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39.調べて貰いたい事

「見返り……か。では聞くが、そなたは何が欲しい?」

 もうこうなったら言えるだけ言ってやれ。

 そして諦めさせれば良いじゃんかと決意したアルジェントは、自分の思いつく限りの見返りを大公に言い始めた。

「まず、俺が求めているのは地球に帰る為の情報です。これが何よりも最優先」

「そなたの世界の情報……と」

 いそいそと世界地図の裏に羽根ペンでメモを取り始めた大公を前にして、アルジェントは次々に自分の見返りを述べて行く。

「それから地球だと俺は軍人ですけどこの世界じゃ無職なんで、何か俺にも出来そうな仕事があれば」

「具体的に何が出来そうだ?」

「力仕事なら大体の事は大丈夫ですけど」

「ふむ、力仕事……と。他に何か仕事と情報以外の条件は?」


 だったらまだあるぜとアルジェントは更に要望を述べる。第三者から見ればふてぶてしいと思われても仕方が無い態度だ。

「後は美味い食事と身体を存分に動かせる場所と今後の生活の保障。万が一地球に帰れないかも知れないってなった時の、俺の一生分のそうした生活の保障を約束してくれませんか?」

 そう、もしかしたら地球に帰れない可能性もあるのだ。

 だからこそこの世界で生きて行く術を見つけなくてはいけないのだが、ならばここで頼んでみるかとアルジェントは大公にミッション受領を諦めさせる覚悟で言ってみた。

「一生分の保障……それで終わりか?」

「ええ、これさえあれば俺はもう満足ですよ。あー後それと、地球に帰る事が出来るかも知れない情報があるならそこまで騎士団の護衛付きで俺を連れて行く事も追加で」


 流石にこれだけ言えばミッション受領を自分に諦めさせてくれるだろうと思っていたアルジェントだが、大公は紙にサラサラとメモを取るとその筆記用具である羽根ペンを置いた。

「分かった、そなたの希望は全て叶えよう」

「へ?」

 大公の口から発せられた予想外の答えに、思わずアルジェントは間の抜けた声を出してしまった。

「え、えっと……それって……」

「何だ、まだ何かあるならそれも言ってくれ。こちらとしてもそなたへの協力は惜しまんぞ?」

「え、あー……それじゃ俺は酒が好きだから、この世界で1番のワインを……」

「ワインだな」


 もしかしてこれって、自分が墓穴を掘ってしまったと言う事になるのだろうか。

 いやそうに違い無い。

 断るつもりで色々ベラベラと喋りまくって自分の願望を話しまくっただけなのに、それを全てこの大公は了承してくれた。

「……えっ、本当に約束してくれます?」

「ああ勿論だ。疑り深いなら後でそれ相応の書状を作って私の手形を付けた上でそなたに渡す様に用意させるが?」

 サラッとそう言われてしまい、アルジェントはこれ以上何も言えなくなってしまった。

 つまりそれはこのミッションを受注する他に無くなってしまったのである。

 本音を言えばやりたくない。

 だがその「やりたくない」と言うのをこうして遠回りに色々と要求する形で伝えてしまった事が、アルジェントがこのミッションを大公から受けるしか無くなる結果に繋がってしまったのだった。


 ミッション受注をする事になったアルジェントは、そのままこの場所で今後どうするかを大公と打ち合わせする。

 ラニサヴの怪しい動きはどうやら城の中でもあるらしい。

「尾行の前に、そなたには調べて貰いたい事があるのだが」

「どんな事です?」

「騎士団長はここ最近、仕事が終わると何処かへ抜け出す事が多くなった。そこで密偵を尾行させたんだが、何時もその尾行を撒かれてしまうのだ。まるで、魔術ですっと姿を消してしまったかの様にな」

「それって本当に魔術で姿を消してるんじゃあ……?」

 そう言う魔術がこの世界にあったって、そして騎士団長なんだからそう言う魔術を使いこなせるだけの知識があったって別に変じゃ無いとアルジェントは考えるが、その考えも間違いの様である。

「そんな大層な魔術はあの騎士団長には使えない。まぁ最後まで話を聞け。その騎士団長が消えた場所は複数存在している。しかし共通点があって、路地裏に入った後にそのままスッと姿を消す。そして気が付いたら城に戻って来ていると言う情報だ」

「何それ、すげー怖いじゃないですか」


 上級レベルらしい姿を消す魔術が使えない筈の騎士団長が忽然と姿を消してしまう。

 そして何時の間にかまた城に戻って来て仕事をしているとなれば、下手なホラー映画よりも怖い。

「だから私も不思議なのだ。そこで騎士団長が言っていた、あの見えない扉の話を思い出して欲しい」

「ああ、あれですか。俺には普通に見えている筈のドアが、ラニサヴ達には見えなかったって言う話ですよね」

 そこまで思い返してみて、アルジェントはハッとした顔つきになった。

「もしかしてそれと同じ様な仕掛けの扉を、あのラニサヴはもしかしたら……」

 大公はそのアルジェントの予想に神妙な顔つきで頷く。

「だから言っただろう、この任務は特殊な能力を持っているそなたにしか出来ないとな」

 その理由を聞いて、アルジェントは妙に納得してしまったのである。

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