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38.大公の頼み

「ぶしつけな話で申し訳無いが、そなたにしかこれは頼む事が出来ないのだ。特殊な能力を持っているそなたにしか!!」

 一国のトップにがばっと頭を下げられてしまい、アルジェントも思わずあたふたしながら立ち上がった。

「ちょちょちょ、顔上げて下さいよ!! いきなりそんな事言われても具体的に俺が何をすれば良いのかとか分からないですから、まず俺に頼みたい事をもっと詳しく説明して下さい!!」

 そもそも特殊能力って何だ? とアルジェントは思ってしまう。

 自分がこの世界の人間じゃないと言うのは今までの経緯で良く分かったが、この世界の人間では無いからこそ特殊能力があるんじゃ無いのかと考える彼に対して大公が頭を上げた。

「……そうだったな。まだそなたには色々と話すべき事があるか」

 ふうっと一息ついて、大公はアルジェントにやって貰いたい事を話し始める。

「そなたの身体には魔力が無い。これはそなたが尾行に向いていると言う事でもある」

「尾行ですか?」


 ある程度のレベルになれば自分を尾行している事が分かる様になる、と以前アルジェントは上官から訓練の時に聞かされた事があったのだが、魔力が無い身体で生きて来たアルジェントはどうしてそれが尾行に向いているのかさっぱり分からない。

「この世界では魔力そのものが人間の気配の一部になる。勿論元から持っている気配もあるのだが、それに輪を掛けて気配が強くなる。魔力の量は生まれつきで決まる場合もあれば、後天的に身体が成長する中で体内の魔力が増えるケースもある。しかし、そなたの身体には元々魔力が無いのだから、この世界で生まれ育った人間に比べて圧倒的に気配を消す事が簡単だ」

 そこまで聞いたアルジェントは一旦納得した表情を見せるものの、まだこのミッションを受ける理由にはならない。

「だから尾行する相手にも気付かれにくいって事ですか。でも、この世界には魔術があるんですよね? だったらその魔術の中で、魔力を相手に感知させない様にする術とかってありそうな気がしますけどね。それから相手の居場所が分かる様な小物をこの世界のテクノロジーで開発して、それを事前につけたりとかもありそうですけど」

 戦術が苦手な自分の頭でさえ、こうしてすぐに思いつく様なものでも十分出来そうな尾行の方法があるじゃないかとアルジェントは大公に言ってみる。


 別に自分に頼らなくてもこの世界のやり方で尾行すれば良いだろうと言うのが彼の考えであるが、その「この世界のやり方」だと色々不都合がある様だ。

「それがそうも行かぬのだ。確かにそなたが今言った様な魔術もこの世界にはあるし、小物も開発されたばかりで一部の者しか使えないが確かに存在している。だが、問題はそこじゃ無い。騎士団長の性格と、それからその騎士団長が手を組んでいると噂されている人員を考えると迂闊にはそうした術や小物は使えないのだ」

「え、それはどう言う事ですか? かなりあのラニサヴは用心深いとか?」

 首を縦に振ってアルジェントの質問に答えた大公は、その事をもう少し詳しく説明する。

「当たっている。騎士団長と言うだけあってやはり隙が無い。その魔石の回収の時みたいな場合は例外だが、基本的にあの男には隙が無いと考えて欲しい」

(そ、そうなのか?)

 普段のラニサヴを見ていないから何とも言えないのだが、隙が無い様にはあんまり見えないのがアルジェントの彼に対するイメージである。


 続いてはそのラニサヴの周りに集まっていると思われる連中の話だ。

「騎士団長に加担していると思われる連中に関しては私も詳しい事は分かっていない。野盗であるとか、それから傭兵を雇ったとかが私が密偵に送り込んでいる騎士団員から情報としてもたらされるのだがどうもあやふやなものばかりでな。それに先程、そなたは気配を消す事が出来る魔術について聞いただろう? しかし、その逆もあるのだよ」

「あっ……」

 アルジェントは自分の考えの浅さを後悔した。

 魔術も一方通行の関係では無いらしいとなると、もし騎士団長のそばにそうした魔術を使える人間が居るとなればその魔術で尾行がばれてしまう可能性があるのだ。

「その中に魔術が使える人間が居ないとは限らないから、だからそう言うのをトータルで考えて俺に頼みに来たって訳ですか……」

「そうだ。そなたが魔力を持たない人間だからこそこうして私自らが直々に頼みに来たのだ。頼む、引き受けてくれまいか?」

 正直な所、元の世界に帰りたいだけのアルジェントにとっては別に引き受けなくても良いミッションである。

 戦いに来た訳でも無ければ、こんな危険なミッションを受けに来た訳でも無いのだ。

「……俺、別にそう言うつもりでここに来たんじゃ無いです。この世界の事はこの世界の人で解決して欲しいって言うのが正直な気持ちです。確かに俺をここまで連れて来てくれたのは嬉しいけど、でもだからと言ってそれがそちらに協力する理由にはならないですね」

 何かそれ相応の見返りがあるんだったら話は変わって来ますけど……と最後にアルジェントが呟くと、その瞬間大公の目つきが変わった。

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