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49.やられる前にやるしかねえ

 大公は騎士団員を編成してくれるとの事だったが、その編成している間にもしキメラの開発が終わってしまったら?

 そう考えるとやっぱり居ても立っても居られないアルジェント。

 実際にもうラニサヴには目をつけられている可能性が高いので、何時殺されてもおかしくは無いと思っていた。

(くそっ……どうにかしなきゃ……)

 何時までもこうしていても拉致があかない。

 ラニサヴは用心深いから絶対に尻尾は出さないだろう。

 それに大公が騎士団員を編成すれば、騎士団の団長であるラニサヴが気付かない訳が無い。

(うーん……良しっ!!)

 待ってても殺される。動いても殺される。

 2つに1つの選択肢なら、少しでも可能性がある方にアルジェントは賭けるべきだと考えた。


(やられる前にやるしかねえだろ。騎士団の編成を待っている間に俺が殺される可能性もあるんだからな!!)

 そうなったらもう目も当てられない。

 決意したアルジェントは、大公とこの部屋で語り合った時に大公が部屋に持って来たメモ用紙の残りと羽根ペンでサラサラと筆記してから危険を承知で再び大公の元へと向かった。

 勿論ただ向かう訳では無い。

 自分が動く事によって、事態が思いもよらない方向に動く可能性があるからだ。

 それが頭の中で思いついたアルジェントは、それを執務中の大公に手短に伝える。

 今回の大公の執務室への入室理由は「地球の情報を書いたメモを渡しに来た」と言う事で実際に警護中の騎士団員にも見て貰ってクリア。

 英語でメモを書いて見た所、こちらの世界の人間にもきちんと読んで貰える事が分かったので逆翻訳機能もあるらしい。

(そこだけは本当に助かったぜ)


 メモを渡すだけだからと言って執務室の中に入ったアルジェントに、執務中の大公は驚いた顔を見せる。

「ど、どうした?」

「俺に考えがあるんです」

「え?」

 適当な地球の情報を書いたメモでは無く、懐から取り出した「自分の計画」を書いたメモを大公に渡すアルジェント。

 そのメモにざっと目を通した大公は、神妙な顔をしてアルジェントに問い掛ける。

「策としては悪くは無い。しかし、前にも言った通り危険だ」

「ですが騎士団の編成を待っていて、俺が殺されたらどうにもなりません」

 外に聞こえない様に小さく、しかし力強い声で大公にアルジェントは直訴する。

 その直訴して来る異世界の軍人の顔を見て、大公ははぁ……と息を吐いた。

「分かった。そなたがそこまで言うのであれば私ももう止めはせん。だが1つだけ私と約束して欲しい」

「何ですか?」


 不思議そうに問うアルジェントに、エレデラム公国の大公は真剣な目付きで約束の内容を言う。

「必ず生きて帰って来い。そして、また地球とやらの面白い話を聞かせてくれ」

 一個人の中でも最高の位である「大公」直々にそう言われてしまってはアルジェントも断る事は出来ないと苦笑いを浮かべる。

「完全に約束は出来ませんよ。けど、俺もこの世界で死ぬ訳には行きません。絶対に地球に帰りたいですから」

「そうだな。騎士団員達も後半日もあれば編成が終わるから、終わり次第すぐに騎士団長の施設に向かわせる」

「お願いします」

 アルジェントはそう言って敬礼をして見せる。それは自分が1人の軍人であると言う表れだった。


 アルジェントが大公の部屋を出た20分後、ラニサヴが大公の執務室へとやって来た。

「……大公、あの魔力を持たない人間は何処に行ったかご存知ありませんか?」

 表情には出ていないが、少しだけ身体がそわそわした感じが大公には見えている。

「え? いいや……私は知らんぞ」

「そうですか。先程こちらの執務室に向かったとの情報がありまして。一体何を話されていたので?」

 そう問われた大公は、無言で引き出しからアルジェントより渡されたメモを取り出す。

「地球とやらの情報を少しだけだが簡単に纏めて来てくれた。また何か面白い事があればこうして報告するらしい。……あの者にそなたは何か用か? 騎士団長」

 受け取ったメモに目を落としていたラニサヴは、大公のその質問に顔を上げた。

「用事があったのですが、何処に行ったんですかね? 部屋に行っても居ませんでしたので」

「さぁ? その内戻って来るんじゃ無いのか?」


 だから待っていれば良いじゃないかと言う態度の大公に、ラニサヴはガリガリと左手で頭を掻いて面倒臭そうに首を横に振った。

「探しに行きたいと思いますので城を少し留守にしても宜しいでしょうか?」

「……余りそなたに城を空けられても困るのだがな」

 自分の城を守る騎士団のトップであるラニサヴが外に出る事を渋る大公だが、そのラニサヴの決意は変わらない。

「いいえ、城の外に出るなと俺から言ってありますからやはり探して参ります。ご心配無く」

「分かった。それならば見つけ次第鷹か何かで連絡をしてくれ」

「分かりました。では、行ってまいります」

 そう言い残してキビキビとした動きで部屋を出て行く騎士団長の背中を見て、大公は心の中で呟いた。

(……頼んだぞ、異世界からの来訪者よ)

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