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34.意外な鉢合わせ

 それに、本を読むだけではなかなか頭に知識が入って来ないので勉強をする為に紙とペンも欲しかった。

 自分の副官であり頭脳派のレナードであれば、この程度の勉強等せずとも話を少し聞いて本を読み漁っただけで大体の事を理解出来てしまうのであろうが、あいにくアルジェントには副官程の頭の良さは無かったのである。

 なので暗記が必要な勉強には紙とペンが必要不可欠なのだが、それを貰おうと部屋の外へと出たアルジェントに意外な人物が鉢合わせた。

「おや、そなたはここに居たのか」

「え、あ、あれっ!? 大公さん!?」

 さっき謁見した場所から大分離れているこの客間の方に、わざわざ大公がこうしてやって来るなんて一体どう言う事なのだろうかとアルジェントは驚いてしまう。


 だが、大公もわざわざ自分に会いに来る為にここを通ったのでは無いと言う事をアルジェントは彼自身の口から聞く事になる。

「どうしてここに?」

「どうしてって……私はこれからこの先にある応接室で客人を待たせているのだよ」

「あ、ああそうですか。邪魔してごめんなさい」

「別に構わんよ。それじゃ」

 ノープロブレムとばかりに大公はお供の者を伴って歩き始めたのだが、何かを思い出してアルジェントに顔を近づける。

「な……何ですか?」

「そうだ、そなたに言わなければならん事があった。借りて来た本はしっかりと返しておいてくれよ」

 頼むよ、と更に顔を近づけて口に出してから今度こそその来客対応に向かう大公だったが、アルジェントはそのやり取りの後にシラットの事も紙とペンの事も忘れてしばし考え込む事態になった。


(何でいきなりあんな事、俺にあの大公さんは言ったんだ?)

 聞こうと思っていた事を全て忘れてしまう位のショッキングな出来事に、アルジェントは考える事が苦手な頭で腕を組んで客間のソファーに座って考える。

 頼むよと言われた次の瞬間、2人にだけしか聞こえない程の絶妙に小さな声のボリュームでこの国の大公はこう言ったのだ。

「話があるから後でまた来る……って、俺に話? 何を話すってんだよ……」

 初対面の時からまだ時間もそんなに経っていないと言うのに、そんな自分に対して何を話すつもりなのだろうか?

 アルジェントは考え込んでみたが全然心当たりが無い。

 謁見の時に自分の知っている事やここまでやって来た経緯を全て話した筈なのに、まだ何か話があるのかと思い当たる節を探ってみるもののやっぱりその節はゼロである。

 やっぱり幾ら考えても埒が明きそうに無いので、今はとりあえず再びこの世界の事を勉強しておいた方が良いだろうとアルジェントは借りて来た本をソファーで読み始めた。


 コンコン、と部屋にノックの音が響く。

 本を読むのに疲れてソファーで何時の間にか寝てしまっていたアルジェントは、そのノックの音に目を覚ました。

「んぁ……あー、寝ちまったか」

 ゴシゴシと手袋をはめた手で顔をこすりつつ、ソファーから起き上がったアルジェントはノックの主を迎えるべくドアに向かう。

「誰ですか?」

「私だ」

 ドアの向こうから聞こえて来た声はアルジェントが聞き覚えのある声だった。

「……ああ、その声は……」

 アルジェントがガチャリとドアを開けると、そこには彼に対して意味深な事を呟いて立ち去った大公の姿があった。


 しかし気になるのはラニサヴの姿が無い事である。そもそも大公は1人でこの部屋までやって来たらしい。

「あれ? 騎士団長が居ないですけど……」

 国のトップである大公が出歩くのであれば、それこそそばに控えていてもおかしくない彼の姿が無いのが気になるアルジェントがその事について聞いてみると、大公はまたもや意味深な事を言い出した。

「実は、そのラニサヴと一緒にそなたがここまでやって来たと聞いていたのでな。個人的にラニサヴ団長の事で話をしたかったのだ」

「俺とですか?」

 騎士団長の事なら自分じゃ無くてそっちが良く知ってるんじゃないのか、と思ってしまうアルジェントだが、とにかく面と向かって聞かなければどんな話なのかも分からない以上は、大公がわざわざ自分に話をする為にここに来たその理由もアルジェントには分からずじまいである。


「護衛もつけないで1人で出歩いて大丈夫ですか?」

「何時もの事だから気にせんで良い。さて、私がここに来たのはさっき言った通りラニサヴの事についてだ。そなたと一緒にここまでやって来た、我が国が誇る優秀な騎士団の団長だ」

「はい。それで、その騎士団長の何を俺に話しに来たんです?」

 旅の途中で色々あったけど、結局自分を連れて来てくれたのは騎士団長のラニサヴだからそれについて何か聞きたいのかな? と考えるアルジェントの予想はどうやら当たっていた様だ。

 何時も護衛を付けないで出歩くと言う大公は、アルジェントに神妙な顔つきでこう尋ねて来た。

「ラニサヴの事、そなたはどう思っているのだ?」

「……はい?」

 それは一体どう言う意味なのだろうか。

 どう答えるべきかアルジェントは悩んで、結局こう切り出した。

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