまり上手い具合に「はめられた」のである。

 しかも襲って来ているのは御者の男だけでは無い。

 森の中へと連れ込まれて、そこで異変に気がついたアルジェントを待ち伏せていたのは御者を含めて4人の男女であった。


 狭い森の中。囲まれたら終わりだ。

 だがその狭さを逆に利用する事も出来る。狭い事は近接格闘の最大の利点だ。何もせずとも勝手にスペースの問題で相手との距離が縮まるので、囲まれない様にすればこれ程アルジェントにとって有利な立場と言うものは無い。

 最初に躍り掛かって来た御者のロングソードを再びかわし、振り向いたその腕で裏拳をその男の顔に叩き込んでノックアウト。

 続けて向かって来る短剣使いと槍使いの2人の女コンビに対しては、まず勢い付けてナイフを振り被って来た女のその攻撃を回避して後ろから抱きつき、槍使いの女目掛けて抱きついた女を盾にしながら突進。


 流石に仲間を盾にされては攻撃を躊躇してしまうその女だが、アルジェントにとってはそんな事は何も関係無いのでその槍使いの女にナイフ使いの女を突き飛ばす。

 突き飛ばされた女を槍使いの女は回避するが、アルジェントは槍使いの女の腹目掛けてダッシュからのミドルキック。

 蹴り飛ばされて後ろの木にぶつかった彼女の側頭部目掛けて右回し蹴りでこれまたKO。

 ナイフを構えて再び向かって来たその女のナイフを持つ右手首を右手で掴みつつ、左手で女の後頭部を下に向かって思いっ切り押し込みながら地面に叩き付ける形で投げ飛ばす。


 後ろからは小ぶりの片手斧を持った男が向かって来たので、振り向きざまに斧を持っている右手を左のハイキックで弾いて男のバランスを崩させてからその頭目掛けて前蹴りっぽいミドルキック。

 ナイフの女が再び起き上がろうとしているので、先手必勝で女の胸を下から蹴り上げ強引に体勢を起こさせ、腹を蹴り飛ばして後ろの木の枝に彼女の頭をキックの勢いでぶつけて昏倒させる。

 最後の1人になった斧使いの男の方に振り向き、頭へのショックから体勢を立て直す前に彼の襟首を掴んで2発膝蹴り、更に右と左のパンチを顔に連続で入れ、止めに彼の髪の毛を左手で掴んで右手で顔を抑えて捻り回転させ、彼の身体が宙に浮かんだ所で強烈な前蹴りを腹に食らわせて終了。


 何とか待ち伏せていた人間達を全員倒して開発施設へと向かおうとしたのだが、大公の話によるとここからだとまだまだ遠いらしい。

 その為には馬に乗っていった方が明らかに早く着くのだが、アルジェントはそうも行かない。

(駄目だ、俺……馬には乗った事ねーんだよな)

 乗馬の経験なんてゼロ。ワイバーンに乗るまではラニサヴに抱きかかえられるむさ苦しいスタイルで洞窟やあの町まで行った為に、ここで無理に馬車の馬を拝借してそれで落馬して怪我をしたりするのは避けたかった。

(……こうなったらしょうがねえか)

 人間として最低な事だとは分かっているが、一刻でも早く開発施設に向かう為にはこうするしか無さそうである。

 覚悟を決めたアルジェントはゆっくりと歩き出し、まずは最初に襲い掛かって来たあの御者の元へと歩み寄って言った。


 森を抜けたアルジェントは、軍服の内側からジャラジャラと重そうな音をさせつつ公都の方へと向かって走り出す。

 御者を始めとして、さっきノックアウトさせたあの連中の懐から有り金全部を頂戴したのだ。

 確かに城に軟禁状態だったが、この世界の所持金はゼロ。今更ながら文無しよりは大分マシだと思いつつ、アルジェントは公都へ向かってその足を駆けさせる。

 不幸中の幸いと言うか、馬車が出発しておよそ20分のそれ程遠くない森の中だった為に公都まで戻るのはそこまで時間が掛からない事である。

 それに馬車のスピードは名目上は乗り合い馬車だった為か、歩いても追いつけるレベルだったので歩いて20分と言っても間違いは無いだろう。


 とにかくさっさと公都まで戻って別の馬車を探すしか無さそうである。

 でも、またラニサヴの息の掛かった連中の馬車に捕まってしまったらそれは無駄足で終わってしまう。

(あの野郎は俺がこうして乗り合い馬車を使って移動する事まで計算に入れてたって訳か?)

 だとしたらかなりラニサヴの人脈は広いと言う事になる。油断は出来ない。

(くっそ、また捕まらない様にするにゃあ……うーん……)

 走りながら悩んでいたアルジェントだったが、そうすると自然と息切れしているのも忘れて何時の間にか公都バルナルドの近くまで戻って来ていた。

 それに気がついた瞬間、自分が息を切らしている事も自覚する。

「はっ……はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……」

 シラットや軍のトレーニングでスタミナを鍛えているとは言っても、流石に20分も走り続けていたらロボットでも無い限り息切れするのは当然であった。

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