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40.殺人事件

「なぁ、聞いたかよ?」

「聞いた聞いた、殺人事件だろ?」

「そうそう、この町の地主が殺されたって……」

「喉をナイフで一突き。かなり手慣れた腕らしいって」

「同じ家に居た関係者の話だと、殺されたって言うのはどうやら昨日の夜らしいぞ? 朝起きてその殺された地主が何時までも起きて来ないから見に行ったら……って」

「うひゃー、こえーなそれ」

 町の至る所で、聞こえてはいけない筈の会話が聞こえて来る。

 どうやらこの町でも殺人事件があったらしい。


 そんな町の状況に、思わずリオスはホルガーに聞いてみる。

「この国の地主や有権者は、それ程までに人から恨まれるような事をして来た連中ばかりと言う事なのか?」

 そんなリオスの隣を歩きながら、ホルガーは腕を組んで唸る。

「……うーん、そこまでは俺も分からないけど……どうやら有権者とかが殺されまくっているらしいな。あんたと出会ったあの町でも何人も殺されたって話だったし。俺は有権者達とは前に話したあの火災事件の後からトラウマになっちまってるから、今ではそう言う連中とは関わらない様にしてるんで何が原因で殺されたとかまでは分かんねーな」

「そうか……」

 でもこれだけ殺人事件が続くと言うのであれば一刻も早く犯人が捕まって欲しいとリオスが考えていると、いよいよ路地裏に足が入り込んでいた事に気がついた。

「この先のほら……あれだ」


 ホルガーが指を差す先には、いかにも怪しい雰囲気を外見から分かる位に漂わせているショップがあった。

 入り口のドアにかけられている木製の小さな看板はひび割れていて薄汚れているだけで無く斜めに傾いているし、それをかけられているドアもひび割れていて隙間風が入っていそうだ。

 窓も紙を貼り付けて補修したのが外からでも見て取れるし、外壁の塗装も所々剥げている。

 そんなショップの外観に思わずリオスは眉をひそめたが、そこをお構い無しにホルガーは入り口のドアを手で押して中へと入り込む。

「あれ、ホルガー?」

 一体どうしたとばかりに、この店のオーナーであろう壮年の男が声をかけて来た。

 外見からすると5、60位だろうか? とリオスが考えているその横で、ホルガーとショップのオーナーはリオスにつけて貰う予定の指輪の相談をしていた。

「……ってな訳で、この人には身体能力向上の指輪を作って欲しいんだ」

「分かった。でも魔力が無いとなると私も未経験の事だからどうなるかは分からんが。今、仮の指輪を制作してみるから10分程待っててくれ」


 と言う事で店内を見回りながら仮の指輪の完成を待つ事になった2人だったが、唐突に作業をしているオーナーにリオスが問い掛けてみた。

「作業中に失礼するが、この国の治安が少し悪い様な気がする」

「……?」

「殺人事件がこの所頻発しているんだけど、この町でも1人また権力者が殺されたらしいんだ。あなたはこの町が長そうだから、何か心当たりは無いか?」

 その問い掛けに、オーナーは作業をする手を休めないままで答える。

「……今日の朝、騎士団の連中がこの店に来て同じ様な事を聞かれた。騎士団の連中が聞くなら分かるが、何故私に貴方がそれを聞く?」

 質問に質問で返されるのは余り気分の良いものでは無いが、それでもリオスは素直に思いの丈を吐き出した。

「防犯意識だ。頻繁に殺人事件が起こる様な今の状況で、不安にならない方がおかしいだろう。それにこの先には権力者だけじゃなくて、俺達の様な一般人が狙われないとも限らん。だから殺人事件が頻発する様な町、そして国で行動するのであれば自然とそういう情報に対して危機感を持つのは当たり前だからな。今の所、狙われているのは権力者だけなのか?」


 結構な長台詞を口数の少ないリオスが言うと、オーナーは顔を少しだけ上げて答えた。

「今の所は確かに貴方の言う通り、地主や貴族等の有権者や権力者だけだ。ただし何故狙われるのかと言う理由までは私は知らん。この町で殺されたのはこれで3人目になるかな。前の2人は確か2ヶ月前だった筈だ」

「そして今回の事件……時間帯に関しては今回と同じく夜から明け方にかけてなのか?」

「確かそうだった筈だ。これ以上の事は本当に知らない」

 それを聞いて、リオスは無意識にホルガーの方を向く。

「……何だよ?」

「昨日の夜と言えば、俺が尾行していた通り君が外出していたけど……」


 ホルガーに疑いの目を向ける様な発言をしたリオスに、そんな目を向けられた本人は大きく舌打ちをする。

「……俺も流石に怒るぞ? だったら今こうしてあんたの為に指輪を作ってやろう何て真似、する訳ねーだろ」

 そのホルガーの怒りにプラスして、ショップの店員がホルガーのアリバイを主張した。

「昨日は確かに私と2時間近くホルガーがこの店に一緒に居たし、誰かに尾行されている可能性があるから一緒に宿屋まで戻ってくれないかと頼まれて、その宿屋に帰る途中で出会った事件の真相を調べている騎士団員や、翌朝の早朝にそのまま聞き込みに来た騎士団員達にもそう説明した」

「まぁ、俺も尾行していたのがあんたとは本気で分かってなかったからな。さっきカマをかけたらそれが当たっただけさ」

 その2人の迫力に、流石のリオスも押され気味になりながら謝罪する。

「……疑う様な真似をしてすまなかった」

「全くだぜ」

 何処か気まずいムードになりながらも、そのまま待つ事数分でようやく指輪が完成した。

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